「減給額ってどうやって計算するんだろう?」
「減給できる金額はいくらまでなんだろう?」
人事労務担当者の方で、こんな悩みを抱えていませんか?
懲戒処分として従業員の給料を減らす場合、人事労務の担当者は減給額を算出する必要があります。
けれど減らす金額を間違えていたら、従業員から「不当な減給だ」と主張されて、労使トラブルに発展してしまいます。
そうした事態を防ぐために、この記事では次の内容を紹介します。
- 減給の計算方法
- 減給の限度額
- 減給をするときのルール
まだ減給のルールが身に付いていない人事労務担当者の方は、ぜひ最後までご一読ください。
減給限度額について
懲戒処分の減給について、労働基準法第91条で次のように規定されています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない
引用:労働基準法第91条
減給額 | 限度額 |
---|---|
1回の減給額 | 平均賃金の1日分の50% |
1ヶ月の減給総額 | 月給の10% |
つまり減給をおこなうときは、減給額を一定の範囲内で収めなくてはいけない、という内容です。
この法律に違反した場合は、30万円以下の罰金が科せられます。
しかし会社の中には、就業規則で決められた上限が法律上よりも少ない、という所もあるかもしれません。
そういった会社では、就業規則に定めた方を適用してください。
【具体例を使って説明】減給限度額の計算方法
1回の減給限度額の計算式を紹介します。
「減給限度額=平均賃金×0.5」
計算式はシンプルですが、平均賃金の計算がすこし複雑です。
なので、最初は平均賃金の計算から説明していきましょう。
ここでは、次の雇用条件で働くAさんに減給をおこなうとします。
月給 | 25万円(控除前の賃金) |
賃金締切日 | 毎月末日 |
賃金支払日 | 締切日の翌月27日 |
減給をする日 | 1月27日 |
平均賃金の計算方法
平均賃金の計算式はこちらです。
「平均賃金=減給前3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月間の総日数」
具体的には、次の手順で計算してください。
計算① 減給する前の3ヶ月の賃金総額
1月27日に減給がおこなわれるので、減給前の賃金締切日は12月末日になります。
そのため、10月1日から12月31日に支払った賃金を総計します。
今回の例では月給25万円が3ヶ月分なので、総額は75万円です。
所得税や社会保険料を控除する前の金額を用いて、計算してください。
賞与など、臨時に支払われた賃金は含まないでください。
計算② 3ヶ月間の総日数
次は、3ヶ月間の総日数(暦上の日数)です。
10月1日から12月31日までの総日数は、92日になります。
計算③ 平均賃金を計算する
最後に、平均賃金を割り出します。
計算式は「減給前3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月間の総日数」になります。
750,000÷92=8,152.17
銭未満の端数は切り捨てるので、平均賃金は8,152円17銭になります。
1回の減給限度額の計算方法
減給限度額は「平均賃金×0.5」で計算します。
先ほど算出した平均賃金を当てはめます。
8,152.17×0.5=4,076.08
小数点以下は四捨五入するので、Aさんの減給額は4,076円だと分かりました。
1ヶ月に2回以上減給する場合
もしAさんが1ヶ月に2回以上減給されるときは、どのように計算すればいいのでしょうか。
次の計算式で求めた金額を、Aさんの給料から差し引きます。
「1回の減給限度額×減給処分の回数」
仮に処分回数が7回だったら、減給額は28,532円です。
ここで忘れてはいけないのが、1ヶ月の減給総額は月給の10%を超えてはいけないことです。
今回の例では総額限度額は2.5万円なので、28,532円を全額減給したら違法となります。
過剰分の3,532円は、翌月分の給料から減らします。
これで、減給処分は完了です。
減給できる期間
懲戒処分の減給ができるのは、1回の違法行為に対して1度までになります。
前月に1度給料を減らしたら、今月から全額支給に戻さなくてはいけません。
3ヶ月や半年など、長期間給料を下げることはNGです。
しかし、時々ニュースで「汚職の責任により1年間20%の減給が決まった」と報道されていますよね?
ニュースで見られる減給の対象者は、労働基準法の適用を受けていない役員や公務員です。
従業員は法律の適用を受けているので、同じように数ヶ月から数年と減給してはいけません。
人事労務担当者の方は、混同しないように気を付けてください。
減給するときの3つの注意点
限度額の他に、減給をする上で気をつける点を3つ紹介します。
- 減給事由に当てはまっているか確認する
- 就業規則上の手続きに従って減給する
- 就業規則がない会社は減給してはいけない
それぞれ具体的に説明していきます。
①減給事由に当てはまっているか確認する
減給に限らず、出勤停止や降格などをおこなうときは、就業規則上の根拠が必要です。
社員の違法行為が、制裁をおこなう事由に当てはまらない場合、減給をしてはいけません。
不当に制裁を下してしまわないように、最初に減給事由を確認する必要があります。
②就業規則上の手続きに従って減給する
一般的に就業規則には、減給の手続きが書かれています。
「面接で弁明の機会を設ける」「懲戒委員会を開いて処遇を決める」など、自社の就業規則どおりに手続きを進めてください。
手順を守らなければトラブルの元になり、さらに従業員から「無効」と会社に申し立てられることも考えられます。
③就業規則がない会社は減給してはいけない
先ほど、就業規則に沿って減給すると説明しましたが、就業規則がない会社はどうすればいいのでしょうか?
結論から言うと、就業規則を作成していなければ減給はできません。
譴責や諭旨退職など、すべての懲戒処分においても同様です。
処罰として給料を減らすためには、就業規則を作成し、次の事項を規定する必要があります。
- 懲戒の種類・程度
- 懲戒事由
- 懲戒の手続き
そもそも、従業員が常時10人以上いる会社には、就業規則の作成・届出義務があります。
義務を怠った会社は法律違反を問われるので、必ず作成してください。
従業員が10人未満の会社でも、減給ができること以外に、就業規則を作成するメリットがあります。
詳しくは義務があるのはどこ?就業規則の作成が必要な会社と2つの違反リスクをご覧ください。
懲戒処分以外で減給をおこなう場合に制限は適用される?
懲戒処分以外にも、減給をおこなう場面があります。
- 出勤停止
- 降格・降職
- 賞与減給
- 欠勤控除
これらの場面に労働基準法第91条にある限度額は適用されるのか、それを説明していきます。
出勤停止の場合
出勤停止による減給は、減給の制裁に当てはまりません。
懲戒処分での上限を上回っても、出勤停止日数に応じた金額を減額(賃金を支払わない)できます。
降格・降職の場合
降格や降職による減給(降給)も、制裁には当たりません。
ただし、役職ごとの賃金基準や降格基準が決まっていることが前提です。
その前提がなければ、人事権の濫用となり、減給(降給)が無効となります。
賞与の場合
査定結果によって賞与を決定(減額)するケースがありますが、これも制裁には当たりません。
注意する点が「基本給の1.5ヶ月分」という風に、賞与額があらかじめ決まっている場合です。
賞与額が目安としてではなく、あらかじめ契約で金額が明示されている場合は、会社にその賞与額の支払いが義務づけられてしまいます。
そのような場合、賞与の減額は「減給の制裁」に該当する可能性があります。
なお、制裁として賞与から減額する場合の減給総額は、賞与総額の10%を超えてはいけません。
「これって制裁なのかな…?」と気になる方は、当事務所にご相談ください。
欠勤控除の場合
欠勤控除は減給の制裁とは違った制度ですが、給料を差し引くという点では同じですよね。
では、欠勤控除額にも上限はあるのでしょうか?
結論から言うと上限はありません。
就業規則で定められた方法で、控除額を算定します。
月額50万円に対して40万円も控除することになっても、その金額が働いていない時間や日数に相当するのであれば、問題はありません。
これは働いていない分の給料は支払義務はないという、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいています。
ですが、労働しなかった分より多く控除することは違反になるので、十分注意してください。
また、遅刻や早退の時間に対する賃金を超える減額は制裁と見なされ、法律に定める制裁の規定の適用を受けることになります。
減給の給与明細の書き方
給与計算の際、減給額は「支給項目」に記載しましょう。
例えば、基本給30万円で減給額が5,000円の場合、下記のように記載します。
支給 | 基本給 | 残業手当 | 通勤手当 | 家族手当 | 減額金 |
300,000 | 8,000 | 12,000 | 10,000 | -5,000 |
推奨しないのが、減給額は書かずその月だけ基本給を減らす書き方です。
後から給与明細や賃金台帳をチェックするときに、「なんでこの月だけ基本給が減っているんだろう?」と混乱を招いてしまいます。
減らした額は支給の項目に書いて、給与処理をおこなってください。
欄の名称は「減額金」や「減給額」など、支給減額されたと一目で分かる名称がおすすめです。
まとめ|法律上のルールを守って減給を計算しよう
最後に、この記事の内容をおさらいしましょう。
懲戒処分での減給は、下の表に書かれている範囲でおこなわなくてはいけません。
減給額 | 限度額 |
---|---|
1回の減給額 | 平均賃金の1日分の50% |
1ヶ月の減給総額 | 月給の10% |
1回の減給限度額の計算式はこちらです。
「減給限度額=平均賃金×0.5」
最初は計算が複雑で戸惑うかもしれませんが、間違った減給は従業員とのトラブルや法律違反につながります。
そうならないために、ぜひこの記事を参考にして減給のルールを身に付けましょう。
また「そもそも懲戒処分となるような人材をこれ以上出したくない…」とお悩みの方は、社労士事務所に相談してみることをおすすめします。