ネット・さかみち

眼鏡/安孫子 千夏

 初めて眼鏡を買ったのは10年ほど前。
あれから、同じ眼鏡を使い続けていた私に転機が訪れた。

 それは、運転免許更新の視力検査のとき。
「はい、これは?」「えー、右、かも」「じゃあ、こっちは?」「あー、下、かも」・・・
どうやら正解したようで、免許証を手に帰ることができた。しかし正直ほとんどがぼやけた丸にしか見えなかった。
「よし、眼鏡を買いにいこう」

 そうして私は新しい眼鏡を手に入れた。
ビルの看板も、道行く人の顔も見える見える!見えすぎで頭をクラクラさせながらもご機嫌で家に帰った。
視力が落ちたといえども、新しいものはやっぱりうれしい。
帰宅後、「どれどれ、新しい眼鏡は似合ってるかしら~」と早速鏡の前に立つや否や愕然。
私の顔に見たこともないシミ君がたくさんいるではないか。
隣のお風呂を見るとカビちゃんも!(お風呂の掃除だけは毎日欠かさないことが私の唯一の自慢だったのに!)その晩はうなだれて、お風呂の床を磨いた。

 翌日、私はデパートに走り、眼鏡の倍の値段のする美容液やファンデーションなどを買い込んだ。
それから毎日、生まれて初めて買った高価な化粧品をせっせと塗り込んでいる。
 次に眼鏡を買い替えるのはいつになるのだろうか。
その日が来るのが今から恐ろしい・・・。

2013年 さかみち 20号より
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