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僕のピンボール外交/笹島 敏邦

 日本がサッカーでブラジルに勝った。アトランタオリンピックでのことである。歴史的な勝利で日本中が大騒ぎしている中、一人のブラジル青年にことを思い出した。

 7、8年前のことである。どのようなキッカケがあったのか忘れたが、その青年とピンボールを一緒にするようになった。ピンボールとは、ゲームセンターの片隅に設置されている玉を弾くゲームのことである。それぞれ百円づつ出し合い、交互にプレーするのである。彼の腕前はなかなかのもので、よくハイスコアを出していた。私はヘタクソで、すぐにゲームオーバー。そんな私を彼は指差して笑っていた。彼のことと言えば、日系ブラジル人であるということ、私より5歳若かったということぐらいしか覚えていない。

 失礼な話だが名前も忘れてしまった。そう言えば、顔はアンパンマンによく似ていた。彼は日本語があまり理解できないらしく、私の方はあちらの言葉など判るはずがない。それでもカタコトの日本語とボディランゲージだけでコミュニケーションは充分成立していた。二人はよくニヤニヤしていた。結構楽しかったのである。ハタから見ると怪しい二人組であったのに違いない。

 この怪しい二人のピンボール外交は、週一回程度開催されるようになっていた。私も回数を重ねるごとに多少技術が向上し、たまには彼よりも高得点を上げるようなこともあった。そんな時、彼は顔をまっ赤にして本気でくやしがっていた。

 せっかくいい勝負をすることができるようになったのに・・・。一緒にゲームをするようになってから半年後ぐらいだったか、彼がブラジルに帰ることになった。帰国の前日、ゲームをしながら、青年に一つ質問した。

 「日本に、もう一度来ますか?」

 青年は答えず、黙っていた。その時の私を見る彼の目は、外国人が日本人のことを見る目と同じモノであった。気を使ったのだろう、直後、彼はニヤニヤしながら頷いてみせた。

 先日久しぶりにゲームセンターに行ってみた。

 もちろん彼の姿はなかった。

1997年 さかみち 5号より
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