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紛争解決手続代理業務試験を受けて/土井 牧子

 「秋は休みがない!」これが紛争解決手続代理業務試験を受ける場合の共通認識である。
私は、去年(2012年)休みがないことを覚悟の上で、受験することにした。
 そもそも紛争解決手続代理業務試験というと、あまり聞き慣れない試験ではないかと思う。
2007年に新設された国家試験で、社会保険労務士(以下社労士)の業務拡張を目的としてつくられたものだ。
社労士がこの試験に合格して、社労士名簿に合格した旨を付記することで、特定社会保険労務士(以下特定社労士)と名乗ることができる。
業務としては、労働者と事業主間で労働トラブルが起こった際に、労働局の紛争調整委員会や民間ADR機関にあっせん申請等を行う場合において、どちらかの代理人としてとして答弁することができる。

 以前あっせん代理権限は、弁護士のみに付与されていた。
業務拡張に至った経緯としては、何といっても、労使トラブルの急増によるものが大きい。
未払い残業・不当解雇・セクハラ問題等、新聞やテレビ等のメディアで労使トラブルの裁判判決をニュースで目にする機会も増えた。
しかし、裁判になれば費用も時間もかかる。
そこで訴訟の前に、双方の和解の機会としてあっせん制度を活用してもらおうという趣旨だ。

 業務拡張となれば、皆社労士として挑戦すると思われそうだが、受験を決意するのは容易ではない。
受験をしようとして二の足を踏んでしまう最大の原因は、私もそうであったが受験資格を得るための特別研修にある。
特別研修とは、9月から11月の主に土日に行われる講義の視聴とグループ研修、さらに弁護士の先生による対話形式の研修で、すべて遅刻・早退・欠席なく参加しなければならない。
受験者は、平日通常勤務をこなし、休日研修に行くという生活を余儀なくされる。
また、11月の最後の研修の当日に試験があるため、試験勉強も同時並行で必要だ。
まさに2か月間、修行僧の修行のような毎日が続く・・・。本当に休みなしだ。

 私も受験の必要性を感じながら、なかなか挑戦できなかったのだが、思い切って修行僧生活に突入した。
研修自体はもちろん体力的に厳しく想像通りであったが、試験に受かるという目的以外にも得るものが多く、嬉しい誤算もあった。

 その中の一つは、グループ研修で知り合った他企業・多事務所に勤務する社労士の方との横のつながりができたことだ。
今まで社労士会の交流会などに参加することがなかったため、事務所外の社労士の知り合いはほとんど無いに等しかった。
グループ研修は、10名でグループを作り、意見を交換しながら答弁書を作成する作業をするため、連帯感が生まれ距離が縮まるのだ。
研修・試験が終わった今でも、2か月に1回程度、情報交換会という名の飲み会が続いており、私にとって非常に良い刺激を受ける場となっている。

 二つ目としては、法律・判例をより意識して業務を行うようになったことだ。
今までは、労務関係の手続き・コンサルティングが業務内容としてのメインであるため、法律職ではあるものの、あまり判例などは意識していなかった。
しかし、研修で多くの判例や民法の観点からの考え方・手順を視聴する中で、業務に生かせる部分も少なくなく、社労士として身につけるべきなのに知らなかったことを学べたと感じる。

 三つ目としては、仕事のモチベーションが上がったことだ。
勤続何年か過ぎると、慣れて業務効率が上がる反面、同じ仕事を毎年繰り返しているような感覚に陥ってしまう。
研修を受けることで、まだまだ自分の足りない所を認識し、向上心が湧いたのだ。
 そんなこんなで研修が過ぎ、11月に試験を受け、3月の合格発表で無事に合格することができた。
発表を見たときは、結果に心底ほっとしたが、それ以上の満足感・達成感があった。
秋休みをなくすだけの成果を得た良い経験として、私の中に残っている。

2013年 さかみち 20号より
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