最近よく聞く「ジョブ型」。
ジョブ型雇用を略した言い方ですが、対局には「メンバーシップ型」があり、もともと日本と欧米の雇用システムを対比するために、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口圭一郎氏が作った言葉で下記のように定義されます。
- ジョブ型…初めに仕事(ジョブ)があり、そこにふさわしい人をはめ込む仕組み。
- メンバーシップ型…初めに人(社員)があり、それに仕事をあてがうという仕組み。
なぜいま「ジョブ」型?
大きな理由が3つあります。
一つ目はコロナ禍で在宅勤務やテレワークなど働き方の多様化が加速したことです。テレワークの業務管理のむつかしさ、メンバー間のコミュニケーション不足など様々な課題が生まれ、働く場所や時間にとらわれず、より個人の役割が明確であるジョブ型がスポットを浴びたのです。
二つ目は2020年に経団連が経営労働政策特別委員会報告にて日本型雇用システムを見直すべき、と提起したこともあります。国外企業との競争激化の中、従来の日本の雇用システムでは生き残りが難しい、という考え方が一般化したためです。
三つ目は大手企業のジョブ型への転換と拡大です。
では「ジョブ型雇用」になることで企業、求職者双方から見た場合のメリットデメリットを見てみましょう。
企業側からみたジョブ型雇用のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・戦略上重要な人材を採用しやすくなる ・職務と処遇の連動が強くなる(年功型処遇が解消されやすい) | ・より条件の良い企業に優秀な人材が流出しやすい ・職務定義書のメンテナンスなど運用コストがかかる |
求職者側からみたジョブ型雇用のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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・専門的なスキルを磨く機会が増える ・自分の得意分野、学んでいきたい分野に集中しやすい | ・担当できる業務内容が限定されるので、仕事がなくなる可能性がある |
「ジョブ型雇用」の期待効果
今の時代、企業が抱える顕在化した課題は共通しています。
ここでは顕在化した企業が抱える4つの課題を取り上げ「ジョブ型雇用」によってそれら顕在化した課題をどのように解決できるのか見てみましょう。
課題1:上がり続ける総人件費(社員の平均年齢の上昇)に対して…
組織に必要な職務に対して処遇するため、人件費をコントロールしやすくなる。
課題2:成果と報酬、処遇の不一致(不活性ミドル、社内失業、シニア)…
成果が明確化。処遇の不公平を解消できる。
課題3:人材確保が困難(高度専門人材、中途採用難)…
職務の市場価値に合わせて職種別の賃金を調整しやすくなる。
課題4:難航するグローバル人事ガバナンス(ジョブ型が標準の海外拠点の人事運用との乖離)…
グローバルな人事制度統一が図りやすくなり国横断の人事交流を促進できる。
中小企業で「ジョブ型雇用」への転換が進まないワケ
経営側の懸念
- 社員の職権意識が強くなりすぎてコントロールしにくくなるのでは
はたらく側の誤解
- 仕事の成果だけで給与が決まる「成果主義」との混同
- パフォーマンスが上がらないとクビになるのでは
若手を育て、全員に出世のチャンスがある日本のメンバーシップ型雇用と比べると、一生職務に見合った賃金しか得られない可能性が高い「ジョブ型雇用」は非常にシビアです。
それでも「ジョブ型雇用は日本の企業風土や労働慣行にそぐわない」と切り捨てるわけにはいきません。なぜならば、「雇用や評価に透明性をもたらす」効果があるからです。
戦後の経済成長期を経て経済が右肩上がりの時代は賃金も右肩上がりで、企業の人事制度はブラックボックスであっても、不満が少なくある程度成り立っていました。しかし、その前提が崩れた現在は、人事制度にも社員一人ひとりに納得感をもたらす客観性や透明性が求められ、それを実現しなければ有能な人材は獲得、確保するがままならなくなりました。
この点一つをとっても、過去にないほどの環境変化の激しい現代において、企業の雇用システムや人事制度は従来通りというわけにはいかず、何らかの変革が求められることは間違いありません。
社会保険労務士はいまや手続きだけを行うわけではなくなりました。法律関係を前提に企業の人事制度がうまく機能するにはどのような制度が最適なのか、また人材の安定確保のために様々な法律要件(年次有給休暇、残業代は適正なのか、健康診断、休日休暇)をクリアするためのお手伝いができます。
社会保険労務士 植田 秀樹