ネット・さかみち

引っこし/鈴村 真紀子

 「住みなれた部屋をひきはらい、また次の場所へ出発だ」
  私は、幾度かこんな事をくりかえしてきた。東京へ上京してきて、十年という歳月が流れようとしている。今日もまた、新しい場所へと荷造りを始めている。この十年間を振り返ってみても、引っこししてきた回数は、両手の指を数えてもたりなくて足の指まで数えてしまう。我ながらびっくりするやら感心するやらで、なんとなくぞ一つと全身ふるい立ってしまった。ざっと使った資金を計算しても二百万をこえてしまっている。なんとまあ二百万もの大金が泡となって消えてしまっていたなんて、なんてもったいないことだ、いつも「今度こそは、長く住むんだ」と心に誓い、引っこしをするのだけれどもやっぱり落ちつくことが出来ず、次の場所へといそいそと足を運んでしまう。どうも放浪癖があるようだ。しかし、こんな事ばかりくりかえしていたのでは、本当に自己破産になるくらい引っこしをしてしまうのではないか心配である。

 いつだったか、友人に「マキちゃん貯金いくらもっているの」って聞かれたことがあり、毎日がぎりぎりの生活で貯金どころではないことを言うと、あきれられた事があった。その時、とってもみじめな思いで部屋の帰り道(引っこしさえくりかえしていなければ二百万という貯金があったかもしれないのに)と、心の中でぶつぶつとつぶやいた自分に、情けなさを感じた。しかし、なんだかんだその時風っていても結局、また引っ越しをくりかえしてしまうのだろう。事実今も、部屋の中では荷造りしたダンボール箱の山があっちこっちと置かれている。これから先、何年生きていけるか未知なる世界だけれども、私はきっとまたひとつのドアを締めた時(今度こそ落ちついて幸せな暮らしができますように)と願いをこめ、引っこし車を走り続けることと思う。

1994年 さかみち 2号より
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