「勤務間インターバル制度ってどんな制度?」
「導入して意味あるの?」
「制度のメリットやデメリットを知りたい」
人事・労務担当者の方で、このような疑問を抱えていませんか?
勤務間インターバル制度は2019年から努力義務化された、一定以上の休息時間を設ける制度です。
労働者の健康のために作られた制度なので、自社の労働者のために導入を検討している方も多いのではないでしょうか?
しかし、制度の具体的な概要や、導入する効果が分からなければ、導入に踏み切れませんよね。
そこで、本記事では次の内容を解説します。
- 勤務間インターバル制度の概要
- メリット・デメリット
- 導入の流れ
ぜひ最後まで読んで、参考にしてください。
勤務間インターバル制度は一定の休息時間を設ける制度
勤務間インターバル制度は、勤務終了時刻から翌日の勤務開始時刻の間に、一定の休息時間(インターバル)を設ける制度です。
労働者が働くうえで、充分な休息時間を確保することが目的となっています。
働き方改革関連法に基づき、労働時間等設定改善法が改正されたことで、2019年4月から施行されました。
勤務間インターバル制度が導入された背景
現在の日本では、長時間労働による過労死・過労自殺が社会問題となっています。
厚生労働省は2021年度の「過労死等の労災補償状況」で、過労死等による労災補償の請求件数が3,099件と公表しました。
前年度と比べて264件も増加しています。
また、過労死までには至らなくても、健康面に支障を来すことで、休職・退職してしまう労働者も少なくありません。
過労死等は、長時間労働やハラスメントなどが原因による、睡眠不足の影響が大きいと考えられています。
そうした睡眠・休息時間の不足による健康障害を防ぐために、厚生労働省は勤務間インターバル制度の発足に踏み切りました。
勤務間インターバル制度を導入していない企業の罰則
現時点で、勤務間インターバル制度の導入は努力義務です。
そのため制度を導入していない企業が、罰則を科せられることはありません。
しかし、労働者に充分な休息を取らせずに、長時間労働を強いる企業は、労働基準監督署から行政指導が行われる場合があります。
勤務間インターバル制度が義務化される時期
先述したように、今のところ勤務間インターバル制度の導入は義務化されていません。
しかし厚生労働省は、2025年までに制度を導入している企業割合を15%以上にすることを目標にしています。
そのため、達成期限の2025年が来るまでに、制度導入が義務化される可能性があります。
勤務間インターバル制度の助成金について
2022年12月12日から厚生労働省は、勤務間インターバル制度の導入に取り組む事業主を対象に「働き方改革推進支援助成金」を支給することに決定しました。
なお、令和4年度分の交付申請期間は、2023年1月13日をもって終了しております。
令和5年度分については執筆時点では未定です。
勤務間インターバル制度の4つのメリット
続いて、勤務間インターバル制度を導入するメリットを解説します。
労働者や企業が得られるメリットは、次の4つです。
- 労働者の健康が守られる
- 仕事とプライベートが両立できる
- 離職率が低下する
- 仕事の効率が向上する
順に解説していきます。
メリット①:労働者の健康が守られる
勤務間インターバル制度の一番のメリットは、労働者の健康確保です。
長時間労働は疲労を蓄積させ、心と身体に影響を及ぼします。
脳梗塞や心筋梗塞などの発症リスクも高まってしまうので、とても危険です。
そのため、勤務間インターバル制度で休息時間を確保し、長時間労働を防ぐことができれば、労働者の健康は守られるでしょう。
メリット②:仕事とプライベートが両立できる
勤務間インターバル制度によって、休息できる自由時間を作れば、その分労働者はプライベートを充実できます。
仕事だけでなくプライベートも充実すれば、日々の生活にメリハリがついて、仕事へのモチベーションも向上するでしょう。
メリット③:離職率が低下する
前述したメリットの労働者の健康確保、仕事とプライベートの両立が実現できれば、そこは労働者にとって魅力的な職場になります。
その結果、離職率が低下して、なおかつ人材の確保も期待できるでしょう。
メリット④:仕事の効率が向上する
勤務間インターバル制度を導入すると、自動的に労働時間が制限されます。
そのため、短い時間で業務を終わらせるために、集中力が高まって効率よく業務を進められます。
勤務間インターバル制度の4つのデメリット
残念ながら、勤務間インターバル制度にはデメリットも存在します。
- 残業が評価される会社では意味がない
- 初期費用がかかる
- 持ち帰り残業が発生しやすくなる
- 繁忙期にはインターバルが確保しづらい
それぞれ解説していきます。
デメリット①:残業が評価される会社では意味がない
会社の中には、遅くまで残業する姿勢を評価するところがあります。
「残業=高評価・好待遇」という風習が根付いていては、勤務間インターバル制度を導入しても、従業員は休息を取らない可能性が高いです。
そういった会社は制度を導入する前に、まずは「残業=高評価」という風習を変えていく必要があります。
デメリット②:初期費用がかかる
勤務間インターバル制度を導入した場合、従業員1人あたりの労働時間が減少します。
なので、その減少分をカバーできるだけの人員を増強する必要があります。
休息時間をカウントするための勤怠管理システムも必須なので、ある程度の初期費用がかかるでしょう。
導入前に、初期費用の見積もりを行うことをおすすめします。
デメリット③:持ち帰り残業が発生しやすくなる
勤務間インターバル制度によって、労働時間が制限されることで、持ち帰り残業が発生する可能性があります。
職場でインターバルを取っても、自宅で長時間労働を行っては意味がありません。
従業員1人あたりの業務分担を見直したり、業務効率化を行うなどして、持ち帰り残業をさせない体制をつくる必要があります。
デメリット④:繁忙期にはインターバルが確保できない
繁忙期には人手不足になりがちなので、制度を導入してもインターバルを確保できない可能性があります。
従業員全員が柔軟に利用できるインターバルの設定を検討する必要があります。
勤務間インターバル制度導入の流れを5ステップで紹介
実際に勤務間インターバル制度を導入するには、次のような流れを行います。
- 現状の労働時間等を設定する
- 制度を設計する
- 就業規則に規定する
- 従業員・顧客に周知する
- 運用を始める
具体的に紹介していきます。
ステップ①:現状の労働時間等を把握する
まずは、現状の労働時間等を把握します。
現状を把握しなければ、従業員が休息を充分に取れているのか、確認できないからです。
具体的には、次の点を把握する必要があります。
- 就業規則(労働時間に関わる部分)
- 実労働時間
- 時間外労働の発生要因
- 通勤時間
- 従業員の労働時間に関するニーズ
- (交替制勤務等の場合の)勤務パターン
- 時間外労働時間(休日労働を含む)
- インターバル時間
- 取引先等の制約
労働時間の把握方法については、タイムカードやパソコンのログイン・ログオフ履歴の記録などがあります。
ただし、サービス残業をしている可能性もあるので、実態を正確に把握するために、従業員本人やその上司に直接話を聞くことも必要です。
ステップ②:制度を設計する
労働時間を把握できたら、次はその実態に合わせてインターバル時間を設計します。
インターバル時間の他にも、現状と課題に応じて、次の項目を設計してください。
- 適用対象
- インターバル時間数
- インターバル時間によって翌日の勤務開始時刻を超えた場合の対応
- インターバル時間を確保しないことが認められるケース
- インターバル時間の確保に関する手続き方法
- インターバル時間を確保できなかった場合の対応
- 労働時間管理方法の見直し
なお、インターバル時間数は睡眠時間や生活時間を確保できる時間を考慮して、設定してください。
参考として、令和4年度分の助成金では「9時間以上」に設定した企業が、助成金の支給対象になっています。
ステップ③:就業規則に規定する
ステップ②の内容を就業規則に規定します。
厚生労働省が規定例を紹介しているので、参考にすることができます。
- ①インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合【例1】
-
(勤務間インターバル制度)
第〇条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、〇時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。
- ②インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複した時、勤務開始時刻を繰り下げる場合【例2】
-
(勤務間インターバル)
第〇条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、〇時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時刻は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
- ③災害その他避けることができない場合に対応するため、除外を設ける場合、上記1又は2の第1項に次の規定を追加します。
-
ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。
なお、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則を変更した際に届出義務が発生します。
該当の事業場では、労働基準監督署に提出することを忘れないでください。
ステップ④:従業員・顧客に周知する
勤務間インターバル制度の内容を従業員に周知します。
顧客や取引先も制度導入の影響を受ける可能性があるので、同じく制度の説明を行ってください。
ステップ⑤:運用を始める
従業員に周知したら、運用開始です。
定期的に制度を見直して、自社で運用しやすいように改善していきましょう。
まとめ|勤務間インターバル制度には意味がある!
最後に勤務間インターバル制度の概要と、メリットとデメリットをおさらいしましょう。
勤務終了時刻から翌日の勤務開始時刻の間に、一定の休息時間(インターバル)を設ける制度のこと。
- メリット
-
- 労働者の健康が守られる
- 仕事とプライベートが両立できる
- 離職率が低下する
- 仕事の効率が向上する
- デメリット
-
- 残業が評価される会社では意味がない
- 初期費用がかかる
- 持ち帰り残業が発生しやすくなる
- 繁忙期にはインターバルが確保しづらい
勤務間インターバル制度にはデメリットもありますが、メリットも存在します。
一番のメリットは、労働者の健康が守られるという点です。
現在は義務化されていませんが、制度の導入を検討して、労働者の健康を確保しましょう。
また「まずは残業が評価される労働環境を改善したいけど、どうやって取り組めばいいのか分からない…」という場合は、飯田橋事務所にご相談ください。
労働環境の見直しや改善のために、当事務所の専門職員がサポートします。
もちろん、勤務間インターバル制度についてのご相談も承っているので、お気軽にお問い合わせください。