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祖父との約束 / 横島 洋志

3年前の3月、私は祖父と二人で筑波山温泉に行った。そこで祖父とある約束をした。

祖父との二人旅は3回目だった。過去に花巻温泉(岩手)、四万温泉(群馬)に行ったことがある。その当時、私はまだ学生で、祖父は80歳を過ぎていた。ゲートボールや畑仕事などをしていたので足腰は元気だったが、花巻温泉に行った時はさすがに歩かせすぎてしまった。宮沢賢治記念館や平泉の中尊寺など坂道が多いところをよく歩いた。そのため、祖父はその夜、足が疲れてなかなか寝付けなかった。そんなこともあったが、元気な姿に感心し、何だかうれしい気持ちになったものだ。それからしばらくは二人での旅行はなかった。
 4年前の5月から約1年近く、私は実家に戻っていた。会社を辞めて職業訓練を受けていた時期で、この頃は祖父と過ごすことが多かった。

夕方になるとよく一緒に散歩をしていた。私自身の運動不足解消もあったが、当時の祖父はあまり外に出ない生活が続くようになっていたため、気分転換と運動を兼ねていた。「ちょっと運動しようか?」と声をかけ、祖父は自転車に乗り、私はそれを追いかけるように走る。家を出て田んぼ道を川沿いの土手に向い、土手の上を、夕陽を眺めながら走り、また田んぼ道を通って家に戻っていくというのがお決まりのコースだ。

そして3年前の3月、その翌月から(前職の会社に)就職が決まっていたので、時間のある今のうちに「温泉に行こう」と祖父に話を持ちかけたのである。あまり遠出することもできないので、地元である茨城の筑波山温泉に行くことにした。祖父は歩くのに杖を必要としていて、以前のように歩きまわることはできないが、久しぶりに出かけることとなり、お互いに楽しみにしていた。

  筑波山温泉は、つくばエクスプレス(TX)が開通してからというもの観光客が一気に増え、今や人気の温泉スポットとなっている。車でつくばまで行き、温泉に向かう前につくば駅に行った。一度、祖父をTXに乗せてあげたかった。途中の守谷駅で下車し、駅をバックに祖父の写真を撮り、少しゆっくりしてからまたつくばに戻った。ちなみに、後にここ守谷に住み、毎日TXに乗ることになるのだが、今思えばこれも何かの縁なのだろう。

  筑波山を少し観光してから旅館にチェックインした。部屋を案内され窓際の椅子に腰かけてから、私は自分の持っていた携帯電話を手にして、正面に座っている祖父の姿を撮った。祖父はその日、帽子をかぶり、おしゃれをしていた。旅の思い出にそれを残しておきたいと思った。すると祖父はこう言った。
「ひろし、その写真、おじいさんの葬式の時に使ってくろ。」  (それはまだ先の話だろ)と思いながら、よく撮れた写真を見て、
 「分かったよ。」 と、私は答えた。その後、その旅館の目玉である展望露天風呂で関東平野を一望し、翌日、私たちの旅は終わった。

  あの時の約束は昨年、果たされることになったわけだが、まだひとつ果たされていない約束がある。 そう、たしか、嫁さんを見せてくれだったかな。それはもう少し待ってもらおう・・・。

2009年 さかみち 16号より
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