ネット・さかみち

幻のパリ/植田 秀樹

 “パリ”はフランスの首都、文化・芸術の世界的中心地であり、私も学生時代には「巴里のアメリカ人」だ「凱旋門」だ「勝手にしやがれ」といった映画を観ては異郷に心を馳せていたものでした。そんな私が本当にパリの土を踏めるとは夢にも思いませんでした。三年前、新婚旅行でその夢がかなった時、私は子供のように喜んだものでした。新婚旅行といえばオーストラリアやハワイが定番の昨今、周りの友人達や旅行代理店に勤める知人にも「十二月にヨーロッパに行って一体何があるの?」と訝しがられましたが飛行機でたまたま隣り合わせた方が「夏は外国にいくらでも素敵な所はあるけれども冬のヨーロッパ特にパリは他の季節にはないきらびやかさがありますよ」という言葉通り凱旋門に続くシャンゼリゼ通りはクリスマスに向けてのイルミネーションで彩られ、夜のセーヌ川にはロマンチックな光をたたえた客船が、そして冬の空に映えるエッフェル塔「オペラ座の怪人」で有名なオペラ座「ノートルダムのせむし男」を思い出させるノートルダム寺院…本物を目の前にすると当たり前のことながら「ここは日本じゃないんだなあ」という感慨が胸を満たしました。パリというのはあまり晴れる時が少ないらしく私たちが着いた時にもガイドさんに「もう二週間も雨続きです。」といわれましたが翌日の観光時には私たちを含めてたった二組のカップルを乗せた大型バスが真っ青に晴れ渡ったパリを案内してくれました。凱旋門の最上部に登り見おろすパリの街並み。本当に凱旋門を中心に通りが放射線上に走り、その景観は“花の都パリ”の名にふさわしい旅の万華鏡でした。ここでイングリッド・バーグマンとシャルル・ボワイエが、シャンゼリゼ通りでジャン・ポール・ベルモントとジーンセバーグが出会いエッフェル塔の前ではオードリー・ヘプバーンが乱舞していた映画の場面が頭をよぎり、パリでの最後の夜にはまるで大金持ちになったかのように車で送り迎えのディナー。どれもこれもがすばらしい思い出になりました。

 さて、そんな満ち足りた思いで日本に帰り思い出の沢山詰まっているカメラを現像に出した時、何とフィルムが巻かれていなかったとやらで写真がまるでダメになっていました。思えば凱旋門の上でガイドさんに写真を撮ってもらっていた時、手ごたえのないシャッターに「これ本当に写ってるのかしら」「全然撮れてなかったりしてネ、ハハハ・・・」などと気楽なことを言っていた情景が目に浮かびました。「パリは良かったなあ・・・」とたまにつぶやく私に妻は今でも「パリに行った証拠はない」 とポツリ。今度は銀婚式か金婚式に行ければ・・・と思っています。

 ああ、幻のパリ。

2000年 さかみち 8号より
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