「障害者雇用促進法の改正内容を知りたい」
「今の法律では、障害者を何人雇用する必要があるの?」
「今後、どのように障害者雇用促進法は変わっていくの?」
人事労務担当者の方で、このような悩みを抱えていませんか?
障害者雇用促進法は、障害者の雇用の安定と促進を図るために制定された法律です。
この法律は2022年に改正され、2023年から順次施行されています。
しかし、まだ改正内容をすべて把握しきれておらず、戸惑っている担当者の方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、障害者雇用促進法の改正内容について詳しく解説していきます。
ぜひ最後まで読んで、障害者雇用の参考にしてください。
障害者雇用促進法とは?わかりやすく解説
改正内容を解説する前に、まずは障害者雇用促進法について説明していきます。
障害者雇用促進法は、障害者の職業生活の安定を図り、その自立をサポートするための法律です。
この法律での「障害者」は、以下のように定義されています。
定義 | |
---|---|
A.身体障害者 | 身体障害者手帳を持っている |
B.知的障害者 | 各自治体で発行される療養手帳等を持っている |
C.精神障害者 | ・精神障害者保健福祉手帳を持っている ・症状が落ち着き、働くことができる状態である |
D.精神障害者 | ・精神障害者保健福祉手帳を持っていない ・統合失調症、そううつ病(※)、てんかんがある人 |
E.その他の障害者 | 発達障害者、難治性疾患患者等 |
障害者雇用促進法では、企業に対して次の内容を定めています。
①障害者の雇用義務
一定数以上の従業員を雇用する企業は、障害者の雇用が義務付けられています。
雇用する障害者の割合は「法定雇用率」と言って、5年に1度のペースで割合が見直されています。
ちなみに障害者雇用の指標として「実雇用率」がありますが、法定雇用率とは異なる意味なので、混同しないように注意しましょう。
法定雇用率:事業主に義務付けられた、障害者を雇用しなければならない割合
実雇用率:事業主が実際に雇用している障害者の割合
②障害者雇用納付金の納付義務
常時雇用労働者数が101人以上の企業が、法定雇用率を満たしていない場合は、不足人数1人あたり月50,000円の納付金を支払う必要があります。
③障害者雇用調整金・助成金の受給
一定の条件を満たしている企業には、障害者雇用調整金もしくは助成金が支給されます。
- 障害者雇用調整金
-
対象企業:常時雇用労働者数が101人以上
支給金額:法定雇用率を超えた障害者数1人につき、毎月27,000円
条件:法定雇用率を達成している
- 障害者雇用報奨金
-
対象企業:常時雇用労働者数が100人以下
支給金額:障害者雇用率を超えた障害者数1人につき、毎月21,000円
条件:前年度の各月ごとの算定基礎日における常用障害者雇用者数の年度間合計数が、次のいずれか多い数を超えている
- 各月ごとの算定基礎日における常用雇用労働者数に4%をかけて得た数の年度間合計数
- 72人
④差別禁止と合理的配慮の提供義務
企業は、障害者に対する差別を禁じ、合理的な配慮を提供する義務があります。
例えば、具体的な内容としては以下の通りです。
- 障害を理由に募集、採用、賃金、配置、昇進、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用等の待遇で、不当な取り扱いをしない
- 採用後の均等な待遇の確保として、車椅子を使用する従業員のために、スロープを設置したり、作業スペースの配置を調整する
- 障害のある人の能力発揮の支障となる事情の改善のため、聴覚障害者の従業員に対して、筆談や手話通訳を提供する
⑤ハローワークへの報告義務
43.5人以上の従業員を抱える事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用状況をハローワークに報告する必要があります。
この報告は「ロクイチ報告」とも呼ばれ、行政が全国の障害者雇用状況を把握し、必要に応じて政策を策定するための重要なデータとなります。
2023年以降どうなる?障害者雇用促進法の改正内容を解説
今まで幾度も改正が行われた障害者雇用促進法ですが、2022年に新たに改正されました。
ここからは施行期日に沿って、改正内容を解説していきます。
①【2023年4月1日~】精神障害者の算定特例の延長
平成30年4月から精神障害者の雇用が義務化され、その際に算定特例が参入されました。
この特例では、短時間労働(※)の精神障害者が1人としてカウントされます。
当初は2023年3月までの予定でしたが、法改正により4月以降も適用されています。
また、3月までの特例措置では、雇入れからの期間等の要件が定められていました。
しかし、4月からはそういった要件はなく、短時間労働(※)の精神障害者が1人としてカウントされます。
(※)1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満
②【2023年4月1日~】障害者雇用調整金の支給額見直し
法改正により、2023年4月から障害者雇用調整金の支給額が見直されます。
2022年度:1人あたり月額27,000円
2023年度:1人あたり月額29,000円
③【2024年4月1日~】障害者雇用調整金・報奨金の支給調整
2024年度からは、障害者雇用調整金・報奨金の支給調整が行われます。
- 障害者雇用調整金
-
2023年度:1人あたり月額29,000円
2024年度:1人あたり月額29,000円。ただし、支給対象人数が10人を超える場合、その超過分から23,000円となる。
例えば、支給対象人数が15人の場合、支給額は以下の通りになります。
計算式2023年度:29,000×15=435,000円
2024年度:(29,000×10)+(23,000×5)=405,000円
- 障害雇用報奨金
-
2023年度:1人あたり月額21,000円
2024年度:1人あたり月額21,000円。ただし、支給対象人数が35人を超える場合は、その超過分から16,000円となる。
例えば、支給対象人数が40人の場合、支給額は以下の通りになります。
計算式2023年度:21,000×40=840,000円
2024年度:(21,000×35)+(16,000×5)=815,000円
支給単価の削減によって生じる財源は、新たに設けられる障害者雇用に関する相談サービスへの支援や、既存の助成プログラムの充実に使用される予定です。
④【2024年4月1日~】法定雇用率の引き上げ
企業が雇用する障害者の割合は「法定雇用率」で定められています。
2023年度の民間企業の法定雇用率は2.3%ですが、2024年度からは2.5%に引き上げられます。さらに、2026年7月からは2.7%と段階的に引き上げられていく予定です。
この法定雇用率が引き上げられることにより、雇用義務を負う事業主の範囲も修正されます。
2023年度 | 2024年4月 | 2026年7月 | |
---|---|---|---|
民間企業の法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
対象事業主の範囲 | 43.5人以上 | 40.0人以上 | 37.5人以上 |
⑤【2024年4月1日~】週所定労働時間20時間未満の雇用率への算定
2024年4月1日から、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の特定の障害者は、1人を0.5人として実雇用率に算入することになります。
対象の障害者は次の通りです。
- 精神障害者
- 重度身体障害者
- 重度知的障害者
これは障害の特性により、長時間勤務が難しい障害者も雇用される機会を増やすことを目的としています。
⑥【2024年4月1日~】助成金の新設・拡充
障害者雇用に関する助成金が、新たに創設または拡充される予定です。
- 新設される助成金
-
- 障害者雇用相談援助助成金(仮称)
障害者雇用に課題を抱える中小企業等を対象に、障害者の新規採用を促進し、既存の障害者従業員の雇用を安定させるために支給する助成金です。
- 中高年等障害者職場適応助成金(仮称)
加齢により職場への適応が難しくなった障害者が、引き続き雇用されるための助成金です。
- 拡充される助成金
-
- 障害者介助等助成金(既存)
- 職場適応援助者助成金(既存)等
⑦【2025年4月1日~】除外率の引き下げ
除外率が、法律の改正をもって2025年4月1日以降から、その適用率が10%引き下げられることになりました。
除外率設定業種 | 除外率(~2024年度) | 除外率(2025年4月1日~) |
---|---|---|
・非鉄金属第一次製錬・精製業 ・貨物運送取扱業(集配利用運送業は対象外) | 15% | 5% |
・建設業 ・鉄鋼業 ・道路貨物運送業 ・郵便業(信書便事業を含む) | 20% | 10% |
・港湾運送業 ・警備業 | 25% | 15% |
・鉄道業 ・医療業 ・高等教育機関 ・介護老人保健施設 ・介護医療院 | 30% | 20% |
・林業(狩猟業は対象外) | 35% | 25% |
・金属鉱業 ・児童福祉事業 | 40% | 30% |
・特別支援学校 (専ら視覚障害者に対する教育を行う学校は対象外) | 45% | 35% |
・石炭・亜炭鉱業 | 50% | 40% |
・道路旅客運送業 ・小学校 | 55% | 45% |
・幼稚園 ・幼保連携型認定こども園 | 60% | 50% |
・船員等による船舶運航業の事業 | 80% | 70% |
なお、現在除外率が10%以下の業種は、改正を機に除外率制度の対象外となります。
まとめ|障害者雇用促進法の改正内容をしっかりと把握しよう
それでは、もう一度障害者雇用促進法の改正内容をおさらいしましょう。
- 精神障害者の算定特例の延長
- 障害者雇用調整金・報奨金の支給額見直し
- 法定雇用率の引き上げ
- 週所定労働時間20時間未満の雇用率への算定
- 助成金の新設・拡充
- 除外率の引き上げ
障害者雇用促進法に違反すると、ハローワークからの行政指導が行われたり、厚生労働省のホームページに企業名が公表されることがあります。
障害者従業員からの信頼低下だけでなく、企業のイメージダウンにも関わるので、改正内容をしっかりと把握して障害者雇用の体制を見直しましょう。
もし、障害者雇用促進法の改正を受けて、今後どのような取り組みや制度を導入すべきかお悩みの場合は、飯田橋事務所にご相談下さい。
当事務所の社労士が、法改正情報を提供しながら、障害者雇用に関するコンサルティングを行います。
いつでもお気軽にご相談下さい。