「週20時間の労働者も、社会保険に加入する必要があるって本当?」
2024年10月から、短時間労働者に対する健康保険および厚生年金保険の適用範囲が拡大されます。
適用範囲の拡大によって、週20時間以上勤務する従業員がより多くの企業で社会保険に加入することが義務化される見込みです。
特定適用事業所に該当する企業は、社会保険の適用拡大に対応するための準備が求められます。
本記事では、社会保険の加入条件や適用拡大の影響を踏まえて、労務管理において考慮すべきポイントについて詳しく解説します。
【2024年10月から拡大】パートの社会保険加入が義務付けられる企業
2024年10月以降は、従業員数51人~100人で短時間労働者を雇用している企業も社会保険の加入対象に含まれます。
2024年10月までと2024年10月以降を比較した表は、以下のとおりです。
2024年10月まで | 2024年10月以降 | |
---|---|---|
従業員数 | 101人以上 | 51人以上 |
所定労働時間 | 週20時間以上 | 週20時間以上 |
2024年10月までは従業員数が101人以上の企業が特定適用事業所でしたが、2024年10月以降は従業員数51人以上の企業に拡大されます。
1年のうち6ヵ月間以上、従業員数が51人以上の企業に社会保険の加入の義務があるため、対象となる企業であれば対象となる従業員の社会保険加入を準備する必要があります。
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内|日本年金機構
【自社は対象企業?】従業員数の数え方
従業員数は、現在の厚生年金保険・健康保険の適用対象者数です。
以下の計算式で従業員数を求めます。
「フルタイムの従業員数+週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数」
なお、従業員数にはパート・アルバイトといった短時間労働者も含まれます。
正社員のみの数ではないため、従業員数を求めるときには注意しましょう。
新たな社会保険加入対象者となる4つの要件
新たに加入対象者となるのは、4つの要件をすべて満たした短時間労働者です。
次の項目からは、新たな社会保険加入対象者となる4つの要件を詳しく解説します。
参考:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内|日本年金機構
要件①週の所定労働時間が20時間以上
1つ目の要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であることです。
所定労働時間は契約上の労働時間を指し、残業時間は含まれません。
要件②月額賃金が8.8万円以上
2つ目の要件は、1ヶ月に支給される賃金が88,000円以上であることです。
ただし、以下の賃金は含まれません。
- 1ヶ月を超えるごとに支給される賃金(賞与等)
- 時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支給する割増賃金
(時間外手当、休日手当等) - 最低賃金に算入しない賃金
(通勤手当、家族手当等)
要件③2ヵ月を超える雇用の見込みがある
2ヶ月を超える雇用の見込みがあることも、要件のひとつです。
要件④:学生ではない
最後の要件は、学生ではないことです。
ただし、休学中や夜間学部に通う学生は加入対象になります。
社会保険の適用拡大への対応
人事担当者様は社会保険適用拡大に備えて、必要な準備を進めましょう。
社内準備の流れを確認してください。
ステップ①社内の加入対象者を把握する
まずは、新しい加入対象者がどれだけいるか把握します。
「新たな社会保険加入対象者となる4つの要件」でも説明しましたが、加入対象者となるのは4つの要件にすべて当てはまる短時間労働者です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
ステップ②社内周知する
加入対象者がいた場合、社会保険の適用範囲が拡大されることを対象者に周知します。
新たに社会保険の対象となるパート・アルバイトの方に、法律改正の内容を確実に伝えましょう。
周知方法には掲示板やメール、ミーティングなどがあります。
厚生労働省が作成したチラシやガイドブックを利用するのも、理解してもらいやすくおすすめです。
社会保険加入対象者の方に伝わりやすく効率のいい方法で、社内周知を行ってください。
ステップ③今後について加入対象者と話し合う
状況に応じて、説明会や個人面談を行います。
面談では強制加入対象者であること、加入におけるメリット・デメリットを伝え、今後の働き方について対象者と話し合います。
人事担当者は、労働時間の延長や正社員への転換などの可能性を視野に入れたヒアリングを行うといいでしょう。
社会保険は加入義務が生じたら、本人の意思に関わらず加入する必要があります。
しかし、「配偶者の扶養範囲内で働きたい」といった事情などで、加入を避けたい人もいるかもしれません。
その場合は、労働時間の見直しなどを含めて、本人と十分に相談するようにしましょう。
ステップ④社会保険の加入手続きを行う
最後に、社会保険の加入手続きを行います。
2024年10月5日までに「被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出してください。
オンラインでの届け出も可能です。
社会保険に加入するメリット
ここでは社会保険に加入するメリットを、パート側と会社側に分けて解説します。
パート側のメリット①将来もらえる年金が増える
社会保険に加入すると、国民年金に厚生年金が上乗せされるので、将来の年金受給額が増えることになります。
上乗せされるのは老齢年金、障害年金、遺族年金です。
老後を心配している従業員にとって、大きなメリットです。
パート側のメリット②:充実した保険制度を受けられる
2つ目のメリットは、充実した保険制度を受けられることです。
傷病手当金や出産手当金といった、給付金が支給されます。
病気やケガ、出産で仕事を休むことになっても、正社員と同じように生活保障の制度を受けられるようになります。
パート側のメリット③:会社が保険料を折半してくれる
社会保険に加入すれば、保険料の半分は会社が負担することになります。
厚生年金保険料と健康保険料は、従業員と会社が折半して支払う決まりになっているからです。
半分の支払いで手厚い保障制度を受けられるのは、従業員にとって嬉しい利点です。
会社側のメリット「パートも社会保険に加入できる会社」とアピールできる
最後は会社側のメリットです。
自社のパートが社会保険に加入すれば、「パートも社会保険に加入できる」と求職者にアピールできます。
「社会保険制度有りの会社でパートとして働きたいな…」という人にとっては、好待遇の会社です。
求職者へのアピールで人材確保に繋がるので、社会保険の加入によって、会社も大きなメリットを得られます。
社会保険に加入するデメリット
パート側のデメリット:毎月の手取額が減ってしまう
社会保険の加入によるデメリットは、毎月の手取額が減ってしまうことです。
会社と折半とはいえ、毎月給与から保険料が差し引かれるので、従業員にとっては手痛い出費になってしまいます。
会社側のデメリット①:保険の手続き業務が増える
社会保険に加入する場合、会社が加入手続きをします。
対象者がたくさんいると手続き業務が増え、人事担当者の負担になる可能性があります。
会社側のデメリット②:保険料の負担が増える
社会保険料の半分は、会社側が支払います。
被保険者が増えると、その分会社が負担する保険料も増えてしまいます。
まとめ:2024年10月までに加入対象者への対応を進めよう
パート・アルバイトの社会保険加入が義務付けられる企業は、2024年10月から従業員数が51人以上の企業に拡大します。
新たな加入対象者は、上記の企業に勤めていて4つの要件を満たした短時間労働者です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
社会保険の適用拡大への対応は、以下のとおりです。
- 社内の加入対象者を把握する
- 社内周知する
- 今後について加入対象者と話し合う
- 社会保険の加入手続きを行う
人事担当者様は今回の内容を理解して、加入対象者への対応にお役立てください。
また飯田橋事務所では社会保険手続きの代行業務を承っています。
業務の詳細についてご不明な点等ありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。