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食わず嫌い克服/田中 美津子

最近「食わず嫌い」の本を読むようにしています。子供の頃や学生の頃は、本を読む時間も多く、好きな作家や深く影響を受けた作家もいました。
 就職し社会に出てみると、本を読むことよりも、もっと刺激的で楽しい事ばかりで、暫く読書自体から遠ざかっていました。その間に縁あり結婚、出産、育児と人生で初めて経験する「自分だけ」ののんびりした時間を持つことが出来ました。日常的には外出がままならず、三食昼寝付・TV漬けの毎日の中で、ある日友人と話しているうちに自らの語彙のあまりの少なさ、興味対象の狭さに愕然としました。
 感情や情景を擬音や繰り返しの単語でしか表現できないのは、私の中で消化不良になりましたし、会話が成立しないことは恐怖でさえありました。「自分を変えたい!」と思う時、突拍子もない行動への勇気を与えてくれます。私はあえて、今まで読んだことの無い分野、無視してきた分野の本を読むことにしました。新しい物を食べると言う意味で、「食わず嫌い」克服は、私を大きく変えてくれそうだと思ったからです。
 それらは全く、新しい空気と匂いを持っていました。哲学心理学、女性学、古典など・・今までなんと勿体無い事をしていたのだろうと思う事ばかりです。学生時代に読んでいれば又違ったのに、とも思い、いやいや今だからこそ、その表現へ素直に驚きと感慨を覚えることが出来るのだ、とも思うのです。何故か、食わず嫌いの本を読み終えると趣味の本以上に愉快な気持ちになり、いつまでも鮮烈に覚えています。ものの見方も今までよりは多面的になりましたし、もっと知りたい欲求が高まってきました。語彙が増えたかは、友人の判断に頼るしかありませんが、互いに読後を話せる楽しさは日常をひと時忘れさせる何とも嬉しい時間です。
 それに、本自体は、読む世代を選ばないのだなぁと感じます。私は、絵本が嫌いでした。娘の絵本を選ぶ際、「20歳以上の絵本ならお勧めです。(初版より二十版以上刷られている絵本の事です。)」と薦められた時も、これらは実際私の趣味とする色使いでもなければ、お話でもありませんでした。が何度も読み重ね、話し重ねると、しみじみと胸に明るく、暖かく、美しい気持ちで満たしてくれます。
 今も「食わず嫌い」克服をしに、書店の中でウロウロとしています。
 昔、母が「本棚を見れば人となりが理解る」と言っていました。それから、何度か人様の本棚を見ることができ、私と似た趣味の本を持つ人もいました。今、主人の本棚は、「食わず嫌い」の本が大半です。私の「食わず嫌い」克服は、意外にも続くのかもしれません。

2004年 さかみち 11号より
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