新型コロナウイルス感染症の拡大が様々な分野に影響を及ぼしています。
同感染症対策の基本方針の重要事項には「患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対してテレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける」との事項が含まれており、事態の収束がいつになるのかはっきりしない中では、引き続き感染防止の取り組みを続けていく必要があります。
これまでにこのような働き方を行っていない中小企業様からは「わかってはいるが、どのように進めればよいのか…」といったお声も聞かれます。そこで今回は比較的取り組みやすいと思われる「時差出勤」について触れてみたいと思います。
時差出勤とは
時差出勤とは、従業員(全部または一部の)が始業時刻・終業時刻をずらして出勤する制度です。1日の所定労働時間は変えず、始業・終業の時刻をずらすパターンをいくつか設け、固定もしくは交代でそのパターンを適用する形が一般的です。もともと導入している企業では「ワークライフバランスの推進」や「通勤ラッシュの回避」(今回の新型コロナウイルス感染症対策ではこの面がクローズアップされています)といった目的で導入しているケースが多いように感じます。
似た制度として「フレックスタイム制度」がありますが、フレックスタイム制度は、1ヶ月以内の期間の総労働時間を決めておき、その中の各日の始業・終業の時刻を従業員が自分で決めることのできるもので、時差出勤制度より自由度が高い制度です。
導入に当たって検討すること
2-1.対象者
全社員を対象とするか、部署や職種ごとに対象者を限定するかを検討します。特定の時間帯に業務が集中する部署では一定の時間帯に人員が少なくなることもある時差出勤は難しいと感じられるかもしれませんが、集中する時間帯に人員が多くいるような勤務パターンを設ければ、始業・終業時刻を多少ずらすことは可能ではないかと思われます。
2-2.制度の内容
①始業時刻の幅
現在の始業・終業時刻に対して1~2時間程度前後する程度がスタートしやすいとは思いますが、新型コロナウイルス感染対策としての通勤ラッシュの回避を想定すると、思い切って正午近くから始業開始のパターンを検討するのも一手でしょう。
②勤務パターンをいくつ設けるか
細かくパターンを設ける方法もありますが、今回のケースでいえばあまり多くしすぎず、2~3パターンを設ける程度からスタートでもよいでしょう。
③勤務パターンの選択
勤務パターンを従業員が選択できるか、所属長が決定するかということになります。状況を考えれば従業員が選択できることが望ましいですが、業務の偏りが出ることが想定される場合には希望を聞いた上で所属長の調整も必要になるでしょう。また、従業員が選択する場合も、当日出社するまでわからないということがあっては業務に支障をきたすため、どのように決定するのかは決めておく必要があります。
④勤務パターンの適用期間
③にも関連しますが、時差出勤をどのパターンでどのくらいの期間適用するのかを決めます。1日単位では諸々煩雑となりますし、1週間~1ヶ月単位で検討されるのがよいでしょう。また今回、感染症対策として導入される場合であれば、状況の変化に応じて変更ができるようにしておく方がよいと思われます。
⑤勤怠管理
これまで1種類の労働時間パターンで管理してきたのと比べると時間計算は複雑になります。タイムカードや勤怠管理システムを使用している場合には、制度に対応できるかの確認が必要となります。
⑥留意点
●不在時に迷惑がかからないようにする
「不在の社員あてに顧客から問い合わせがあったときに対応ができない」や「他部署との連携が必要な業務の場合に業務に支障が出る」といったことが想定されます。情報の共有化や情報伝達のタイミングは気を配り、より良いものにしていく必要があるでしょう。
●早出の人が帰りやすいようにする
時差勤務のデメリットのひとつに「早出の人が帰りにくい」ことが挙げられます。周囲の人が仕事をしている中で帰るのが心苦しく感じてしまうようです。経営者や上司は特にこの点には理解と支援を行うことが大切です。
導入と規程の変更
まずは試験的に運用することから始めてみましょう。改善の必要な点があれば随時取り入れ、業務に支障が生じにくい仕組みにしていくことが必要です。
なお、始業・終業の時刻は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、時差出勤を制度として取り入れるためには、就業規則の変更が必要となります。また、時差出勤の結果、一斉休憩ができない場合には、一斉休憩の適用除外に関する労使協定の締結も必要となります(この労使協定は労働基準監督署への提出の必要はありません。)