就業規則の絶対的必要記載事項とは?相対的記載事項や作成・届出に関する注意点も解説

「就業規則には何を記載すればいい?」「就業規則の絶対的必要記載事項とは何?」

絶対的記載事項とは、法律に基づき、就業規則に必ず記載しなければならない項目のことです。

これらは労働者の基本的な労働条件や権利に直結するため、すべての企業が漏れなく記載する義務があります。

この記事では、就業規則の絶対的必要記載事項相対的記載事項、そして就業規則の作成・届出に関する注意点を解説します。

目次

就業規則の絶対的必要記載事項とは?

就業規則の絶対的必要記載事項

就業規則における「絶対的必要記載事項」とは、労働基準法に基づき、企業が就業規則に必ず記載しなければならない項目のことを指します。

就業規則の絶対的必要記載事項は、以下のとおりです。

就業規則の絶対的必要記載事項
  • 始業及び終業の時刻(勤務時間)
  • 休憩時間
  • 休日、休暇、並びに交代制の場合には就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算および支払いの方法、賃金の締め切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由も含む)

絶対的必要記載事項は労働者の基本的な労働条件を明確にし、労使間の信頼関係を構築し、トラブルを未然に防ぐために非常に重要です。

絶対的必要記載事項は、労働者が安心して働くための基本情報を提供し、企業にとっても法的リスクを軽減する役割を果たします。

以下に、それぞれの具体的な内容について詳しく解説します。

参考:就業規則にはどのようなことを書けばいいのですか。|厚生労働省

勤務時間

勤務時間は、労働者が業務に従事する時間を明確に定める項目です。

法定労働時間は1日8時間、週40時間が原則ですが、これを超える場合は36協定の締結が必要です。

就業規則では、始業時刻や終業時刻、休憩時間を含めた勤務スケジュールを明記しなければなりません。

具体的には、始業時刻や終業時刻、休憩時間のほか、シフト制の場合はその運用方法などを明記します。

また、変形労働時間制や時差出勤を導入している場合には、その具体的な運用ルールを記載することが重要です。

休憩時間

休憩時間についても、明確に規定する必要があります。

労働基準法では、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分以上、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えることが義務付けられています

就業規則には、休憩時間の取り方やタイミング(例:昼休憩や中間休憩)を具体的に記載することが求められます。

記載内容の例
  • 昼休憩の時間帯(例: 12:00~13:00)
  • 短時間労働者への適用方法
  • 作業内容によって必要な中間休憩(例: 長時間の立ち作業や危険作業)など

労働者がどのように休憩を取れるのかを具体的に記載することで、労働環境の透明性を確保します。

参考:労働時間・休憩・休日関係|厚生労働省

休日

休日に関する記載は、労働者の健康を守るために必要な項目です。

法定休日は毎週1日、もしくは4週間で4日以上設ける必要があります。

できるだけ曜日を定めるなど具体的に記載することが望ましいです。

参考:休日?・・・法定休日?|厚生労働省

休暇

休暇制度についても、労働者が取得できる条件や手続きが具体的に定められていなければなりません。

労働基準法で定められた休暇に加え、企業独自の休暇制度がある場合も明記が必要です。

具体的には、以下の内容を記載します。

  • 有給休暇の取得申請方法や期限(例: 取得希望日の○日前までに申請)。
  • 未消化分の繰越や失効ルール。
  • 特別休暇が付与される条件や日数。

有給休暇の取得日数、申請手続き、付与基準などを具体的に記載し、従業員が制度を利用しやすいようにすることが重要です。

賃金

就業規則では、以下の項目を詳細に記載する必要があります。

  • 基本給と各種手当
  • 計算及び賃金の支払方法
  • 賃金の締切り及び支払の時期
  • 割増賃金
  • 昇給に関する事項

基本給、通勤手当、住宅手当、家族手当などの内訳を具体的に記載します。

振込の場合は振込日や振込先を明示し、万が一現金払いの場合は受け渡しの方法を定めましょう。

また賃金に関する事項には、時間外手当や深夜手当などの割増賃金についても記載する必要があります。

法定時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増率(25%、35%など)というように具体的な数字で明示することが重要です。

退職

退職に関する規定も、就業規則に必須の項目です。

以下の内容を記載する必要があります。

  • 労働者からの退職願の提出方法や期限(例: 退職希望日の1カ月前までに提出など)
  • 会社都合による解雇の理由や手続き
  • 定年退職の年齢や条件

特に解雇は労使間のトラブルのもととなりやすいため、しっかりと規定をしておきましょう。

また、退職時の手続きや退職金制度がある場合は、その内容も記載することが大切です。

退職手当に関しては相対的必要記載事項にあたるため、後の章で詳しく解説します。

参考:就業規則を作成しましょう|厚生労働省

就業規則の相対的必要記載事項とは?

就業規則の相対的必要記載事項

就業規則の相対的必要記載事項とは、労働基準法に基づき、企業がそれぞれの制度として設けた場合に必ず記載しなければならない項目を指します。

就業規則の相対的必要記載事項は、以下のとおりです。

  • 退職手当に関する事項
  • 賞与等の臨時の賃金、最低賃金額に関する事項
  • 食事、作業用品、社宅などの費用負担に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰、制裁に関する事項
  • その他、すべての労働者に適用される事項

相対的必要記載事項には、新たに制度を設けた場合だけでなく、慣行として存在する内容についても明記する必要があります。

この点を理解し、適切な規則作成を行うことが重要です。

以下では、具体的な相対的必要記載事項の一部について詳しく解説します。

退職手当

退職手当とは、従業員が退職する際に支払われる一時金や補償金です。

法律上、退職手当の支給は義務付けられていませんが、制度を設けている企業では就業規則に以下の内容を明記する必要があります。

適用される労働者の範囲正社員のみを対象とするのか、パートタイム労働者や契約社員も含むのか
退職手当の決定方法勤続年数や役職、退職理由(自己都合、会社都合)に基づく計算方法
支払い時期と方法退職後の何日以内に支払われるのか、現金払いか振込かなど、具体的な方法を定める

これにより、退職者への公正な対応が可能となり、トラブルを未然に防ぐことができます。

賞与等の臨時の賃金

賞与やその他の臨時的な賃金についても、制度を設けている場合は就業規則に記載する必要があります。特に、以下のポイントを明確にすることが求められます。

支給基準業績や個人の評価、勤続年数、支給日在籍要件など、賞与を支給する際の具体的な基準を明示
支給時期夏季賞与や年末賞与など、支払いのタイミングを記載
計算方法基本給や評価ポイントに基づく計算式を明記し、透明性を確保

賞与は労働者のモチベーション向上に寄与するため、その運用ルールを就業規則に明記することで、労使双方の信頼関係を築くことができます。

安全及び衛生

安全および衛生に関する規定は、労働者が安全で健康的な環境で働けるようにするための重要な項目です。特に以下の内容を含める必要があります。

職場環境の維持職場の衛生基準や定期的な清掃、換気の確保について記載
労働者への教育安全衛生に関する研修やトレーニングの実施時期や内容を具体的に明示
災害時の対応緊急時の避難方法や災害発生時の連絡体制を定める
保護具の使用ヘルメットや防塵マスクなど、必要な作業用品の使用義務を記載

これにより、労働災害を未然に防ぐだけでなく、万が一の事故にも迅速に対応できる体制を整えられます。

就業規則の作成・届出に関する注意点

注意点

就業規則は、労働者と使用者双方の権利と義務を明確にし、円滑な労務管理を行うために重要な書類です。

ゆえに就業規則を作成・届出をする際には、労働基準法などの法令に則り、適切に対応する必要があります。

以下に、特に注意すべきポイントを解説します。

法律の最低基準を下回る規定は無効

法律の最低基準を下回る規定は無効

就業規則には、労働基準法をはじめとする労働関連法令の最低基準を下回る内容を記載してはなりません

もし記載された場合、その規定は無効となり、法律の基準が適用されます。

たとえば、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える勤務を強いる内容や最低賃金法に定められた賃金額を下回る給与規定などです。

法律で定められている内容に適合していない場合、企業は行政指導や罰則を受けるリスクがあります。

また、従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも、法令を正確に理解し遵守することが重要です。

参考:やさしい労務管理の手引き|厚生労働省

常時10人以上の労働者を使用する使用者には作成・届出が義務となる

労働基準法第89条に基づき、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が義務付けられています。

労働者の対象には、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトが含まれており、10人以上の労働者が常時働いている場合は、短期的な雇用形態でも対象です。

10人以上の労働者を使用するにもかかわらず、就業規則を作成・届出していない場合には行政指導や勧告を受ける可能性があります。

このような場合に労働者とのトラブルが発生した際、企業側が不利な立場に立たされる可能性が高まります。

参考:就業規則の作成・変更・届出の義務(第89条、第90条、第92条)|厚生労働省

労働基準監督署に届け出る必要がある

作成した就業規則は、必ず所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

この手続きは法律で義務付けられており、届け出を怠ると罰則の対象になる可能性があります。

届け出が必要なケースは、以下のとおりです。

  • 新たに就業規則を作成した場合
  • 既存の就業規則を変更した場合(例: 賃金や休暇制度の改訂)

就業規則を提出する際の必要書類は、作成した就業規則の正本と副本、そして従業員代表の意見書です。

従業員代表の意見書には、労働者代表が就業規則に対して意見を述べた内容を記載します。

参考:労働基準_就業規則の作成・変更・届出|厚生労働省

就業規則のテンプレート・モデル就業規則

就業規則のテンプレート・モデル就業規則

厚生労働省では、モデル就業規則を公開しており、テンプレートのように利用できます。

モデル就業規則は、以下にアクセスすることで閲覧が可能です。

まとめ

この記事では、就業規則の絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項、そして就業規則の作成・届出に関する注意点を解説しました。

絶対的記載事項とは、労働基準法に基づき、就業規則に必ず記載しなければならない項目です。これらは労働者の基本的な労働条件や権利を明確にし、労使間のトラブルを未然に防ぐ重要な役割を果たします。

絶対的記載事項を正確に就業規則へ反映することは、労働者・企業双方にとっての安心につながります。企業は記載内容を定期的に見直し、適切な対応を行うことが求められます。

目次