先日、こんなご相談を頂きました。
「当社は、有休を取った際は給料を減額していない(=通常支払われる賃金を支給している)のだが、とある従業員から、『賃金規程には、有休を取った際の賃金は、所定労働時間労働した場合に通常支払われる賃金を支払うものとすると書いてある。自分の所定時間は、深夜割増の発生する22時以降にまたがっており、深夜手当分も払われるべきだと思うので払ってもらいたい』と言われた。有休取得日についても、深夜割増の支払は必要なのか?」
「いやいや、実際に働いていないのだから、当たり前に支給しなくていいでしょ。」と反射的に思いましたが、正直なところ、しっかり考えたこともないことでした。というわけで、調べて考えてみたことをブログとして残してみます。
有給休暇取得日には、いくら払えばいいのか
これについては、算出方法が労働基準法の第39条第9項に定められており、下記の通りです。太字部分の3つが選択肢となります。具体的にどれにするかは、事案ごとにころころ変えられるわけではなく、就業規則他で定める必要があります。
「使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(その金額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。」
通常支払われる賃金とは
有休休暇取得日に対して支給する3つの方法のうち、平均賃金・標準報酬月額の1/30は、何を示しているか明確です。
(平均賃金は事案によっては、小難しくなってくるので、必ずしも簡単とは言えませんが。)
ただ、一般的には上記以外の「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」を支給という会社様が多いのではないでしょうか。この場合、計算方法は、時給や日給といった、期間による賃金の支給方法に基づきます(労働基準法施行規則第25条)
給与形態別で書くと、下記の通りとなります。
・時給:時給×所定労働時間
・日給:日給そのもの
・週給:週給÷当週の所定労働日数
⇒実務上は、休んだ分の控除・有休分として支給、双方ともにしないのが一般的。
・月給:月給÷当月の所定労働日数
⇒実務上は、休んだ分の控除・有休分として支給、双方ともにしないのが一般的。
冒頭での質問に立ち戻ると、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」という文言だけ見ると、所定労働時間に深夜割増が適用される時間が含まれる場合、深夜労働割増分も支給する必要があるように思えます。
これに関して、実は労基法・労基法施行規則自体には何も定めがありません。ただ、行政通達は出ており、基発第六七五号(昭和二七年九月二〇日)です。
「法第三九条関係
(一) 本条は、年次有給休暇の賃金について、平均賃金、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又は健康保険法第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額の三者の選択を認め手続の簡素化を図つたものであること
~
(三) 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金には臨時に支払われた賃金、割増賃金の如く所定時間外の労働に対して支払われる賃金等は算入されないものであること。
(四) 第四項の規定は、計算事務手続の簡素化を図る趣旨であるから、日給者、月給者等につき、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合には、通常の出勤をしたものとして取り扱えば足り、規則第二五条の二に定める計算をその都度行う必要はないこと
~」
太字部分をご覧になって、いかが思われたでしょうか。素直に読めば、時間外労働の割増については支払う必要はないと読み取れます。ただ、これでも深夜割増については明確には記載されていません。
(等に入っていると思いたいところですが、所定時間外の労働に対して~なので)
労基法・通達を辿った結果、はっきり解らないという状態で、終わりとなってしまいました。それでは、原点に戻り、法の趣旨から考えるとどうでしょう。深夜労働割増の支払とはどういう意味を持つのでしょうか。
深夜労働割増の趣旨とは
時間外労働割増の趣旨を述べた判例はいくつもあり、例えば、国際自動車事件(最高裁判所第一小法廷判決令和2年3月30日)では、
「使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。」
とされています。
深夜労働割増も、対象時間に対しての割増を行う必要があることから、趣旨は上記と同じだと考えられるでしょう。使用者に対して、深夜勤務時間を減らす誘因になるよう・法の順守をさせるよう、労働者への補償をさせるように、課しているということですね。
まとめ
法・通達を見る限り、直接的には定めがなく、法の趣旨を鑑みると、「有給休暇のように、実際に労働していない時間については、深夜労働割増の支払は不要」と考えられます。
ただ、労働基準監督官によっては、「常態として深夜業に従事している場合は、深夜手当分も含めて有給取得時の賃金を支給するべき・通常支払われる賃金なのだから深夜労働割増も支払うべき」と解釈していること(常態の判断は、全ての労働日深夜労働がある、月の所定の〇〇%を超えたら、のような言い方は出来ないのですが…)もあります。
今一度、就業規則(賃金規程)での有給取得時の取り扱い(どういう金額を払うと書いてあるか)・勤怠ソフトの設定(深夜所定がある人が有休を取ると、深夜時間に集計されるなど)について確認してみましょう。
社会保険労務士 永井健太郎