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映画「アメリカばんざい」を見て / 田辺 初枝

1980年台、福祉重視政策だったニクソン大統領とは対照的に、第40代大統領レーガンは、効率重視の市場主義を基盤にした政策(大企業の競争力を高めるため、規制を緩和し、法人税を下げ、経済を上向かせ、労働者側に厳しい政策を許し、社会保障を削減する)を打ち出しました。その結果、安価な海外諸国の労働力に負けた国内の製造業はみるみるうちに力を失い、労働者達は続々失業者となり、中間層は貧困層に転がり落ち、代わりに主流となったサービス業を中心とする超エリート層が台頭し、国内の所得格差が急速に広がりました。米商務省の統計局は8月、07年の所得、貧困、健康保険についての統計を発表しました。それによると06年度比較で、貧困人口は3,650万人から、3,730万人に増加し、実にアメリカ人の6人に1人が年収220万円以下の生活をしていることになります。今年になって、本「貧困大国アメリカ」、「アメリカ超格差社会」「窒息するアメリカオフィス」映画「シッコ」に加えてドキュメンタリー映画「アメリカばんざい」を見ました。映画は、貧しい層(特に若者)を中心に、戦争をし続けるシステムの中で、学費欲しさに入隊する高校生、子どもが戦死し嘆き悲しむ母親達、戦争地帯から帰ってきたもののPTSDに悩まされ、立ち直れない若者、薬物中毒となり復帰できずにフォームレス化し、やがて仲間同士で乱闘、殺人に行き着く姿も追います。又、テキサス州の元空軍基地跡に住む住人の実に80%が、甲状腺ガンに侵され、ついに住民が告発します。そのような中で、新兵勧誘地前で「若者を勧誘するな」のプラカードを持ち、ポスターを張出し、手錠をはめられ何度逮捕されても、その行為を辞めない女性達(年配者が多い)の逞しさがとりわけ注目されます。

 日本は先進国の中でアメリカに次ぐ貧困率、一億総中流時代と言われた時期もありました。しかし、今さまざまな分野の格差が広がっています。中でも我々の業務範囲の社会保障分野。02年医療保険改正において、サラリーマンの患者負担が3割に引き上げられ、診療報酬本体部分の史上初の引下げが行われました。そして06年7月に閣議決定された「骨太の方針2006」で、5年間に1兆5千億円の社会保障費抑制が打ち出され、毎年2,200億円の歳出削減が始まりました。その結果、年齢で医療を差別する後期高齢者医療制度にまで行き着きました。中小企業の実に75%(9人以下の事業所)が加入している政府管掌健康保険、それも、この10月から民間に移行となりました。そしてそれは、地方ごとの格差に発展し、高齢者の多い県などは大幅に保険料をアップせざるを得なくなるでしょう。やがてアメリカのように公的保健が縮小され、医療費のために自己破産するケースに行き着くのでは?社会保障や労働は社会の安定につながるものです。戦後、貧しかったけれど、若者が夢や希望を持てた、一億総中流時代の社会であって欲しい。今後、決して社会がアメリカのように、若者の夢を奪ってはならないと考えるのです。

2008年 さかみち 15号より
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