ネット・さかみち

私とすずき事務所と山のぼりと/鈴木 光江

 私がすずき事務所で働くようになって、早くも6年がたってしまった。

 中高年になっての転職は、勇気のいることだった。フルタイムですでに経理の仕事をしていたが、ふとしたきっかけで勉強を始めた社労士の仕事がしたくて、暇な月の中旬に休暇をとっては職安通いをしていた。

 面接にも3、4か所行ったと思うが、この事務所に面接にきた時は大雨で、しかも仕事を終えてからきたので、すでに秋の日暮れも早く、足はびしょぬれ、古い靴でストッキングまで真っ黒になってしまっていた。精神的に落ち込んでいた日々が続いていたので、みじめな気持に拍車がかかり、二次面接の電話を受けたのが不思議な気がした。考えてみれば私と同年齢の子を持つ所長のお情と一人納得して、今に至っているのである。

 あの時びしょぬれの安物レインコートを丁寧にハンガーにかけてくれた、今は結婚退職したIさんの優しさも、忘れられない思い出である。

 その頃は同じ飯田橋駅でも東口でビルの八階と九階に分かれて仕事をしていた。私は八階に所属したので、毎日何回となく行ったり来たりすることになり、エレベーターでは待ちきれず階段をかけて昇り降りしていた。

 社労士試験に合格した後、日曜日に勉強する必要がなくなって、いつの間にか山に行く様になった今思うと、もしかしたら、その頃から、足慣らしをしていたのかとも思う。

 今年は目標を軽くクリアして、40回の山行を重ねて年を終えそうである。年頭には考えてもいなかった北アルプスに、二度も行く事が出来たし、あこがれの高山植物の女王、コマクサも目にした。朝もやの中でひっそりと群落して咲く様は見事である。先日は、中禅寺湖を見おろす山で、野生の鹿にも遭遇した。

 来年は、話だけしか聞いたことのない熊もちょっと見かけてみたいと、危険な事まで考えてしまう今日この頃である。

1998年 さかみち 6号より
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