ネット・さかみち

演奏会/植田 直子

先日ある楽隊の定期演奏会へ出掛け た。私自身、吹奏楽とか絵画鑑賞と言った芸術的なものに関して全くと言っていい程に知識がなく、ただ聴いているだけー、観ているだけーの感覚でしかないのだが、機会があれば足を向けている。先日はそんな中、あ一聴いたことあるっー、これは初めてだなあ~と自問自答しているうちに一人の友人のことが頭を霞めた。

彼女と私はかれこれもう知り合ってから二〇年になろうとしている。入社試験日が一緒でその後晴れてお互い採用され、地方出身の我々は同じ社員寮へ入寮した。私は経理部、彼女は電算室へ配属されたが、入社半年後、組織改正があり電算室の一部が経理部と合併することとなり彼女達が我々の部へやって来た。電話を受けるのは新入社員の私達だよねと、お互い競い合う様に電話を受けた。内線外線問わずお互い本当によく電話を受けた。部は同じだが課は違った。だが席は近く、一瞬の差で受け損なった方は、「ハイ、経理部です。」と答えている相手より、ピースサインをおくられることになる。むかし昔の思い出である。

その頃の二人の合言葉は“良い思い出作り”であった。彼女は学生時代からフルートが好きで吹奏楽部に所属していた、そうだ。入社二~三年後、当時、私の部屋の隣りが彼女だった。ある日部屋をのぞくと「これ私の財産。」とピカピカのフルートを嬉しそうな顔で磨いていた。会社のサークルに入会し、演奏会が近づいてくると隣りの部屋からフルートの音色が流れてきた。彼女の参加する演奏会に私は何度も出掛けて行った。その後、結婚し育児に追われそんな時間もなかった彼女だが、ここにきて、地元のサークルに入り練習を再開したそうだ。子育て、姑問題様々な日常の問題から少しでも離れる時間が欲しいと。そして今は“自分探し”をしているのだとか。そんな彼女を素敵だと思う。

又、演奏会に招待してもらえることを楽しみに、過ぎてしまった時を思い出しながら、その日の定期演奏会に耳を傾け、心地よい静かな心の時を楽しんだ。彼女は“良い思い出作り”から“自分探し”へと楽章を進めている。

2002年 さかみち 9号より
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