先日、顧問先の会社から連絡がありました。
「実はうちの従業員が昨日、朝の通勤途中にトラックに追突されて…どうしたらいい?」
仕事や通勤に交通事故はつきもの。
とはいえオフィスワークが中心の従業員がたまたま仕事で会社の車に乗ったとき、または自動車通勤中に事故が起きたときは戸惑いがちです。
交通事故に関係する代表的な3つの保険制度を中心に整理していきましょう。
自動車保険の自賠責保険と任意保険
自動車保険には「自賠責保険」と「任意保険」があります。
自賠責保険とは…
自動車を運行する場合には必ず加入しなければならない、政府が保険者である法律に基づいた強制保険です。
補償の対象は「対人」の交通事故のみですが過失割合によって加害者でも補償の対象になる場合があります。
補償内容には限度額があります…(後述)
任意保険とは…
言葉通り、加入してもしなくともよい、民間の損害保険会社が自由に補償内容を決めている保険です(一定の制限はあります)。
自動車事故と健康保険
健康保険での治療は自由診療と比較して、治療報酬額が低くなる(=病院にとって利益が少ない)ことから、健康保険は交通事故には使用できないとしている病院があります。
しかし、健康保険法57条1項及び国民健康保険法64条1項が第三者の行為によって生じた給付事由に対し保険給付を行った場合を想定しているように、法律上は交通事故に健康保険が利用できないということは一切ありません。
ただし、健康保険は基本的に「業務外」の病気やケガの給付を行う制度です。
よって業務中、通勤中の交通事故について基本的に健康保険は使いません。
自動車事故と労働者災害補償保険(労働災害、労災)
労災は正式名称を「労働者災害補償保険」といい、政府が保険者、事業者が加入者となって保険料を納める制度です。アルバイトであっても、労働者を雇用していれば加入が強制的に義務づけられます。
労働者が業務上の事由または通勤によって負傷、疾病、障害、死亡などとなった場合に、労働者やその家族を救済することが主な目的とされています。そのため、業務中もしくは通勤中の交通事故であれば、労災保険から給付を受けることが可能です。ただし、労災の対象となる場合は、基本的に健康保険から給付を受けることはできません。
まとめ
さて、ここまでいかがでしょうか。
「個々の保険のことは何となくわかったが…」。簡単にまとめてみると
1、交通事故だから自賠責保険(加入していれば任意保険も)は使える!
2、交通事故でも健康保険は使える!しかし健康保険は業務外の病気やケガが対象であり、通勤途中や業務中の事故には基本的に使えない。
3、交通事故でも、通勤途中や業務中の事故であれば労働者災害補償保険は使える!
通勤途中や業務中の事故であれば1、と3、が該当しそうです。
一体どちらを使うのか、両方使えるのか、併用できるのか?という疑問が出てくると思います。ポイントを挙げると
・自賠責保険と労働者災害補償保険はともに政府が保険者の強制保険のため同時には使えない。
・自賠責保険には限度額がある(例えば傷害なら120万円)が労働者災害補償保険は基本的に限度額はない。
・自賠責保険(交通事故)には過失割合が関係するが労働者災害補償保険には基本的に過失割合という考え方はない。
・自賠責保険の給付内容には労働者災害補償保険にはない慰謝料のような付加給付がある。
・労災保険給付を先に受けた場合(「労災先行」)には、同一の事由について自賠責保険 等からの支払いを受けることはできない。
・自賠責保険先行の場合、限度額を超えた場合には、超えた時点から労働者災害補償保険を使うことはできる。
・同時には使えないが休業補償を請求する場合、自賠責保険と労働者災害補償保険の特別支給金は同時に申請できる。
こう見てくると、一般的には自賠責保険→労働者災害補償保険の順で手続きするのがよさそうです。
また行政通達でも交通事故の場合、自賠責保険先行で手続きするようになっています。
そこで自賠責保険を使えない(使わない)のはどのような場合か(=先に労働者災害補償保険を使う場合)の例を挙げますと、
・加害者がそのまま立ち去ってしまった。
・加害者が任意保険(場合によっては自賠責保険にも)に加入していなかった。
・加害者が交渉に応じてくれない(話し合いにならない)。
・被害者の過失割合が高い。
……案件によって判断が求められるというところでしょうか。
交通事故の事案によってどの保険制度を利用することができるのか、どの保険制度を利用するのがよいかなどについても、ぜひ当事務所の事務所相談会をご利用ください。
一緒に解決を目指しましょう。
社会保険労務士 植田 秀樹