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四季/島田 光英

 単車という極めて不便で、乗っているだけで合理的な大人達から眉をしかめられる乗り物がある。私は単車と移動の手段として単車を選ぶ人が好きである。快適な移動を望むなら四輪を選べばよい。単車でなければならない人は様々なリスクと引き換えにそれゆえに得られる大きな感動と満足を手にするのだ。

 私の父は私が生まれる以前単車に乗っていた。古いアルバムの中に父と母が本田のマークの付いた単車に二人で跨り笑っている写真を発見してからは、本田以外の単車には乗らないことを私の決め事とし、それから二台の本田に乗り二台目の本田の後ろに乗せたのが来年妻となる今の彼女である。

 先日指輪を買うために単車を処分した。今一番欲しい物を買うためにした事なので後悔はないが、様々な季節が懐しく思える。

 春は海、まだ肌寒い初春にすいている134号線を通り葉山の高台まで一気に駆登ると眼下に広がる夏には見ることの出来ない広々とした湘南が目に映る。

 夏は川、ヘルメットを被るだけで汗が滲む単車には不向きの季節は川添いを上流に向かって走る。大きな岩と冷めたい水、都会ではうっとうしかったセミの声もここち良い。

 秋は山、残暑の残る街から秋真っ盛りの山深くまでを一日で体験する。単車にとって最も快良い季節であり、都会から近い峠道では擦れ違う単車どうしが合図を送り合い、わずか一日でも旅の気分を満喫させてくれる。

 冬は街、騒がしく空気は汚れ、慌だしく時が流れる街は足を止めたくはならないが、夜の街は好きである。とりわけ夜の西新宿は気に入っている。冬のオフィス街は夜になると夜景が美しく、時間の流れが穏やかで空気だけがピンと張りつめている。温かい缶のコーヒーが一番嬉しく思える時である。

 少しの時間でも単車に乗ると四季を感じる。またいつの日か、新しい発見をしたいものである。三台目の本田と共に。

1995年 さかみち 3号より
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