「フリーランス保護新法ってどんな法律?」
「下請法とは違うの?」
「企業はどのように対応すればいい?」
企業の人事労務担当者の方で、このような悩みを抱えていませんか?
フリーランス保護新法は、文字通りフリーランスを保護するために成立した法律です。
フリーランスと取引をする企業には、様々な措置を講じることが定められています。
新法が施行される前に、本記事では次の内容を解説します。
- フリーランス保護新法とは
- 下請法との違い
- 法律の内容
- 違反した場合の罰則
- 施行までに企業が対応しておくこと
担当者の方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
フリーランス保護新法とは
「フリーランス保護新法」は、副業・兼業を含むフリーランスがビジネス上で安定し、不適切な取引から守るための新しい法律です。
フリーランスの社会的保護を促進し、個人が安定的に業務に従事できる環境を整備することを目的としています。
フリーランス保護新法が制定された背景
フリーランス保護新法の成立背景には、フリーランス人口の増加と、フリーランスの立場の弱さがあります。
フリーランス人口は年々増加傾向にあり、そのうちの37.7%が取引先とのトラブルを経験していると、令和2年5月の内閣官房の調査で判明しました。
特に、報酬の遅延や業務内容・取引条件の不明確さなどが、主な問題とされています。
このような問題を防ぐために、フリーランス保護新法は、業務委託時の取引条件明示や報酬の支払いの適正化など、様々な業務を規定しています。
参考:フリーランス実態調査結果(令和2年5月内閣官房日本経済再生総合事務局)
フリーランス保護新法と下請法の違い
下請法は、下請事業者の不公正な処遇や取り扱いを防ぐ法律です。
フリーランス保護新法と下請法は、保護範囲と規制範囲に違いがあります。
- 保護対象
-
下請法:資本金1,000万円以下の下請け業者
フリーランス保護新法:業務委託を受けるフリーランス
- 規制対象
-
下請法:資本金1,000万円超の事業者
フリーランス保護新法:すべての事業者
下請法は、資本金1,000万円超の事業者しか規制の対象としていません。
しかし、フリーランス保護新法では資本金の大小を問わず、すべての事業者が規制対象となります。
フリーランス保護新法における「フリーランス」の定義
フリーランス保護新法の保護対象となるのは、その名の通りフリーランス(特定受託事業者)です。
新法におけるフリーランスは、以下のすべてに該当する労働者と定義されています。
- 実店舗がない
- 個人経営者や一人社長
- 従業員を雇用していない
- 経験やスキルを活用して収入を得ている
従業員を雇用している個人事業主や、複数の役員や従業員を持つ法人は、保護の対象外となります。
フリーランス保護新法の施行はいつから?
フリーランス保護新法は、2023年4月に参院本会議で可決・成立しました。
成立から最長で1年6ヶ月以内、2024年秋頃までに施行される予定です。
現時点では、明確な施行日は決まっていません。(2023年9月現在)
フリーランス保護新法の内容
フリーランス保護新法では、フリーランスとの取引で次の措置を講じることが定められています。
- 業務委託時の取引条件を明示する
- 60日以内に報酬を支払う
- 禁止事項を守る
- 募集情報を正確に表示する
- 出産・育児・介護に関する配慮に努める
- ハラスメント対策に努める
- 契約不更新・中途契約する場合は事前予告する
それぞれの措置を解説していきます。
①業務委託時の取引条件を明示する
フリーランスに業務を発注する企業は、以下の点を必ず明示しなければいけません。
- 給付の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 公正取引委員会規則が定めるその他の事項
明示方法は、書面またはメールなど電磁的な方法になります。
しかし、フリーランスが書面の交付を希望した場合は、企業は遅延なくそれを交付する必要があります。
口頭での発注は違反となるので、今まで口頭で取引をしていた企業は注意してください。
②60日以内に報酬を支払う
原則として、企業はフリーランスが業務提供を完了した日から、60日以内に報酬を支払わなければいけません。
他にも、フリーランス保護新法では、支払期日について次のように定められています。
原則 | 業務提供の完了日から60日以内 |
再委託の場合 | 元委託者からの報酬支払期日から30日以内 |
支払期日を定めなかった場合 | 業務提供の完了日 |
業務提供の完了日から60日を超える支払期限を定めた場合 | 業務提供の完了日から60日を経過する日 |
例えば、もし「月末締め・翌月末支払い」という契約をフリーランスと結んだ場合、60日以内に収まるため合法です。
一方で、「月末締め・翌々月15日支払い」の場合は60日を超えるため法律違反になります。
③禁止事項を守る
フリーランス保護新法では、次の行為が禁止されているので、遵守しなくてはいけません。
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
- 通常相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること
- 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
引用:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の概要(新規)
④募集情報を正確に表示する
企業はフリーランス募集時には、正確かつ最新の情報を提供し、虚偽または誤解を招く表現を避けなければいけません。
これは、クラウドソーシングサイトやSNSなどの、広告としての募集情報にも当てはまります。
募集内容と契約内容が異なる場合は、企業がきちんと説明し、情報を更新する必要があります。
⑤出産・育児・介護に関する配慮に努める
企業はフリーランスとの長期間の業務委託がある場合、出産や育児、介護に関連する配慮をしなければいけません。
具体的には、納期の変更やスケジュールの調整、リモートワークの許可などが挙げられます。
⑥ハラスメント対策に努める
企業は、フリーランスに対しハラスメントに至らないよう、適切な対応をする義務があります。
具体的には、ハラスメント相談窓口の周知、相談に対しての迅速な対応などです。
また、フリーランスのハラスメントの相談や申出に対して、企業は不利益な取り扱いや契約解除を行ってはいけません。
⑦契約不更新・中途契約する場合は事前予告する
企業がフリーランスとの契約を更新しない、もしくは中途解約する場合は、少なくとも30日前に予告しなければいけません。
また、フリーランスから契約解除等の理由を知りたいと要求された場合、企業は遅滞なく理由を開示する必要があります。
フリーランス保護新法に違反した場合の罰則
企業がフリーランス保護新法に違反していると発覚した場合、公正取引委員会や厚生労働大臣から指導・命令を受けることがあります。
命令違反および検査拒否等については50万円以下の罰金が科せられ、法人の場合は行為者と法人の両方に罰則が適用されます。
フリーランス保護新法の施行までに企業が対応しておくこと
フリーランス保護新法の施行前に、企業は以下のことに対応しておくことが望ましいです。
- 業務委託契約書のフォーマットを見直し・修正する
- 業務委託募集内容のフォーマットを見直し・修正する
- 社内体制を整備する
- 対応マニュアルを作成・配布する
- フリーランス保護新法を遵守することを対外発信する
- フリーランス保護新法の動向をチェックする
ひとつずつ解説していきます。
①業務委託契約書のフォーマットを見直し・修正する
フリーランス保護新法では、業務委託時の取引条件の明示が義務付けられています。
今のうちに契約書のフォーマットを見直し、必要があれば修正しておきましょう。
②業務委託募集内容のフォーマットを見直し・修正する
フリーランス保護新法では、業務委託募集内容を正確に表示する必要があります。
求人票だけでなく、クラウドソーシングサイトやSNSなどの募集情報も整備しておきましょう。
③社内体制を整備する
新法に伴い、フリーランスに対しても従業員と同じように、ハラスメント対策や出産等に関連する配慮に努めなければいけません。
フリーランス向けの相談窓口の周知、スケジュールの調整など社内体制を整えましょう。
④対応マニュアルを作成・配布する
フリーランス保護新法の内容を正確に理解し、遵守するためには、対応マニュアルが必要です。
これによって、従業員とフリーランス双方が新法に則った行動ができます。
⑤フリーランス保護新法を遵守することを対外発信する
新法遵守を対外発信すると、企業の信頼性が向上し、優秀なフリーランスを確保しやすくなります。
ウェブサイトやSNSを通じて、新法遵守の取り組みをアピールすることをオススメします。
⑥フリーランス保護新法の動向をチェックする
フリーランス保護新法は2024年秋頃に施行される予定ですが、正式な施行日はまだ決まっていません。
予定よりも施行が早まる可能性もあるので、定期的に新法の動向をチェックしておきましょう。
まとめ|施行までにフリーランス保護新法の理解を深めておこう
それでは最後に、本記事のおさらいをしましょう。
- 「フリーランス保護新法」はフリーランスがビジネス上で安定し、不適切な取引から守るための法律
- 下請法とは、保護範囲と規制範囲に違いがある
- 企業はフリーランスとの取引で「業務委託時の取引条件を明示する」「60日以内に報酬を支払う」などの措置を講じなくてはいけない
- 違反した場合は50万円以下の罰金が科せられる
フリーランス保護新法の適切な実施は、組織環境を改善し、フリーランスとの信頼関係を深めることができます。
施行までにフリーランス保護新法の要件を正しく理解し、適切な対応を行いましょう。