「休業手当と休業補償ってなにが違うの?」
「それぞれどういう時に支給するの?」
「上司に確認したいけど、今更聞けない…誰か違いを教えてほしい」
企業の人事労務担当者の方で、このような悩みを抱えていませんか?
休業手当と休業補償は異なる制度ですが、名前が似ているので混同してしまいがちです。
ですが混同して対応を間違えると、従業員から不払いと認識されて労使トラブルに発展する恐れがあります。
また休業手当と休業補償も、どちらも法律で義務付けられた制度なので、場合によっては罰則を受けてしまうかもしれません。
そうした事態を防ぐために、今のうちに制度の違いをきちんと確認しておきましょう。
この記事では休業手当と休業補償の違いの他に、それぞれの制度について、以下の内容を説明します。
- 支払い義務が発生するケース、しないケース
- 支給対象者
- 計算方法
この記事を読むと、もう休業手当と休業補償の違いに悩まなくなります。
ぜひ最後まで読んで、参考にしてください。
【休業手当と休業補償の違いは?】支給理由も取り扱われ方も異なる別の制度
結論から言うと、休業手当と休業補償は次のような違いがあります。
- 休業手当
-
- 会社都合で休業をするときに従業員に支払う
- 賃金として扱われるため、給与所得になる
- 「平均賃金×60%以上×休業日数(所得労働日)」で計算する
- 休業補償
-
- 業務上の傷病で働けずに賃金を受けられない従業員に支払う
- 補償として扱われるため、非課税所得になる
- 「平均賃金×60%×休業日数」
いかがでしょうか?
名前が似ていて混同されがちな休業手当と休業補償ですが、比べてみると全く違う制度だとお分かりになると思います。
ここからは、より2つの制度の違いを知るために、それぞれ詳しく解説していきます。
【休業手当とは】会社都合で従業員に休ませたときに支払う手当
まず最初は休業手当について解説します。
休業手当は、会社都合で従業員に休ませたときに支払う手当です。
企業は休業期間中、従業員に平均賃金の60%以上を支払わなければならないと、労働基準法第26条で義務付けられています。
休業手当の支払い義務が発生するケース
会社都合の休業には、次のようなケースがあります。
- 経営難による休業
- 資源不足による休業
- 人手不足による休業
- 人手が余り、交代で行なった休業
- 機械や装置の不具合・検査による休業
- 電力・燃料不足による休業
- 監督官庁の勧告による休業
- 限度を超えたロックアウトによる休業
ロックアウトとは、ストライキに対抗して会社が事業場などを一時封鎖することです。
上記の理由で休業する場合は、従業員に休業手当を支払う必要があります。
また、現在も猛威を振るっている新型コロナウイルス。
会社の自主的判断で、感染の疑いがある従業員に休業をとらせた場合も、休業手当を支払わなければいけません。
休業手当の支払い義務が発生しないケース
会社が指示した休業でも、休業手当の支払義務が発生しないケースがあります。
- 台風や地震など、自然災害による休業
- 計画停電で電力が供給されないことによる休業
- 正当なロックアウトによる休業
これらのケースは不可抗力による休業なので、休業手当を支払う必要はありません。
また新型コロナウイルスに関連する、以下の休業においても同様です。
- 従業員が新型コロナウイルスに感染して休業する場合
- 受診・相談センター等から休業を指示された場合
- 感染の疑いがある従業員が自主的に休業する場合
もし休業手当を支給するべきか否かの判断に迷った場合は、社会保険労務士に相談することをおすすめします。
休業手当の支給対象者
休業手当は正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員等すべての従業員が対象になります。
ただし派遣社員の場合、休業手当の支払義務は派遣元企業に発生します。
休業手当の計算方法
休業手当で支払う金額は、次の計算式で求めます。
- 休業手当の求め方
-
平均賃金×60%以上×休業日数(所定労働日)
- 平均賃金の求め方
-
休業開始日直前の3ヶ月間の賃金総額÷その3ヶ月の総日数
このときの平均賃金は基本給のことではないので、間違えないように注意しましょう。
また賃金総額に、以下のような賃金は含まれません。
- 臨時に支払われた賃金(結婚手当、傷病手当、見舞金、退職金等)
- 3ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金(賞与等)
- 通貨以外のもので支払われた賃金(いわゆる現物給与)
しかし日給制、時給制、出来高制の場合、上記の計算式だと平均賃金が低くなることがあります。
なので、下記の式で算出した最低保証金額の方が高ければ、そちらを平均賃金として扱ってください。
- 最低保証金額の求め方
-
(休業開始日直前の3ヶ月の賃金総額÷その3ヶ月の総労働日数)×60%
支払った休業手当は、法律上賃金として扱われるため、給与課税対象になります。
【休業補償とは】業務上の傷病で働けず賃金を受けられない従業員に支払う補償
続いて、休業補償について解説しましょう。
休業補償とは、従業員が業務上に負った傷病を治療するために、働けなくなった従業員に支払う補償です。
補償額は平均賃金の60%と定められていて、企業側に故意や過失がなくても、その額を従業員に支払う義務があります。
会社が休みの日でも、休業期間に含まれていれば補償が必要です。
しかし、休業4日目以降に労災保険から「休業補償給付」が支給される場合は、企業の補償責任は免除されます。
また、通勤災害(通勤中に負った傷病)は、休業補償の対象にはなりません。
補償金の代わりに有給休暇を与えることも可能
従業員が申し出た場合に限り、補償金の代わりに年次有給休暇を与えることができます。
その場合、企業は従業員に休業補償を支払ったと判断されます。
休業補償の支給要件
休業補償は、従業員が3つの要件を満たしたときに支給します。
- 業務上に負った傷病の治療中であること
- 働けない状態であること
- 賃金を受けていないこと
なお、この要件は労災保険から支給される休業補償給付の要件と同様です。
休業補償の支給対象者
支給要件を満たしていれば、どの雇用形態の従業員にも休業補償を支払う必要があります。
けれど派遣社員の場合は、基本的に派遣元企業が支給されることになります。
休業補償の計算方法
休業補償の支給額は、次の計算式で求めます。
- 休業補償の求め方
-
平均賃金×60%×休業日数
- 平均賃金の求め方
-
休業開始日直前の3ヶ月間の賃金総額÷その3ヶ月の総日数
平均賃金は休業手当の時と同じように、上記の計算式で算出します。
また、休業補償は賃金ではなく補償という扱いになるので、税金はかかりません。
休業4日目から支給される休業補償給付とは
先の説明で何度か触れましたが、休業4日目からは労災保険から「休業補償給付」が支給されます。
休業補償給付は、業務上の傷病を治療するために働けず、賃金が支払われない時に支給される給付制度です。
支給額は給付基礎日額(≒平均賃金)の60%で、その他に20%が「休業特別支給金」として上乗せされます。
また、通勤災害は休業補償の対象になりませんが、休業給付は支給されます。
手続きは、労働者本人が所轄の労働基準監督署長に必要書類を提出する、という流れです。
けれど、もし労働者が手続きを進めることが困難な場合は、労働者の承諾を得て会社が提出することもできます。
申請の際には、次のいずれかを提出してください。
どちらの書類も、厚生労働省のサイトでダウンロードできます。
- 休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号)
- 休業給付支給請求書(様式第16号の6)
場合によっては添付書類も必要になるため、所轄の労働基準監督署に確認しながら、手続きを進めるといいでしょう。
従業員の休業期間が長くなる場合は、1ヶ月ごとに請求するのが一般的です。
まとめ|休業手当と休業補償はまったく違う制度だから注意しよう
いかがでしたでしょうか?
最後に、もう一度休業手当と休業補償の違いをおさらいしましょう。
- 休業手当
-
- 会社都合で休業をするときに従業員に支払う
- 賃金として扱われるため、給与所得になる
- 「平均賃金×60%以上×休業日数(所定労働日)」で計算する
- 休業補償
-
- 業務上の傷病により働けないために賃金を受けられない従業員に支払う
- 補償として扱われるため、非課税所得になる
- 「平均賃金×60%×休業日数」で計算する
休業手当と休業補償はまったく別の制度ですが、どちらも従業員の生活を守ることを目的としています。
人事労務担当者の方は2つの制度の違いを理解し、従業員の生活を守れるように、正しく対応できるようにしておきましょう。
また「この事例では支給対象になるのか分からない…」と判断できないような場合は、ぜひ飯田橋事務所にご相談ください。
人事・労務管理の経験を積んだ当事務所の専門職員が、丁寧に疑問にお答えします。
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