ネット・さかみち

「いつもありがとうございます」/倉本 小百合

 この勤勉で明るく温かい鈴木事務所にお世話になって、早一年がすぎました。

 この間、私の言動等でどなたかを不愉快にさせていたとしたら、どうかお許しくださいませ。悪気なく只不器用な性質ですので。事務所の皆様は各々個性的で素敵で、たいへん勉強させられ、心から感謝しております。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

 ところで、感謝しているものが他にもあります。この神楽坂を基点とした四季の移り変わりは、通勤中、仕事中、いつもほっと心のなごむひとときを与えてくれるのです。一番のお気に入りは、朝夕2回乗り降りするJR御茶ノ水駅のホームから見渡す神田川を挟んだ向こう側。春は一面瑞々しい萌黄色の木々や草、初夏はぷーんとむせ返るようなラベンダー色や真っ白や清らかな黄色の花々、夏本番は凄まじい蝉しぐれを降らせる新緑の木々、秋は風になびき点々と咲く曼殊沙華、冬は裸の林と野原の一面の枯茶色…そこは傾斜のあるちょっとした庭のような川原なのですが、それも朝夕空気の色の違いからなのでしょうか、一日二回又楽しめて、体丸ごとその中にトリップしてしまう、私の秘めやかな夢の世界なのです。
  二つ目は、JR飯田橋駅前の橋の上から望む市ヶ谷方向の風景。夕暮れ時の神田川のキラキラ輝く水面と、並行して走るオレンジ色や黄色の電車、そしてそれらを優しく抱いたり、襲ったりする大きな空。新しい石畳の橋がなぜか懐かしく想えてしまう。三つ目は、飯田橋から市ヶ谷方面に続く中央線を見下ろす小高い桜の並木道。春も夏もいつでもあそこは素敵。十代の私にタイムスリップできる。四つ目は、大久保通の少し坂上にある白銀公園。まず名前に魅かれる。ここは小さいけれど、晩秋はさぞかし銀杏が眩しいのでしょう。桜も美しいと聞く。そして、最後はやはり、神楽坂。街路樹の風情もさることながら風の色、匂い、道行く人々の息づかい、笑い声、日のあたる坂道、秘めやかな路地小路、そこには、決して派手ではない綿々と大切に大切に営まれる生活・・・がある。

 東京のど真ん中とはいえ、こんなに自然が美しく街と人としっくりいいハーモニーを奏でている。田舎育ちの私にとってはそれらに触れるたび、心が清らかな水をあびたような気持ちになるのである。本当にありがとう、そしてこれからもどうぞよろしくね。

1996年 さかみち 4号より
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