従業員が使い切れなかった有給休暇は、翌年度に繰越すことができます。
ですが、有給を管理する人事労務担当者の方で、こんな悩みを抱えていませんか?
「有給休暇の繰越ってどうやるのか分からない…」
「繰越す人が多くて計算に時間をとられる…もっと有給の取得率を上げてほしい」
「有給の管理負担を減らしたい!」
会社にもよりますが、一般的に従業員の有休休暇は人事総務部が管理しています。
従業員が増えるごとに、有給の管理に負担を感じている方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、有給休暇について以下の内容を解説します。
- 繰越方法
- 取得率を上げる方法
- 管理負担を減らす斉一的取扱いについて
人事労務担当者の負担を少しでも減らせる内容になっているので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
【余った有給はどうなる?】有給休暇の繰越についてわかりやすく解説
まずは、有給休暇の繰越について次の内容を解説します。
- 有給休暇の繰越の概要
- 繰越日数の上限
- 有給休暇の最大保有日数
ひとつずつ解説していきます。
有給休暇の繰越の概要
1年間で使い切れずに余った有給休暇は、翌年度に繰越して利用することができます。
正社員だけでなく、契約社員やパート等においても同様です。
労働基準法第115条では、有給の請求権の時効は2年と定められています。
従業員が有給を使い切れなかった場合、会社はその有給を繰越さなければいけません。
繰越さなければ、労働基準法に違反していると見なされます。
繰越日数の上限
繰越しできる有給休暇に上限はありません。
付与されて使い切れなかった有給は、すべて翌年度に繰越しできます。
ただし、勤続年数によって有給の付与日数は異なるため、繰越しできる日数も従業員によって異なります。
勤続年数 | 6ヶ月 | 1年半 | 2年半 | 3年半 | 4年半 | 5年半 | 6年半以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
例えば、勤続1年半の従業員が前年の有給休暇を1日も使わなかった場合、11日の有給を繰越しできます。
勤続6年半の従業員だと、繰越しできる日数は20日になります。
このように、繰越しできる有給に上限はなくても、実際に繰越しできる日数は勤続年数によって異なるということです。
有給休暇の最大保有日数
有給休暇の最大保有日数は、繰越分と新年度の有給の合計日数です。
例えば、勤続6年半の従業員が前年の有給をすべて繰越した場合、最大保有日数は40日になります。
繰越日数20日+新年度の有給日数20日
=最大保有日数40日
ただし、就業規則の決まりで労働基準法より多く有給が付与されている場合は、40日よりも多く保有することがあります。
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【3ステップ】有給休暇の繰越計算方法
次に紹介するのは、有給休暇の繰越計算方法です。
有給休暇の繰越は次のように計算します。
- 前年繰越分から取得する
- 余った前年繰越分(付与日から2年経過したもの)は消滅する
- 新規付与されて余った日数は翌年に繰越しする
勤続年数6ヶ月から2年半を例にして、解説していきます。
例.勤続6ヶ月の繰越
勤続年数 | 前年繰越 | 新規付与日数 | 残日数 | 取得日数 | 失効日数 | 翌年繰越 |
---|---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 | ー | 10日 | 10日 | 6日 | 0日 | 4日 |
勤続6ヶ月の有給の付与日数は10日です。
そのうちの6日を取得し、残り4日を翌年に繰越しします。
有給休暇の時効は2年なので、まだ失効になる有給はありません。
例.勤続1年半の繰越
勤続年数 | 前年繰越 | 新規付与日数 | 残日数 | 取得日数 | 失効日数 | 翌年繰越 |
---|---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 | ー | 10日 | 10日 | 6日 | 0日 | 4日 |
1年半 | 4日 | 11日 | 15日 | 3日 | 1日 | 11日 |
勤続1年半の有給の付与日数は11日です。
この年では、3日の有給を取得しました。
繰越しした分から消化するので、前年繰越分(6ヶ月分)の4日から差し引きます。
残った1日は消化されることなく時効を迎えるので、失効しました。
新しく付与された11日は取得しなかったので、翌年に繰越すことになります。
例.勤続2年半の繰越
勤続年数 | 前年繰越 | 新規付与日数 | 残日数 | 取得日数 | 失効日数 | 翌年繰越 |
---|---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 | ー | 10日 | 10日 | 6日 | 0日 | 4日 |
1年半 | 4日 | 11日 | 15日 | 3日 | 1日 | 11日 |
2年半 | 11日 | 12日 | 23日 | 8日 | 3日 | 12日 |
勤続2年半の有給の付与日数は12日です。
この年では8日の有給を取得しました。
前年繰越分(1年半分)の11日から差し引いて、残った3日は時効になって失効します。
当年付与分の12日は、翌年に繰越します。
このように、有給の取得日数が前年繰越分よりも少ないと、余った繰越分は失効することになります。
反対に取得日数が前年繰越分よりも多いと、前年の有給は余らずにすべて消化されます。
【有給休暇の取得率アップ!】計画的付与制度について解説
ここまで、有給休暇の繰越や計算方法について解説していきました。
しかし読者さんの中には、このような思いをしている方がいるのではないでしょうか?
「繰越や計算方法については分かったけど、正直計算とか面倒…」
「計算をしなくて済むように、従業員の有給取得率を上げたい…」
確かに、有給の取得率が上がれば、繰越の計算や管理をしなくて済みますよね。
そこでここからは、有給の取得率が高くなる「計画的付与制度」について紹介します。
年次有給休暇の計画的付与制度とは
計画的付与制度(計画年休)とは、前もって有給取得日を企業側が割り振る制度です。
割り振れる日数は、付与日数から5日を引いた分です。
前年繰越分がある場合は、繰越分を含めた付与日数から5日引いた分を割り振れます。
計画的付与制度は、厚生労働省も推奨している制度です。
実際に制度を導入している企業は、導入していない企業よりも有給の取得率が高いと言われています。
計画的付与制度の3つの活用方法
計画的付与制度は、3つの活用方法があります。
- 年次有給休暇取得計画表による個人別付与方式
- 班・グループ別の交代制付与方式
- 企業または事業場全体の休業による一斉付与方式
どのような活用方法なのか、順に解説していきます。
- ①年次有給休暇取得計画表による個人別付与方式
-
年次有給休暇取得計画表とは、各従業員の有給取得予定日を書いた計画表です。
計画表に従業員が取得希望日を記入し、その希望に則って有給取得日を決定します。
誕生日や結婚記念日、子供の授業参観など、個人的な記念日にも柔軟に対応できる方法です。
計画表の様式は、労働局のサイトでダウンロードできます。
- ②班・グループ別の交代制付与方式
-
交代制付与方式は、班・グループ別に交替で有給休暇を付与する方法です。
定休日をなかなか増やせない流通・サービス業でも、導入しやすい方法となっています。
またこの方法はお盆や年末年始などの休暇と組み合わせて、大型連休にすることも可能になります。
- ③企業または事業場全体の休業による一斉付与方式
-
一斉付与方式は、全従業員に対して同じ日に有給休暇を与える方法です。
操業をストップさせられる製造部門などの事業場では、一斉付与方式を活用することが多くなっています。
また、飛び石になっている休日と組み合わせて、連続休暇にすることも実現できます。
計画的付与制度の注意点
有給休暇の計画的付与制度の導入には、就業規則による規定と労使協定の締結が必要です。
なお、この労使協定は労働基準監督署に提出する必要はありません。
しかし法律上は作成義務があるので、導入する際は書面で締結することを忘れないようにしましょう。
【有給休暇の管理がはかどる!】斉一的取扱いについて解説
最後に、有給休暇の管理負担を減らせる斉一的取扱いについて紹介します。
斉一的取扱いとは、有給休暇の基準日を全従業員同じにすることです。
先ほど紹介した計画的付与制度の「一斉付与方式」に似ていますが、別の制度になります。
有給は原則として、出勤率が8割以上なことに加えて、入社日から6ヶ月以上経過したら付与される決まりです。
しかし、この制度だと従業員ごとに入社日がバラバラで、有給の把握・管理に手間がかかりますよね。
そこで基準日を全員同じにすれば、そういった手間が省けて管理が効率的になります。
斉一的取扱いは労働基準法には明記されていませんが、行政通達によって認められています。
ですが、斉一的取扱いによって「法律よりも労働者にとって不利」になる場合は違法になるので注意が必要です。
【基準日を統一したらどうなる?】斉一的取扱いの具体例で説明
実際に斉一的取扱いを導入すると、どのようなメリットや注意点があるのでしょうか。
基準日を毎年4月1日に統一したとして、入社日が異なる2人の従業員を例に見てみましょう。
- 4月1日入社のAさん
(基準日を毎年4月1日に統一) -
基準日が4月1日なので、Aさんには入社日に10日間の有給が付与されます。
労働基準法の定めだと、本来入社日から6ヶ月後に付与される決まりです。
法定の付与日よりも早く付与されて、Aさんにとって有利な条件になっているため、法的問題はありません。
- 6月1日入社のBさん
(基準日を毎年4月1日に統一) -
Bさんの場合、斉一的取扱いによって入社して10ヶ月後の翌年4月1日に付与されることになります。
法定では、入社日から6ヶ月後の12月に与えられる決まりです。
通常よりも遅く付与されることになり、Bさんにとって不利な扱いになってしまいます。
つまり、法的に問題があるということです。
ただ基準日を統一するだけではBさんのような不公平が生じてしまうので、下記のようにルールを工夫する必要があります。
- 入社日に一定日数の有給休暇を与える
- 入社月に応じて入社日に与える有給を調整する
- 4月~9月に入社した従業員の基準日は法定通り、10月~3月に入社した従業員の基準日は4月1日にする
このように斉一的取扱いを導入する際は、従業員の労働条件が不利にならないように工夫しなくてはいけません。
しかし、斉一的取扱いは人事労務担当者にとって有給管理がしやすく、従業員にとっても有給を把握しやすくなるという利点があります。
「今よりももっと有給管理の負担を減らしたい」と思っている人事労務担当者の方は、斉一的取扱いの導入を検討してみてはいかがでしょうか?
まとめ:有給休暇の繰越・付与方法を把握して負担を減らそう
それでは、この記事のおさらいをしましょう。
今回は有給休暇の繰越、計画的付与制度、斉一的取扱いについて解説しました。
- 有給休暇の繰越について
-
- 付与された有給は翌年度に繰越しできる
- 繰越しできる有給に上限はない
- 最大保有日数は、繰越分と新規付与分の合計日数
- 繰越の計算方法
-
- 前年繰越分から取得する
- 余った前年繰越分(付与日から2年経過したもの)は失効する
- 新規付与されて余った分は翌年に繰越す
- 計画的付与制度
-
- 前もって有給取得日を企業が割り振る制度
- 「個人別付与方式」「交代制付与方式」「一斉付与方式」といった方法がある
- 導入には就業規則による規定と労使協定の締結が必要
- 斉一的取扱い
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- 有給休暇の付与日を統一する制度
- 有給の管理がしやすくなり、従業員も有給を把握しやすくなる
- 従業員にとって不利な状態にならないように注意する
これでおさらいは終了ですが、「記事の内容は実践してみるけど、一度プロにも相談してみたいな」と考えている方もいるのではないでしょうか。
有給休暇や人事労務について不安があるときは、社労士に相談するのがおすすめです。
この記事を掲載している飯田橋事務所も、人事担当者様からのご相談を承っています。
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