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ムッシュはつらいよ/西谷 知恵

 1969年からスタートをした映画『男はつらいよ』シリーズ。
最近では、フランスの国民的飲料の日本初リリースにあたり、寅さんのキャラクターをリチャード・ギアがCMで演じるなど、シリーズが終了した今も、日本人にお馴染みの映画です。

私が子どもの時に、父の寅さん好きがきっかけで、よく家族で一緒に見ていました。

出演するキャラクターも独特で、中でも愛嬌があって懐が大きいけれど、いつも片想いで終わってしまう〝瘋癲の寅次郎〟は、子供ながらに親しみを持ちました。

人情深く、恋した女性を想うばかり、自分の幸せを譲ってしまう不器用な寅次郎ですが、おいちゃんとおばちゃんには、気苦労や心配をかけた不幸を素直に謝る気持ちがあるのです。

『寅次郎 恋やつれ』では、寅次郎が夢を見ます。
ようやく花嫁を連れて帰って来たにも関わらず、既におじ夫妻は亡くなっていたのです。
紹介が出来なかった悲しみを「おいちゃん、おばちゃん、今度は一人じゃないんだよ。
嫁さんを連れてかえってきたのに、それなのになぜ死んじまったんだよ!」と涙ながらに語ると同時に目を覚ますシーンです。

寅次郎は、旅から帰るととらやの茶の間で、旅先での土産話しをします。
おいちゃんやさくら、タコ社長は「また始まったよ・・・」といつものホラ話しを聞き流しているのに、その中で一人、三崎千恵子演じる 〝おばちゃん〟はいつも温かい表情をしているのが印象的でした。

情にもろいおばちゃんは、寅次郎の事を出来の悪い息子のように思っていながらも、時に涙しながら、いつでも真剣に話を聞くのです。
寅次郎にとって、親身に思ってくれるおばちゃんは、心の拠りどころだったのでしょう。

私が子供の頃は、寅次郎の生き方に注目していたけれど、大人になってあらためて映画を見ると、おばちゃんのように一人の女性として「家族や誰かにとっての心の拠りどころになりたい」と思いました。

2012年 さかみち 19号より
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