ネット・さかみち

黒澤映直と私/植田 秀樹

 昨年九月六日、映画界の巨匠、黒澤明監督が他界されました。
 彼の作品は日本人のみならず世界中の映画人に影響を与 えたのを知るにつれ、自分の感動が世界中の人々と共有されていることの偉大さを感じました。「用心棒」や「椿三十郎」を観ているうちに、おやこの展開、この小気味良いテンポはどこかで観た覚えがあると思ったら、スピルバーグ監督の「レイダース」さらに、K・コスナーの「ボディガード」だったり、「隠し砦の三悪人」の最後の場面を観た時には思わず「スターウオーズ」のエンディングだ! と叫んだものです。

 そして、「七人の待」を観た時の驚き。
 ヒーローものばかりを観て育った自分にとって次々と死んでゆく主人公たちのリアリズムは衝撃でした。一緒に観終わった知人が映画館を出た時、「三船敏郎が出てなかったね」というのを聞いたのが印象的でした。それ位三船さんも若かった。

 名画座で「影武者」と二本立てで観た「羅生門」も衝撃でした。何の前知識もなく観たこともあり一体何が真実なのか、その映像世界にぐいぐいと引き込まれてゆく快感、それと同時に世の中のできごとというのは様々な角度から見ることによってどれもが真実になり得るのかもしれないという、何だか不思議な体験をした気持ちになったのを覚えています。
 それに比べると一緒に観た「影武者」も世界的に大変な評価を受けた作品でありながら途中でどうしょうもなく眠くなってしまったのを思うとやはり「羅生門」がいかに黒澤監督の脂の乗りきった頃の作品だったのかということを感ぜずにはいられませんでした。

 さらに彼の偉大な所は「生きる」のような日本の官僚組織、ひいては日本人、そして人間が〃生きる〃とは、を問いか けた作品を作った点にあるのではと思わない訳にはいきません。

 最後に、これらの作品が当時の日本ではさほど評価されていなかった所に、ますます彼の魅力を感じてしまうのは私だ けでしょうか。

1999年 さかみち 7号より
back close next