諭旨解雇になった従業員でも、基本手当は受け取ることができます。
受給のためには会社の手続きも必要ですが、新任の人事労務担当者はこんな悩みを抱えていませんか?
「諭旨解雇になった従業員さんから、基本手当に必要な書類を用意してほしいと言われた。でも何をいつまでに準備すればいいの?」
そんな悩みを解決するために、この記事では以下の内容を説明してきます。
- 会社が行うべき雇用保険の手続き
- 雇用保険以外の各種手続きについて
この記事を読むと、諭旨解雇になった従業員に会社がどう対応すればいいのか知ることができます。
ぜひ最後までお読みください。
【諭旨解雇の意味】懲戒解雇よりひとつ軽い処分
まずは諭旨解雇の意味を簡単に説明します。
諭旨解雇とは、本来なら処分が最も重い懲戒解雇になるところを、従業員の今後の転職活動や生活への考慮等の理由から行われる、ひとつ軽い処分です。
【諭旨解雇の雇用保険】会社が行う手続きの流れ
諭旨解雇になっても、従業員は基本手当を受給できます。
受給には会社が用意する書類も必要になるので、以下の流れを参考にして手続きを行ってください。
①離職票の発行準備をする
基本手当の受給には離職票が必要です。
解雇した従業員から「離職票はいらない」という旨の申し出がない限り、会社は発行準備を進めてください。
もし会社が離職票の発行を拒んだら、雇用保険法施行規則第7条に違反します。
6ヶ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金を科せられるので注意してください。
離職票の存在自体を知らない従業員もいるので、退職前に「離職票は必要ですか?」と確認しておくと安心です。
②雇用保険被保険者資格喪失届を用意する
離職票発行に必要な書類を2つ用意します。
1つ目は「雇用保険被保険者資格喪失届」です。
基本手当の手続きに限らず、従業員が退職したら必ず提出する書類です。
喪失届は資格取得時に交付されます。
なくした場合はハローワークのサイトでダウンロードできるので、印刷して使用してください。
書面には16項目を記入します。
詳しくは以下のリンクで確認しながら記入してください。
- 個人番号
- 被保険者番号
- 事業者番号
- 資格取得年月日
- 離職等年月日
- 喪失原因
- 離職票交付希望
- 1週間の所定労働時間
- 補充採用予定の有無
- 新氏名
- 被保険者氏名
- 性別
- 生年月日
- 被保険者の住所又は居所
- 事業所名称
- 被保険者でなくなったことの原因
さらに以下の書類を、添付書類として用意します。
- 出勤簿
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 解雇予告通知書や就業規則(退職理由を確認できる書類)
③雇用保険被保険者離職証明書を用意する
次は「雇用保険被保険者離職証明書」を用意します。
離職証明書も、離職票を発行するために必要な書類です。
ハローワークで受け取り、以下の項目を記入してください。
なお、用紙は3枚綴りで複写式になっているので、ダウンロードして印刷することはできません。
- 被保険者番号
- 事業所番号
- 離職者氏名
- 離職年月日
- 事業所名、事業主、住所、電話番号
- 離職者の住所
- 離職理由
- 被保険者期間算定対象期間
- 8の期間における賃金支払基礎日数
- 賃金支払対象期間
- 10の基礎日数
- 賃金額
- 備考
- 賃金に関する特記事項
- 記載内容の確認
- 退職理由の異議の有無
諭旨解雇は懲戒処分のひとつなので、解雇として扱われます。
その為、項目7の離職理由は「6.その他」を選びます。
ただし諭旨解雇は法律上で定義されていないので、詳細は手続きの際にハローワークで確認してください。
項目15と16は、退職者本人に確認して署名させてください。
後々のトラブルを避けるため、必ず記載内容に齟齬がないか、退職理由に異議がないかきちんと確認してもらい、署名を行わせてください。
退職後に出社しない等の理由で本人から署名できなかった場合は、署名がない理由を記入します。
また離職証明書にも添付書類が必要です。
ケースにもよりますが、以下の書類を添付してください。
- 就業規則
- 経過報告書
- 議事録
④書類をハローワークに提出する
資格喪失届と離職証明書、それぞれの添付書類が用意できたら管轄のハローワークに提出します。
資格喪失届の提出期限は、退職日の翌々日から10日以内です。
期限を過ぎてしまうと雇用保険法違反になってしまうので、早め早めの準備を心がけましょう。
⑤交付された離職票を退職者に渡す
必要書類を提出したら、後日ハローワークから以下の書類が会社に交付されます。
- 離職票-1
- 離職票-2
- 資格喪失確認通知書
- 離職証明書
離職票-1と離職票-2は退職者に渡してください。
資格喪失確認通知書と離職証明書は会社で保管します。
これで会社が行う、雇用保険の手続きは完了です。
【諭旨解雇後の手続き】雇用保険以外の各種手続きを紹介
従業員を解雇した後に行う手続きは、雇用保険のほかにも複数あります。
具体的には以下の5つが挙げられます。
- 社会保険の喪失手続き
- 源泉徴収票の交付
- 住民税の特別徴収の停止手続き
- 最後の給料の支払い
- 解雇理由証明書の交付
それぞれどのように手続きを行うか、見ていきましょう。
社会保険の喪失手続き
従業員を解雇したら、会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を事務センター、または事業所の管轄の年金事務所へ提出します。
退職日の翌日から5日以内が提出期限となっています。
源泉徴収票の交付
退職までに支払った給与と賞与、控除した社会保険料の額などを記載した源泉徴収票を、従業員に交付します。
退職日から1ヶ月以内に交付してください。
住民税の特別徴収の停止手続き
会社が個人住民税の「特別徴収」を行っている場合は、「給与支払報告・特別徴収に係る給与取得者異動届出書」を提出します。
提出先は従業員の住所地の市町村で、退職した月の翌月10日までに提出してください。
用紙は各市町村で配布されています。
提出を怠ると特別徴収が続いたままになるので、「個人住民税が支払われていない」と見なされ、督促状が送付される恐れがあります。
最後の給料の支払い
最後の給与は、本来の給料日に支払うのが一般的です。
しかし解雇した従業員から支払を請求されたら、請求日の7日以内に支払わないといけません。
給料だけでなく、積立金や保証金、貯蓄金などがあったら同じように返還してください。
なお退職金は、就業規則等で定められた支払時期に支払えば大丈夫です。
解雇理由証明書の交付
解雇理由証明書とは、会社が従業員を解雇した理由が詳しく記載されている書面です。
解雇予告通知書や離職票とは、また別のものです。
会社があらかじめ交付する義務はありませんが、解雇した従業員から請求されたら交付する義務が発生します。
請求した従業員は、解雇された理由を知りたいから交付を希望しているので、解雇理由は具体的に記載しましょう。
また就業規則の、どの条目に該当して諭旨解雇になったのか、根拠となる就業規則の条文も明示する必要があります。
なお、従業員が請求していない事項を記入することは禁じられています。
間違って記入してしまわないよう、どの項目を書くか従業員に確認してください。
ハッキリとした提出期限はありませんが、従業員から請求があったら遅滞なく理由証明書を交付しましょう。
【諭旨解雇の退職金】支払は就業規則に従って決める
退職金の支払義務は、法律で定められていません。
その為、諭旨解雇になった従業員に退職金を支払うかは、会社の就業規則に従って決められます。
自社の就業規則はどのように取り決められているのか、人事労務担当者は今一度確認してみることをおすすめします。
【諭旨解雇の解雇予告手当】予告なく解雇した場合は支払う
会社が従業員を解雇すると決めたら、遅くとも退職日の30日以上前に解雇予告しなくてはいけません。
諭旨解雇の場合でも、解雇を伝えた日から退職日まで30日に満たない、もしくは即日解雇するときは解雇予告手当を支払う必要があります。
まとめ:諭旨解雇になった従業員でも雇用保険の手続きは怠らず
最後にこの記事のおさらいをしましょう。
諭旨解雇になった従業員でも基本手当の受給資格はあるので、人事担当者は必要な手続きを忘れないようにしてください。
受給に必要な離職票は、以下の流れで用意します。
- 雇用保険被保険者資格喪失届を用意する
- 雇用保険被保険者離職証明書を用意する
- 必要事項を記入して、他書類と一緒にハローワークに提出する
- 交付された離職票を従業員に渡す
繰り返しになりますが、離職票の発行を拒んだり、資格喪失届の提出期限に遅れると法律違反になるので充分注意してください。
最後に、飯田橋事務所では従業員の解雇や退職など、人事管理に関する相談をお受けしています。
「従業員の懲戒処分を考えているけど、適切な処分が分からない」
「就業規則で定めている解雇に関する条項が、今の時代に合っているか分からない」
このような悩みを抱えていましたら、ぜひ当事務所にご相談ください。
人事・労務管理の経験豊かな専門スタッフが、問題解決のために全力でサポートします。
まずはお気軽にお問い合わせください。