雇用調整助成金 実務のてびき(2/2)

雇用調整助成金(経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成する)は「新型コロナウィルス感染症」の影響を踏まえ令和2年2月14日以降、幾度も制度の拡充及び手続きの簡素化の特例措置が講じられてきていましたが、6月の通常国会を経て現在の形(休業1日当たりの上限額15,000円への引き上げ等)となりました。

 今回は前回に引き続き、申請用紙の違いや、申請の際に使用するデータ(従業員1人当たりの平均賃金)の算定方法の違いによる助成金額の差について述べていきます。

目次

申請用紙の違いによる助成金額(休業1日当たりの上限額引き上げ後)

 今回の「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置」において使用できる申請用紙は、従業員が概ね20人以下の会社の場合には2種類(下記A、B)、1人1日当たりの助成額の算定方法も2種類(Aa、Ab)あります。まずは、【申請用紙】の違いによる助成金の違いについて確認してみましょう。

【申請用紙】

A. 《従業員の人数に制限の無いタイプ

雇用調整助成金(休業等)支給申請書(様式新特第7号_申請書)

雇用調整助成金助成額算定書(様式新特第8号_助成額算定書)

実績一覧表(様式新特第9号_休業・教育訓練実績一覧表)

B. 《従業員が概ね20人以下の会社専用タイプ

雇用調整助成金支給申請書(様式新特小第1号)

休業実績一覧表(様式新特小第2号)

§申請用紙A、Bによる助成金の違いを簡単な例を用いて解説してみます

例)株式会社△△

・正社員2名(雇用保険被保険者数=2人) (他の労働者は数年間いない)

・賃金の計算は月末〆

・賃金と賞与は数年間同額

・2名の正社員の賃金はそれぞれ月額30万円(非課税通勤手当2万円込み)

・2名の正社員の賞与は1回当たり25万円を年2回支給

(雇用保険被保険者賃金総額=(30万円×12カ月+25万円×2回)×2人=8,200,000円)

・所定休日は土日のみ(年間所定労働日数=365日―52日―52日=261日)

・新型コロナウイルス感染症の影響により令和2年4月1日~4月30日(今回の請求期間=判定基礎期間)の期間に社員の2名をそれぞれ10日休業させた(月間休業延日数=20日)

・休業1日につき通常の賃金の60%を休業手当として支給(休業手当の支払い率=60%)

・令和2年1月24日以降について解雇等での退職者無(助成率=100%)

・1日当たりの休業手当=30万円÷月平均所定労働日数(21.75日)×60%=8,277円

・今回(判定基礎期間)会社が支払った休業手当の合計額=8,277円×20日=165,540円

【申請用紙A】《従業員の人数に制限の無いタイプ》による助成金

A. [助成金申請金額]=1人当たり助成額単価(※①)×月間休業延日数(20日)=188,520円

   (※①)1人当たり助成額単価(労働保険料確定申告書方式)

→雇用保険被保険者賃金総額÷雇用保険被保険者数÷年間所定労働日数×休業手当支払い率×助成率

→{8,200,000円÷2人÷261日×60%×100%=9,426円(上限は15,000円)

【申請用紙B】《従業員が概ね20人以下の会社専用タイプ》による助成金

B. [助成金申請金額]= 下記 ⅠとⅡのいずれか低い額

Ⅰ:休業手当の合計額(165,540円)×助成率(100%)=165,540円

Ⅱ:上限日額(15,000円)×休業延日数(20日)=300,000円

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今回「株式会社△△」のケースでは従業員が正社員の2名のみ(従業員が概ね20人以下)

ですが 【申請用紙A】《従業員の人数に制限の無いタイプ》 による助成金申請を行った方が、助成金額が22,980円多いという結果になりました。(※従業員が20人以下の会社は上記A、Bどちらの申請書を使用してもかまいません)

※詳細は「雇用調整助成金ガイドブック」を確認ください。

平均賃金の算定方法の違いによる助成金額(休業1日当たりの上限額引き上げ後)

前述の【申請用紙A】《従業員の人数に制限の無いタイプ》による助成金では「1人当たり助成額単価」の算出では「雇用保険被保険者賃金総額」、「雇用保険被保険者数」という労働保険の年度更新(労働保険料確定申告書)の数値を使用しました(これをAaとする)が、それとは別に「所得税徴収高計算書」(一般に源泉所得税納付書)を「1人当たり助成額単価」の算出にすることも認められています(これをAbとする)。

以下はAaとAbと異なる方法で平均金賃金を算定した場合の助成金額を見てみましょう。

§平均賃金の算定方法が異なるAa、Abによる助成金の違いを簡単な例を前述の「株式会社△△」に必要な条件を追加し、解説していきます。

例)株式会社△△

《追加条件》
・役員は社長1名
・社長の役員報酬は月額60万円
一般的な月の「所得税徴収高計算書」(一般に源泉所得税納付書)に記載されている数値
  賃金総額=28万円(非課税通勤手当2万円は除く)×2名+60万円(社長は通勤手当無)
        =116万円
・1箇月の人員3人(正社員2名+社長1名)
・月間の所定労働日数=22日(週休2日制で祝日稼働日)

Aa=前項A
【申請用紙Aa】《従業員の人数に制限の無いタイプ》(労働保険料確定申告書)による助成金

Aa. [助成金申請金額]=1人当たり助成額単価(※①)×月間休業延日数(20日)=188,520円
(※①)1人当たり助成額単価(労働保険料確定申告書方式)

→雇用保険被保険者賃金総額÷雇用保険被保険者数÷年間所定労働日数×休業手当支払い率×助成率
→{8,200,000円÷2人÷261日×60%×100%=9,426円(上限は15,000円)

【申請用紙Ab】《従業員の人数に制限の無いタイプ》(所得税徴収高計算書)による助成金

Ab. [助成金申請金額]=1人当たり助成額単価(※②)×月間休業延日数(20日)=210,920円
(※②)1人当たり助成額単価(所得税徴収高計算方式)

→賃金総額÷1箇月の人員÷月間の所定労働日数×休業手当支払い率×助成率
→{1,160,000円÷3人÷22日×60%×100%=10,546円(上限は15,000円)

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申請様式Aの使用では「1人当たりの助成額単価」の算定方式が2種類存在し、今回のケースでは「所得税徴収高計算書」を算定に用いた【申請用紙Ab】助成金申請の方が「労働保険料確定申告書」を」算定に用いた【申請用紙Aa】助成金申請より助成金額が22,400円多いという結果になりました。(※従業員の平均賃金に社長の役員報酬を含む「所得税徴収高計算書」を算定に用いるケースは「労働保険料確定申告書」の控えを紛失した等、かなり異例とも言えますが。) 

※詳細は「雇用調整助成金ガイドブック」を確認ください。

まとめ

前回の「申請要件」、「手続きの流れ」に引き続き「申請用紙の違いによる助成金額」「平均賃金の算定方法の違いによる助成金額」を解説いたしました。新型コロナウイルス感染症の影響で経営状況が逼迫している企業が過去に例がない数に上っています。雇用を維持するためにも、適正な申請で少しでも多くこの助成金受給したいと思う経営者の方は多数いらっしゃると思います。

申請用紙の選択や算定に使用するデータの違いで助成金の額が変わってくることをご理解いただけたと思いますが、「判定基礎期間」の初日が令和2年1月24日から5月31日までの申請期限は令和2年8月31日までとなりますので、注意が必要です。

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この記事を書いた人

島田 光英

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