ネット・さかみち

せみの変身/原 圭子

今年の夏、小学校一年生の息子が脱皮前の蝉の幼虫(?)を二匹持ち帰ってきた。カーテンに着けておけば朝には蝉に変身するらしい。もぞもぞカーテンを這い上がる姿はなんとも言えず、つぶらな瞳が私の目には可愛く映った。その晩お風呂に入っていたら、「脱皮してるよおー」との声に、私は明け方に脱皮するのではないんだなあっと、妙な感想を思いながらとりあえずお風呂から出て行ってみた。

二匹とも脱皮を始めており、見た瞬間「これはすごい!ビデオを撮らなきゃ、カメラ、カメラ、携帯でも撮らなきゃ」と大慌てで撮影に入った。一匹目は見事成功。体の色は半透明で白っぽく、徐々に黄緑色に色付き羽も綺麗に伸びた。コウモリみたいに逆さにぶら下がって出てきたのが、ある程度出てきたら自分の力で腹筋をし、頭を上にして方向転換をした。子どもたちと「おおおー、すごい、頑張れ!」と声援を送った。もう一匹は失敗してしまい、羽が縮れたまま時間が経っても伸びることはなかった。脱皮に失敗した蝉は、羽を動かそうと懸命に努力していた。それを見た息子と私は、命の大切さ、尊さをしみじみと感じていた。その横で4才の娘が「死んだら菜っちゃんにちょうだいね~♪」とデリカシーの無い言葉を掛けてきた。「まだ生きてます(怒)」と二人からたしなめられたのは言うまでもない。

翌朝にはすっかり普通の油蝉に変身していた。私には、赤ちゃん蝉が青 年からおっさんに急に変身してしまったようで、ちょっと妙な気分だった…。

2005年 さかみち 12号より
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