就業規則は、どうして作るのか?

 労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業所に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けています。
 ただ、「法律で義務付けられているから・・・」という後ろ向きの姿勢で就業規則を作成してしまうと、就業規則本来の役割を果たすことができません。就業規則本来の役割を果たすために、前向きな姿勢で作成することをお勧めします。

就業規則本来の役割は、次のようなものがあります。
社長の思いを社員に伝える役割
期待する社員像を明確化する役割
ルール・基準を明確化する役割
労使トラブルなどのリスクを回避する役割
法令順守の役割

就業規則は、社長の思いを社員に伝えるツールです。

社長が会社をおこしたとき、必ず熱い思い(=使命感)を持っていたはずです。この社長一人一人の思いは、それぞれ独自のものであり、 同じものは一つとしてありません。また、起業してから時が流れ、現在があります。未来に向かって、

今後会社をどうしていくのか!(どのようにして生き残り、発展させていくのか)
その実現のために、社員にはどうしてもらいたいのか!(行動指針)

など、未来志向のビジョンも当然持っているはずです。

 この社長の思いは、一般的に経営理念、社長、社訓、経営方針などで表明されています。また、表明せず、社長の心の中に止められている場合もあります。 いずれの場合においても、就業規則の作成・改定を機会に、この「社長の思い」を社員に伝えるべきです。

 就業規則は、会社と社員をつなぐバイブルとも言えます。社長の思いを伝達する機会を増やすことにより、例えば100人いる社員のうちの一人にでも、その思いが伝わり、共有することができたなら大成功です。この社員は、以前と比べ前向きに自分の役割を果たし、より高いレベルの役割を果たすために、どんどん成長していきます。そして、この社員の思いや行動は、徐々に周りの社員に伝染していきます。

 では、「社長の思いを社員に伝える役割」を果たすために、就業規則はどのように作ればよいのでしょうか?

就業規則をどのように作るか。
 経営理念などの「社長の思い」を、就業規則の先頭(前文)に記載します。

 人は仕事をし、その対価として報酬を得なければ、生活が成り立ちません。お金のために仕事をすることは、紛れもない事実です。ただ、お金だけのために仕事をしているのではなく、それぞれの職業観に基づいて、仕事をしているはずです。ただ、その職業観を具体的にイメージできている人と、できていない人がいます。「社長の思い」を伝える機会を増やすことは、それぞれの職業観の具体化を助け、「何のために仕事をしているのか」を気付かせることができます。

 各条文に社長の考えを盛り込みます。

 社員には、地位、職種、能力、雇用形態などに基づいて、それぞれ役割が与えられています。 社員は、自分が与えられている役割を果たすために努力し、会社はその役割に対して報酬を支払います。 また、その役割の達成状況などにより、評価・処遇します (賞与額・昇給・昇格・役割の変更など)。

 社員は役割を果たすために仕事をし、会社は役割達成の援助をしますが、仕事の仕方や援助のしかたについて、制約やルールが必要になります。このルール一つ一つの集まりが、就業規則です。就業規則に記載する内容は、労働基準法などで最低基準が定められています。この最低基準を守ることは当然必要ですが、その後は「社長の考え方・言葉」を存分に盛り込んでください。

 例えば、労働時間ひとつをとっても、色々な考え方があります。

 これらの社長の考えを、条文に落とし込んでいきます。各条文に「社長の考え」を盛り込むことにより、「社長の思いを社員に伝える役割」を果たす独自の就業規則が出来上がります。

「社長の思いを社員に伝える役割」は、就業規則本来の役割の中でも、最も重要なもののひとつです。せっかく「社長の思い」を盛り込んだ就業規則であっても、社員に伝わらなければ意味がありません。
 「社長の思い」が社員に伝わる就業規則であるためには、「条文の一つ一つが、分かりやすい文章であること」が必要です。
 また、「社員に対して、条文の内容や意図を繰り返し説明すること」により、徐々に「社長の思い」が伝わっていきます。
分かりやすい文章であること

 生命保険の契約書や約款を実際に読んでいる人の割合はどの位でしょうか?専門用語が並んだ文章が、何十ページにもわたり印字されていて、読む気にもなれません。文章作成の目的は「契約内容を分かってもらうこと」ではなく、「読むことをあきらめさせること」であるように思えてしまいます。

 この例は少々大袈裟ですが、就業規則の中にも、専門用語を並べた難解な条文集が、多く見受けられます。これは、就業規則のもととなる労働基準法の内容や表現が難しいためと思われます。このような就業規則では、社員が理解することをあきらめてしまいます。労働基準法では、就業規則の表現を法律の言葉どおりに記載することを求めているわけではありません。労働基準法で表現している内容を、易しい言葉に変換することは一向に構わないのです。

 就業規則の文章を分かりやすいもの(=社員の頭に入ってくるもの)にするためには、以下にあげるように、ひとつ階段を下りて表現する必要があります。

脱専門用語
 難しい言葉や専門用語の羅列はNGです。法律で表現されている難解な言葉を、易しい言葉に変換することにより、社員はあきらめずに条文の意図を理解しようとします。
短い文章
 長い文章はNGです。短い文章でなければ頭に入ってきません。長い文章を、短い文章に分解することにより、社員に伝わりやすくなります。
具体的な内容
 抽象的な内容はNGです。条文の表現が抽象的である場合、社員に条文の意味が伝わりにくいばかりでなく、勝手な解釈が横行してしまいます。条文を具体的な内容にすることにより、解釈のブレを防ぎ、社員に条文の意図が伝わります。
繰り返し説明する

 就業規則を分かりやすい文章で作成したとしても、それで終わりではありません。社員の理解には限界がありますし、具体的な内容を規定したと思っていても、解釈の相違が必ず発生します。
 社員に対し繰り返し説明することにより、理解を深め、解釈の相違も防ぐことができます。また、何よりも社長の「伝えようとする姿勢」が伝わり、社員のモチベーションが上がります。いかに、繰り返し説明する過程のポイントを挙げていきます。

全従業員に、一斉に
 「社長の思い」を盛り込んだ就業規則策定時(改定時)には、 契約社員、 パートタイム労働者などの雇用形態に関係なく、すべての社員に対して説明会を行います。できれば、一つの会場に集めて行うことをお勧めします。
 全ての社員を対象にすることにより、正社員以外の契約社員やパートタイム労働者も、「組織の一員である」ことを再認識することができます。そして、就業規則の説明会のためだけに(何課の会議のついでではなく)、ひとつの会場に全社員を集めることにより、社員の本気度が伝わります。
管理職への説明は徹底的に
 現場を仕切る管理職の理解度が低いと、職場が混乱します。また、解釈の相違があると、部署間の運用がバラバラになってしまい、不公平感が蔓延し、モチベーションの低下を招きます。運用開始前に、管理職に対し徹底的に説明し理解の統一を図ります。運用開始後も、新たに発生した問題点を定期的に洗い出し、理解の統一を図っていきます。
繰り返し説明する
 そして、根気強く繰り返し繰り返し説明することにより、理解度が深まり、社長の思いが広がっていきます。