「中小企業退職金共済ってどんな制度?」
「国から助成してくれる退職金制度はないの?」
「退職金制度を導入したいけど、費用負担が大きい…」
こんな悩みを抱えていませんか?
この記事では「税金がかからない」「国からの助成がある」という、2つの特徴を持った中小企業退職金共済という制度について、わかりやすく解説します。
中小企業退職金共済が自社に適した制度なのかが分かるので、ぜひ最後までお読みください。
中小企業退職金共済は中小企業のために設けた国の退職金制度
- 概要
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中小企業退職金共済は、中小企業が加入する退職金制度です。
運営は、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)がおこなっています。
中小企業で働く社員の福祉増進と、中小企業の発展に役立てることを目的として、昭和34年に設けられました。
- 制度のしくみ
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- 事業主が中退共と「退職金共済契約」を結ぶ
- 事業主が毎月掛金を納付し、従業員の退職金を積み立てていく
- 従業員の退職時、中退共から退職金が直接支払われる
中小企業退職金共済の掛金について分かる5つの項目
中小企業退職金共済の掛金について、5つの項目を解説していきます。
①掛金は非課税
中退共制度で納付した掛金は、全額非課税です。
個人企業が納付した場合は必要経費に、法人企業の場合は損金扱いになります。
ただし、資本金もしくは出資金が1億円を超える法人企業の法人事業税には、外形標準課税が適用されます。
②選べる掛金月額
掛金月額は16種類から選択できます。
また、パート等の短時間労働者は、掛金月額の他に特例掛金月額も選択できます。
- 掛金月額(単位:千円)
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掛金は従業員ごとに任意で選ぶことができ、増額・減額も可能です。
ただし減額は従業員の同意、もしくは厚生労働大臣の認定が必要です。
③掛金月額の決め方
掛金月額の決め方は「定額方式」「賃金基準方式」「勤続年数基準方式」があります。
定額方式は、あらかじめ退職金の目安を決めて掛金月額を逆算する方法です。
賃金基準方式と勤続年数基準方式は、それぞれ賃金と勤続年数を基準にして掛金を決定します。
- 定額方式
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例)勤続年数30年で退職金500万円とした場合、掛金月額は12,000円になります。
詳しくは、中退共本部の「基本退職金額表」をご確認ください。
- 賃金基準方式(賃金の5%を掛金月額とした場合)
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賃金 掛金月額 16万円未満 8,000円 16~20万円未満 10,000円 20~24万円未満 12,000円 24~28万円未満 14,000円 28~32万円未満 16,000円 32~36万円未満 18,000円 36~40万円未満 20,000円 40万円以上 22,000円 - 勤続年数基準方式(勤続35年で退職金1,000万円とした場合)
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勤続年数 掛金月額 2年未満 5,000円 2~5年未満 8,000円 5~10年未満 12,000円 10~15年未満 18,000円 15~20年未満 24,000円 20年以上 30,000円
④支払われる退職金額
中退共の退職金は、長期加入者ほど多く支給されます。
具体的に言うと、掛金の納付期間が3年7ヶ月以上だと納付総額を上回る額が支払われます。
しかし、納付月数が1年未満で退職した場合、退職金は支払われません。
納付月数 | 支給される退職金 |
---|---|
1年未満 | 支給されない |
1年以上2年未満 | 納付総額より低い額 |
2年以上3年6ヶ月 | 納付総額相当額 |
3年7ヶ月以上 | 納付総額より多い額 |
⑤退職金の支払い方法
中退共の退職金は、一括払いで支払われます。
一定の条件を満たせば、全額分割払いや一部分割払いも可能です。
税金面では一時金払いの場合は退職所得、分割払いの場合は公的年金等控除の対象となる雑所得として取り扱われます。
中小企業退職金共済における2つの助成
中退共には国からの助成があるので、事業主の負担を減らすことができます。
2つの助成制度がどのようなものか、それぞれ解説していきます。
①新規加入助成
新規加入助成は、初めて中退共に加入した中小企業に対しておこなわれる助成です。
A.加入後4ヶ月~1年間、掛金月額の半分が助成されます。ただし、従業員ごとに5,000円の助成上限が設けられています。
B.短時間労働者の特例掛金月額は、Aの助成金額に下の表の額をさらに上乗せして助成されます。助成期間はAと同じく、中退共に加入してから4ヶ月~1年間です。
掛金 月額 | Aの 助成額 | Bの 助成額 | 実際の 負担額 |
---|---|---|---|
2,000 | 1,000 | 300 | 700 |
3,000 | 1,500 | 400 | 1,100 |
4,000 | 2,000 | 500 | 1,500 |
ただし、次に該当する事業主は助成を受けられません。
- 同居の親族のみを雇用する事業主
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している事業主
- 合併等により、企業年金から資産移換の申出をおこなう事業主
- 解散存続厚生年金基金から資産移換の申出を希望する事業主
- 特定退職金共済制度を廃止した団体から資産移換を希望する事業主
②月額変更助成
月額変更助成は、18,000円以下の掛金を増額する事業主に対しておこなわれる助成です。
増額した月から1年間、増額分の1/3が国から助成されます。
しかし、20,000円以上の掛金は助成対象にはなりません。
また、事業主が同居の親族のみを雇用している場合も、助成対象にはならないので注意してください。
中小企業退職金共済による6つのメリット
中退共制度には、6つのメリットがあります。
- 掛金が非課税
- 国が助成してくれる
- 管理が簡単
- 従業員のモチベーションが上がる
- 求人時にアピールできる
- 加入前の勤務期間を通算できる
順番に解説していきます。
メリット①:掛金が非課税
「中小企業退職金共済の掛金について分かる5つの項目」でも解説したように、掛金は非課税扱いになります。
個人企業は必要経費に、法人企業は損金となります。
メリット②:国が助成してくれる
「中小企業退職金共済における2つの助成」で説明したように、中退共には国からの助成制度があります。
さらに、独自に補助制度を設けている自治体もあります。
メリット③:管理が簡単
中退共に加入すると、退職金の管理が楽になります。
加入後も面倒な事務処理はなく、掛金の納付も口座振替で済むので、退職金の管理の手間がかかりません。
メリット④:従業員のモチベーションが上がる
中退共の退職金は納付期間が長いほど多く支払われるので、「定年まで働こう」という従業員のモチベーションアップになります。
会社の人材流出を防止できるので、会社にとっては大きなメリットです。
メリット⑤:求人時にアピールできる
退職金制度の有無は、就職活動中の人が特に注目するポイントです。
会社の求人票に退職金制度有り(中退共)との記載があれば、就活中の人へのアピールになって人材確保につながります。
メリット⑥:加入前の勤務期間を通算できる
事業主が初めて中退共と契約する場合、1年以上勤務している従業員は加入前の勤務期間を通算できます。
また、一定の要件を満たしていれば転職したときに退職金を通算することができます。
中小企業退職金共済による2つのデメリット
中退共にはたくさんのメリットがありますが、デメリットも存在します。
- 事業主は加入できない
- 懲戒解雇した従業員にも支払われる
それぞれ解説していきます。
デメリット①:事業主は加入できない
中退共の契約をおこなうのは事業主ですが、加入できるのは従業員のみです。
事業主や役員などは加入できません。
デメリット②:懲戒解雇した従業員にも支払われる
中退共の退職金は、従業員の退職理由に関係なく支払われます。
懲戒解雇した従業員も同様です。
厚生労働大臣に認定されれば退職金を減額できますが、減額分は中退共の支払い財源に振り向けられ、企業には返ってきません。
中小企業退職金共済の加入条件
中退共に加入できる企業、従業員について解説していきます。
- 加入できる企業
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中退共に加入できるのは、次の企業です。
業種 常用従業員数 または 資本金・出資金の範囲 一般業種 300人以下 または 3億円以下 卸売業 100人以下 または 1億円以下 サービス業 100人以下 または 5千万円以下 小売業 50人
以下または 5千万円以下 ※一般業種は製造業、建設業等 ただし、個人企業や公益法人は常用従業員数によります。
常用従業員は、通常の従業員と週の所定労働時間がおおむね同じ者のことです。
以下の従業員も含まれます。
- 雇用期間の定めのない者
- 雇用期間が2ヶ月を超えて雇用される者
- 加入対象者
-
企業が中退共と契約したら、従業員は原則として全員加入することになります。
ただし、次の従業員は加入させなくてもよいことになっています。
- 期間を定めて雇用される者
- 季節的業務で雇用される者
- 試用期間中の者
- 短時間労働者
- 休職期間中の者
- 定年などで短期間内に退職することが明らかな者
- 加入対象者にならない者
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次の方は、中退共に加入できません。
- 事業主および小規模企業共済制度に加入している方
- 法人企業の役員(使用兼務役員であり、従業員として賃金の支給を受ける方は可)
- 独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する「特定業種(建設業・清酒製造業・林業)退職金共済制度」に加入している方
中小企業退職金共済の契約の流れを6ステップで解説
中退共と契約する場合、以下の流れでおこなわれます。
- 従業員の同意
- 掛金月額の決定
- 加入申込書の記載
- 添付書類の準備
- 書類の提出
- 契約成立
契約を決めた際は、ぜひ参考にしてください。
ステップ①:従業員の同意
まずは、加入させる従業員から同意を得ます。
基本的に従業員は加入対象者ですが、被共済者になることを拒んだ従業員は対象者になりません。
ステップ②:掛金月額の決定
次に、納付する掛金月額を決めます。
「掛金について分かる5つの項目」でも説明したように、掛金は16種類(短時間労働者は19種類)あり、従業員ごとに任意で選べます。
ステップ③:加入申込書の記載
加入申込書となる「中小企業退職金共済契約申込書」の記入をおこないます。
申込書は金融機関、または委託事業主団体の窓口に用意されています。
ただし、以下の機関には用意されていません。
- ゆうちょ銀行
- 農協
- 漁協
- ネット銀行
- 外資系銀行
ステップ④:添付書類の準備
添付書類は、登記簿抄本と労働契約書の写しが必要です。
労働契約書の写しは、パート等短時間労働者がいる場合にのみ用意してください。
それぞれ「中小企業者であることの証明書」と「短時間労働者であることの証明書」になります。
ステップ⑤:書類の提出
加入申込書と添付書類を、ステップ③の金融機関または委託事業主団体に提出します。
ステップ⑥:契約成立
審査が終了すると、中退共本部から各従業員の「退職金共済手帳」が送られてきます。
これで、中退共との契約は成立です。
書類を提出した月から掛金を納付することになります。
まとめ:中小企業退職金共済は企業負担が抑えられた退職金制度
最後に、ご紹介した内容をもう一度おさらいしましょう。
- 中小企業退職金共済とは
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- 事業主が掛金を納付して、中退共が退職金を支払う制度
- 掛金月額は非課税
- 新規加入助成、月額変更助成の2つの助成制度がある
中小企業退職金共済は、まだ退職金制度を導入していない企業にとって、選択肢のひとつになります。
「自分の企業に合った退職金制度はなんだろう…」とお悩みの経営者の方は、ぜひ飯田橋事務所にご相談ください。
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