管理職と管理監督者の違いは?定義、ふさわしい待遇などをわかりやすく解説

管理監督者とは、労働基準法で定められた特別な地位を指します。これにより、時間外労働や休日労働に関する規制が適用されない一方、その役割や責任は一般的な管理職と異なります。

この記事では、管理職と管理監督者の違いをわかりやすく解説し、労務管理における注意点や36協定との関連についても触れていきます。正確な理解を通じて、労使トラブルの予防や適切な管理運用にお役立てください。

目次

管理職と管理監督者の定義

まずは、管理職と管理監督者の定義をそれぞれ解説します。

管理職の定義

管理職は、企業内で上位の職務を担う職員を指し、一般的にはチームや部署の運営責任を負う役割とされています。ただし、労働基準法などの労働法規において明確に定義されている用語ではありません

管理職は労働者としての権利を有し、労働基準法や労働組合法の保護対象となります。しかし、業務内容や権限に応じて、一般労働者と異なる取り扱いを受ける場合があります。

たとえば、労働基準法第41条に定める管理監督者に該当する場合、労働時間や休日に関する規定が適用除外となります。

参考:管理職の法的地位|かながわ労働センター

管理監督者の定義

管理監督者とは、企業内で経営者と一体的な立場と評価され、労働条件の決定や労務管理において重要な役割を担う従業員のことです。

管理監督者に該当するか否かは、単なる役職名ではなく、職務内容や責任、権限、勤務態様などの実態に基づいて総合的に判断されます

管理監督者には以下の条件が求められます。

  • 重要な職務内容を有している
    例:労働条件の決定、人事評価の実施、部門運営の意思決定
  • 重要な責任と権限を有している
    例:経営方針に基づく戦略実行、採用や解雇の決定権
  • 勤務態様が一般労働者と異なる
    例:時間外労働や深夜業務を含めた柔軟な対応が求められるなど
  • その地位にふさわしい待遇を受けている
    例:高額な基本給や特別手当、役職に応じた福利厚生

上記の条件に関する詳しい内容は、後の章で詳しく解説します。

労働基準法第41条第2号では「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」と定義されており、労働時間、休憩、休日に関する規制が適用されず、特別な扱いを受けることが、管理監督者の特徴です。

なお名ばかり管理職の問題として、上記の条件を満たしていないにもかかわらず、管理監督者とみなされるケースが過去に問題視されました。

こうした場合、未払い賃金の請求や裁判に発展するリスクが高く、企業にとって重大な課題となります。

参考:監督者の範囲の適正化のために労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省

管理職と管理監督者の違い

管理監督者は経営者と同等の権限を有しますが、管理職は労働者であることが一般的です。

そのため、職務内容や責任、権限などに違いがあります。

ここでは、管理職と管理監督者の違いを解説します。

参考:監督者の範囲の適正化のために労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省

重要な職務内容を有している

管理監督者は、労働条件の決定や労務管理において経営者と一体的な立場を求められます。具体的には、次のような重要な職務内容を担うことが条件です。

  • 労働時間の管理や人事権の行使
  • 経営に直接関与する意思決定
  • 部署全体の運営方針の策定

部長や工場長などの役職にある者が典型的な管理監督者に該当しますが、名称にとらわれず、実態に基づいて判断されます。

管理監督者管理者
職務内容労働条件の決定や労務管理で経営者と一体的な立場部署やチームの運営に責任を持つ

職務の重要性が低い場合には管理監督者とは認められません。

重要な責任と権限を有している

管理監督者には、経営者から直接的な権限が委任され、自らの裁量で重要な意思決定が行えることが求められます。これには、以下が含まれます。

  • 経営戦略に基づく施策の実行
  • 人事評価や採用決定に対する権限の行使
  • 業務運営に関する裁量的判断
管理監督者管理者
責任と権限経営者から直接権限が委任され、自ら裁量を持って意思決定ができる限定的な裁量権を持つことが一般的

課長や店長などの肩書を持つだけでは不十分であり、責任と権限を有するかどうかで管理監督者かどうかが判断基準となります。

勤務態様が一般労働者と異なる

管理監督者は、一般労働者のように厳密な労働時間管理が適用されず、柔軟な勤務態様が求められます。具体的には、以下が挙げられます。

  • 時間外勤務や深夜対応など、業務上必要な対応を裁量的に行う
  • 労働時間規制になじまない実態がある
管理監督者管理者
勤務態様労働時間、休憩、休日などの規制になじまない柔軟な働き方が求められる一般労働者と同様に労働時間が厳密に管理される

勤務態様に関する裁量がない場合や、労働時間管理が厳密に行われている場合には、管理監督者として適切ではありません。

ふさわしい待遇を受けている

管理監督者は、その地位に応じた待遇が与えられる必要があります。ふさわしい待遇とは、以下のような形で反映されます。

  • 一般労働者と比較して高い基本給や役職手当
  • ボーナスやその他の特別な手当
  • 福利厚生の優遇
管理監督者管理者
待遇高い基本給や役職手当が支給されるなど、地位にふさわしい待遇が必要一般労働者と大きな差がないこともある

ただし、待遇が他の労働者より優れていても、実態として重要な職務や権限を持たない場合には管理監督者とはみなされません。

管理監督者の労務管理に関するポイント

管理監督者は労働基準法第41条に基づき、労働時間や休憩、休日に関する規制が適用除外されますが、その管理には慎重を期す必要があります。

過去に名ばかり管理職の問題が社会的に注目され、過重労働の抑制や労働時間の適切な把握が企業に求められるようになりました。

以下では、管理監督者に関する労務管理の注意点を解説します。

就業規則に明確な定義を記載

管理監督者の定義や適用されない労働時間規制について、就業規則で明確に定めることが重要となります。

具体的には、以下の内容を規則に盛り込むことが有効です。

  • 管理監督者に該当する職位
    例:部長、課長など
  • 適用されない労働時間や休憩、休日の規定

労働時間を適切に把握

2019年4月より、労働安全衛生法の改正に伴い、企業には管理監督者の労働時間を把握する義務が課せられました。

一般労働者の長時間労働が制限されたことを背景に、管理監督者に過重労働が発生する懸念があるためです。

自己申告と客観的記録が乖離している場合、実態調査を行い、労働時間を正確に把握する必要があります。

タイムカード、ICカード、パソコンのログ記録などを活用し、管理監督者の労働時間を記録するなどで、管理監督者の労働時間を正確に記録しましょう。

参考:労働時間法制の見直しについて|厚生労働省

36協定における管理監督者の扱い

36協定の概要

36協定(正式名称:時間外及び休日労働に関する協定)は、企業が労働者に法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を行わせる際に必要な労使間の協定です。

36協定を労使間で締結し、労働基準監督署に届け出ることで、法律違反とならずに時間外労働や休日労働を実施することが可能になり、この協定がなければ、法律違反となります。この協定には、以下のポイントが含まれます。

対象となる業務や事由時間外労働や休日労働を行わせる必要がある具体的な業務や理由
延長する労働時間の範囲1日、1か月、1年あたりの時間外労働の上限を明示
特別条項の設定繁忙期などでやむを得ず上限を超える場合に必要

36協定の正しい締結と運用は、企業の法令遵守だけでなく、労働者の健康と安全を守るためにも重要です。

参考:知っておきたい 36 協定届|厚生労働省

管理監督者と36協定の関係

管理監督者は、労働基準法第41条に基づき、36協定における時間外労働や休日労働の規制対象外です。

これは、管理監督者が経営者と一体的な立場で、労働条件の決定や重要な業務運営に直接関与する役割を担うためです。

具体的には以下の規制が適用されません。

法定労働時間の規制1日8時間、週40時間を超える労働時間に関する規定が適用されない
休憩時間の付与6時間超の労働で45分、8時間超の労働で1時間の休憩を付与する義務が除外
休日の付与少なくとも週1回の法定休日を与える規定が適用されません

ただし、深夜労働(午後10時から午前5時の労働)や年次有給休暇の付与については管理監督者にも適用されるため、注意が必要です。

内部リンク「管理監督者 36協定

管理監督者の適用除外を巡るリスク

管理監督者の扱いを適切に運用しない場合、未払い残業代請求の訴訟リスクや労働基準監督署からの是正指導などのリスクに注意が必要です。

「実際には一般の労働者と同様の業務内容や労働時間であり、管理監督者に該当しない」と従業員から主張され、未払い残業代や手当を請求される場合が該当します。

裁判や労働基準監督署への申告に発展すると、企業側が未払い分を遡って支払う義務を負う可能性が高く、未払い賃金と同額の賠償金や罰金が科されるリスクも生じます。

36協定が適用される従業員の管理の重要性

36協定における「時間外・休日労働をさせる必要のある事由」の記載内容は、労使間トラブルを防ぐためにも重要です。

ここでは、トラブルを回避するための具体的な対処法を解説します。

形式的な内容に留めない

36協定の記載内容が形式的・抽象的であれば、それが原因でトラブルを招く恐れがあります。

たとえば、「業務の繁忙」や「臨時の業務対応」といった漠然とした記載では、時間外労働や休日労働が必要な理由として十分に説明できず、企業側の主張が認められないケースもあるでしょう。

しかし日々の残業が発生する背景には、「今日中に終わらせなければならない仕事がある」という事情が多いのではないでしょうか。

こうした実態を反映するために、「当日内に終わらせる業務がある場合」といった内容を36協定の「具体的事由」に盛り込むことが考えられます。この記載であれば、実態に即しており、かつ「なぜその日に時間外労働が必要なのか」を説明できるため、具体性を満たしやすくなります。

労働基準監督署に提出する際、場合によっては「もう少し具体的に記載してください」と指摘される可能性はありますが、労使間で話し合った結果として記載したことを説明すれば、基本的には受付されるケースが多いと考えられます。

※ただし、受付されたからといって、その記載内容に法的な問題が全くないわけではない点に注意が必要です。

労使間で話し合いをしてから締結する

36協定は、単に書類を形式的に作成するだけではなく、労使間で十分な話し合いを行い、実態に即した内容を記載することが求められます。

この話し合いを怠ると、実情に合わない協定内容による混乱やトラブル時に企業が不利な立場に立たされるなどの問題が発生する可能性があるため、注意が必要です。

労使間での話し合いの具体的な進め方は、以下が挙げられます。

  1. 現状の労働実態を共有
  2. 必要な時間外労働の範囲を明確化する
  3. 協定内容の検討結果を記録

まず、労使双方で現在の労働環境や、時間外労働・休日労働が発生している原因について具体的に共有します。

たとえば、「月次決算が原因で毎月一定期間残業が発生する」「緊急の顧客対応で残業が必要になる場合がある」など、実例を挙げて整理しましょう。

次に、話し合いの中で、具体的にどのような事由が時間外労働や休日労働を必要とするかを明確にし、それを協定に反映させます。これにより、労使双方の認識を一致させることができるでしょう。

さらに話し合いの過程や決定事項を記録しておくことで、後々のトラブル発生時にも「労使間で十分な協議が行われた」という証拠として活用できます。

まとめ

管理職と管理監督者の違いを理解することは、労務管理の適正化とトラブル防止に直結します。

また、36協定の適切な運用や管理監督者の労働条件の整備を行うことで、健全な労使関係を築くことができます。

管理監督者の役割や権限を正確に評価し、実態に即した対応を行うことで、従業員の信頼を得られ、企業の持続的な発展にもつながるでしょう。

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