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高校生就職ガイダンス/吉田 達生

 当事務所にお世話になる以前、私は開業社会保険労務士として登録をしておりましたが、実態はほとんど顧問先がない開店休業状態であり、大部分は講師の仕事を生業にしておりました。各企業へお伺いしてのコミュニケーションスキル講座の開催、資格予備校での社会保険労務士受験講座、求職者支援訓練でのワークガイダンス等々、いろいろな場面において大勢の方々の前でお話をさせて頂く機会を頂きました。そのような講師稼業の中で一番思い出深く、また機会があればぜひ登壇したいと思っているのが、「高校生就職ガイダンス」です。

 「高校生就職ガイダンス」は、厚生労働省が主管し、毎年2年生から3年生に進級する時期の春休み、及び3年生の夏休みに全国の高等学校に出向き、卒業後の進路において就職を希望する生徒に対して就職に向けた心構えや自分に適した仕事を選ぶための考え方、さらには模擬面接に至るまでの指導を丸一日にわたって実施するものです。私は主に東北各県を中心に担当させて頂きました。

 当日朝、受講する生徒の数にもよりますが、3名から5名の講師(午後から実施される模擬面接の関係でおよそ生徒15名に1名の割合で依頼を受けます)が学校の最寄り駅に集合し、学校に向かいガイダンスの準備をします。その間に管轄のハローワークの「学卒ジョブサポーター」の方もオブザーバーとして参加するために来校されます。そして、ほとんどの場合朝9時からガイダンスが始まります。

 ほとんどの生徒は春休みや夏休みといった授業のない期間にわざわざ学校に来なければいけないというあまりテンションが高くない状態で登校し、ガイダンスに参加しますので(このガイダンスが始まる時点では思ったほど自分の将来に対して真剣に向き合ってない印象を受けますので)、講師が元気よく
 「はい!皆さん、おはようございます!」
と挨拶をしても、「あざ~っす・・・」というテンションの低い返事しか返ってきません。

 そこからガイダンスは、プロローグ「高校生の就職環境を理解しよう」に始まり、生徒に楽しみながら就職活動について学んで頂くために、コミュニケーションについて学ぶ「図形伝達ゲーム」や採用する立場で就職について考えてもらう「会社づくりゲーム」を行ったり、講師がこれまでの社会人経験(特に新人時代を中心に)の話をするなどしながら講師全員が生徒一人一人に寄り添い心を開きながら、生徒自身が自分の将来に向き合うためのサポートを行います。
 そして、午後からはグループに分かれて模擬面接を行います。私の場合にはこれまでの高校新卒の採用面接の経験をもとに生徒にとっては多少厳しい指導を行うとともに、面接官が何を見ているかについて指導を行っていました。

 そして、全てのカリキュラムが終了し、全員が揃ったところで講師は、
 「最後に今日一日、皆さんを見守って下さった就職指導担当の先生方、そしてハローワークの学卒ジョブサポーターの方々に皆さんがこれから頑張りますという決意を挨拶で表しましょう!」
と促します。
 すると、生徒全員が先生方や学卒ジョブサポーターの方に向き直り、元気よく、
 「よろしくお願いします!」
 毎回、私はこの瞬間に感動で目がウルウルして、泣きそうになってしまうのです。
 だって、朝登校した時には全くやる気を感じなかった生徒たちが、たった一日で大きく変わっていくところを傍で見ることができるのですから。まさに、「講師をやってて良かった~」と心から思える瞬間なのです。

 さらに、終了後のアンケートで「吉田先生のアドバイス、これからの就職面接を受けるための参考になりました」なんて書かれていたら、もう涙腺は緩みっぱなしです。

 講師の醍醐味は、受講される皆さんが真剣に私の話を聞いてくれること。もちろんそれもありますが、講義をきっかけにして受講される皆さんが自らを変革してくれる場に立ち会えることです。そのために必要なのは「いかに受講される皆さんを引き付けることができるのか」を常に意識しながら講義をすることです。初めてセミナー講師になった時、そのために意識しなければならない5つの心構えを教わりました。

 それは、①芸者性、②役者性、③医者性、④学者性、⑤易者性の5つです。そして、受講される方々があくびをしたり、居眠りをするのは、受講される方々が悪いのではなく、受講される方々を引き付けられない講師の責任であると教わりました。たぶん、普段から心がけている5つの心構えが生徒の心に伝わったのかな、そして、生徒と真剣勝負をするという姿勢が伝わったのかなと思います。

 まだ雪がたくさん残る秋田や青森、東日本大震災の爪痕が大きく残る三陸海岸など、東北を中心にたくさんの高校を訪問させて頂きました。訪問した高校の中には甲子園常連の高校もありました。野球部の生徒はどこへ行っても皆さん礼儀正しくて元気が良いですね。
 また、秋田県のとある高校へ伺ったときのことです。結構ツッぱっている子が多くて、女子のスカートが短かったり、ズボンを腰穿きしている男子が多かったり。でも、そんな生徒に「おめ~ら、そんな恰好、東京じゃもう流行ってねえぞ。おめ~らみてえのが東京行ったらダッセーって馬鹿にされるぞ!」なんて話をすると「え、うそ、ダッセーの?」って驚いて、慌ててズボンを上げるのです。そうすると入学した時に作ったきりサイズがそのままなので、背が伸びた分短パンみたいな穿き方になってしまったりと「表向きツッぱっていても心は素直なんだな」って印象を持ち、楽しかったですね。

 そんなわけで「高校生就職ガイダンス」の講師の経験はとても印象深いものでありました。当時ご一緒させて頂いた講師の方々とは今も交流をさせて頂いております。また機会があればぜひ高校生の皆さんと接してみたいなぁと考えている今日この頃です。

2015年 さかみち 22号より
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