「フレックスタイム制だと残業時間はどう計算すればいい?」
上記のようなお悩みを抱える労務担当の方がいらっしゃるのではないでしょうか。
フレックスタイム制において残業時間を計算する際には、清算期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えているかを確認する必要があります。
本記事では、フレックスタイム制の残業時間を計算する方法を解説します。
フレックスタイム制における残業の定義や注意点についても順番に解説しますので、労務・人事の担当者様はぜひ参考にしてください。
フレックスタイム制における残業の定義
フレックスタイム制における残業は、清算期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合に発生します。
清算期間とは労働者が総労働時間を定めた期間であり、法定労働時間は労働基準法で定められた労働時間の上限です。
法定労働時間の総枠には上限があり、例えば1ヵ月(31日)の場合には177.1時間です。
よって、フレックスタイム制であっても1ヵ月に177.1時間を超えて働いた分が残業とみなされます。
したがって、フレックスタイム制では日々の労働時間の変動があっても、清算期間全体で時間が適正範囲に収まっていれば残業とはなりません。
ただし、清算時間内の法定時間を超えた分は残業として支払う必要があるため、注意が必要です。
フレックスタイム制の概要に関しては、以下の記事をご覧ください。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
参考:労働時間・休日 – 厚生労働省|厚生労働省
フレックスタイム制の残業時間を計算する方法
フレックスタイム制における残業時間の計算は通常の労働時間制度と異なっており、清算期間全体の実労働時間が基準です。
清算期間は最長で3ヵ月まで設定可能であり、労使協定を締結して就業規則に定める必要があります。
また、清算期間内の労働時間は週平均40時間を超えないことが条件です。過不足が生じた場合は残業代の支払いなどで調整を行います。
清算期間が1ヵ月の場合、残業時間は「実労働時間から総労働時間を差し引いた時間」として算出します。
清算期間が2~3ヵ月の場合は、月ごとに週平均50時間を超えた場合や、清算期間全体で法定労働時間の総枠を超えた場合に時間外労働が発生するためケースごとに注意が必要です。
次の項目からは、具体的な残業時間の計算方法を清算期間ごとに解説します。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
清算期間が1ヵ月の場合
フレックスタイム制において清算期間が1ヵ月の場合、残業時間は実労働時間から総労働時間を差し引いた時間で計算します。
たとえば、1ヵ月の清算期間が31日間の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間です。
1ヵ月中の法定労働時間が177.1時間の期間において実労働時間が180時間であれば、2.9時間が残業時間となります。
また超過分が法定労働時間を超えるため、時間外労働として割増賃金の支払いも必要です。
法定労働時間の総枠は清算期間の暦日数によって異なるため、1ヵ月あたりの日数に注意する必要があります。
清算期間が1ヵ月を超える場合
清算期間が2~3ヵ月の場合、残業時間は2つの基準で判断します。
- 1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合
- 清算期間全体での労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合
1つ目の基準は、1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合です。
たとえば、2ヵ月間の清算期間でひと月内の労働時間が週平均50時間を超えた場合、1週間あたりの超過分が残業時間として各月の給与に反映されます。
2つ目の基準は、清算期間全体での労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合です。
たとえば、清算期間が2ヵ月(61日間)で法定労働時間の総枠が348.6時間とします。対象の2ヵ月間において、実労働時間が350時間であれば1.4時間が残業時間となり、清算期間最終月の給与に反映されます。
清算期間が1ヵ月を超える場合には上記の基準をもとに残業時間を正確に計算し、適切な賃金を支払うことが重要です。
フレックスタイム制の残業時間を計算する注意点
次の項目からは、フレックスタイム制の残業時間を計算する注意点を詳しく解説します。
法定内残業なら割増賃金を支払う必要はない
残業といっても法定内残業であれば通常の時間と同じ賃金を支払う必要があるものの、割増賃金を支払う義務はありません。
法定内残業とは、企業ごとに定められた所定労働時間を超えているものの、法律で定められた法定労働時間は超過していない残業時間です。
フレックスタイム制における法定内残業とは、1日8時間または1週40時間の労働時間を超えずに所定労働時間を超えて働く時間を指します。
ただし特例措置対象事業場の場合は例外で週の法定労働時間が44時間となるため、44時間を超えない限り、割増賃金は発生しません。
フレックスタイム制で残業時間を計算する際には、所定労働時間だけでなく法定内残業かどうかを正確に判断することが大切です。
参考:しっかりマスター 割増賃金編|厚生労働省
年次有給休暇の取得の計算
フレックスタイム制のもとで年次有給休暇を取得した場合は協定で定めた「標準となる1日の労働時間」の時間数を労働したものとして取り扱います。
しかし、有給休暇の取得時間は実労働時間には含まれないため、割増賃金の対象外です。
年次有給休暇を半日や時間単位で取得した場合も、年次有給休暇中は実労働時間としては計算されないので注意が必要です。
完全週休2日制だと例外が生じる場合がある
完全週休2日制の企業がフレックスタイム制を導入する場合、曜日の巡りによって例外が生じることがあります。
たとえば1ヵ月の清算期間で平日が23日ある場合、1日8時間働いても総労働時間が184時間となり、法定労働時間の総枠を超えてしまいます。
つまり週40時間の法定労働時間を守っていても、フレックスタイム制の特性により時間外労働が発生するという矛盾が生じます。
しかし上記のケースでは「完全週休2日制」の例外として、労使協定に「清算期間内の所定労働日数×8時間を総労働時間の限度とする」と定めておけば、184時間を超える場合でも割増賃金の支払いが不要となります。
清算期間が1ヵ月の場合においては、注意が必要なポイントです。
就業規則に記載があれば固定残業代と併用できる
フレックスタイム制においても、就業規則に明記されていれば固定残業代と併用することが可能です。
固定残業代とは、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を定額で支払う制度を指します。
フレックスタイム制で固定残業代を導入するには、基本給と固定残業代を明確に区分したうえで、対象となる労働時間数や金額の計算方法を就業規則に具体的に記載することが大切です。
また、固定残業代が対象とする時間数を超える労働が発生した場合には、追加の割増賃金を支払うことも就業規則に明示しておかなければなりません。
フレックスタイム制で固定残業代を導入する場合には就業規則への明記によって、適切な賃金支払いが確保されます。
まとめ
フレックスタイム制における残業時間の計算は、清算期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えているかどうかを確認することが重要です。
清算期間が1ヵ月を超える場合、週平均50時間を超える労働や法定労働時間の総枠を超える労働に対して残業代が発生します。
また、法定内残業や年次有給休暇の取得時の計算方法など、イレギュラーなケースにも注意が必要です。
さらに、完全週休2日制や固定残業代の併用が可能な場合もあり、就業規則への適切な記載が求められます。
注意点を押さえて、フレックスタイム制で正確な残業時間の計算を行いましょう。