「役員が雇用保険に加入できない理由を知りたい」
「役員が雇用保険に入れる場合もあるって本当?」
会社役員は原則雇用保険に加入できませんが、労働者性の要件を満たす場合には加入できます。
なぜなら、雇用保険の加入対象者は労働で収入を得る労働者が対象となるためです。
この記事では、役員が雇用保険に入れない理由を解説します。
役員が雇用保険に加入できる例外パターンや注意点についても解説しますので、役員で雇用保険に関するお困りごとがある方はぜひ参考にしてください。
役員が原則雇用保険に入れない理由
役員が原則雇用保険に加入できない理由は、一般的には経営者としての立場にあり、労働者とみなされないためです。
雇用保険は労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進を目的とした制度であり、経営者は対象外となります。雇用保険の給付は次の保険事故が生じた場合に支給されます。
1.求職者給付…労働者が失業した場合に、生活の安定を目的に支給
2.就職促進給付…労働者が失業した場合に、早期の再就職を援助・促進することを目的として支給
3.教育訓練給付…労働者の自発的な能力開発を促すため、教育訓練を受けた場合に支給
4.雇用継続給付…労働者が高齢化や介護休業の取得により賃金の全部又は一部を喪失するというような雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に雇用の安定を図るために支給
5.育児休業給付…労働者が子を養育するために休業した場合に、賃金の全部又は一部を喪失した労働者の雇用の安定を図るために支給
このほか、公共職業訓練(雇用保険を受給している方)や求職者支援訓練(雇用保険を受給できない方)などがあります。
ただし、雇用保険は会社や事業所に所属する人なら誰でも対象となるわけではありません。
- アルバイトなど(労働時間が週20時間未満の方)
- 労働者ではない
- 短期間労働である(継続して31日以上雇用されることが見込まれない方)
- 公務員や船員で雇用保険の例外に当てはまるケース
- 昼間学生など
雇用保険に加入できないケースのうち労働者ではない要件に当てはまるため、原則として会社役員は雇用保険に加入できません。
参考:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
参考:雇用保険の概要|厚生労働省
役員でも雇用保険に入れる例外パターン
雇用保険に加入できないのが一般的でも、飲食店の店長で自身も労働を行う場合などで労働者性が認められるなら、雇用保険に加入できる可能性があります。
労働者性は、次の3つによって総合的に判断されます。
- 事業主の指揮命令に従っていることが明らかであること
- 就業実態が、他の労働者と同じであり、賃金もこれに応じて支払われていること
- 事業主と利益を一つにする地位(取締役等)にないこと
- 役員報酬よりも給与のほうが多い
- 就業規則の適用が認められる場合
次の項目からは、役員でも雇用保険に入れる例外パターンについて詳しく解説します。
役員報酬よりも給与のほうが多い
役員報酬よりも給与のほうが多い場合には、役員であっても例外として雇用保険に加入できる場合があります。
給与の定義は、労働者に支払う金銭を指すためです。
役員報酬と給与は、それぞれ定義が異なります。
意味合い | |
役員報酬 | 会社経営に関与する人物への報酬 |
給与 | 雇用契約を締結した労働者に支払う金銭 |
なお、一般的には役員報酬と給与を同時に支給されることはありません。
しかし使用人兼務役員であり、従業員の身分と兼任する場合には役員報酬と給与を同時に支給する場合があります。
よって役員であっても工場長や店長などの身分があり給与収入がある場合には、雇用保険に加入できる可能性があります。
就業規則の適用が認められる場合
役員であっても就業規則の適用が認められる場合には、雇用保険に加入できる可能性があります。
役員は基本的に雇用保険の適用範囲外であり、業務に対して裁量を持っているためです。
まず、就業規則の対象範囲は雇用契約を締結している労働者と労働基準法第92条で定められています。
次に労働者とは、会社の指揮にしたがって業務を遂行する者です。
一般的に役員は会社と委任契約を締結しており、業務遂行における裁量があります。
裁量がある状態では、自己判断で行動することが可能です。
役員は担当する業務の責任から、労働時間や残業、休日といった枠組みがありません。
そのため役員であっても就業規則の適用が認められる場合には、労働者性があると認められる場合があります。
参考:1 就業規則に記載する事項 2 就業規則の効力|厚生労働省
参考:就業規則作成の9つのポイント|厚生労働省
役員の雇用保険に関する注意点
役員の雇用保険に関する注意点は、以下のとおりです。
- 執行役員は雇用保険に加入できる
- 執行役は雇用保険に加入できない
- 名ばかり役員は雇用保険に加入できない
次の項目からは、役員の雇用保険に関する注意点について解説します。
執行役員は雇用保険に加入できる
執行役員は、雇用保険に加入できる場合が多い傾向にあります。
一般的な執行役員は、労働者に近い立場にあるためです。
執行役員は「役員」の名称が付与されるものの、一般社員と同じように雇用契約を締結します。
しかし意味合いでいえば業務執行の権限をもつ従業員であり、重要な立場となるため取締役会の決議で決められる場合がほとんどです。
ただし、執行役員であっても代表権・業務執行権を有する者は雇用保険加入の対象外となるため注意しましょう。
どのような肩書きであっても、業務執行権や代表権があれば労働者性がないとみなされる
参考:労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲 | 大阪労働局
参考:労働者の範囲|厚生労働省
執行役は雇用保険に加入できない
執行役は、雇用保険に加入できません。
執行役は、業務執行あるいは業務執行の決定といった権限を有する役員であるためです。
執行役は会社法に基づく役職であり、取締役から業務の委任を受けて経営に関与します。
よって経営に関与することから労働者とはみなされず、執行役は雇用保険の適用範囲外となります。
参考:取締役、監査役等、法人役員の雇用保険の適用について|厚生労働省
名ばかり役員は一般的に雇用保険に加入できない
名ばかり役員は、労働者性がなければ雇用保険に加入できません。
名ばかり役員とは、取締役であっても経営への関与がなく、労働実態が一般的な労働者と同じ状態を指します。
しかし取締役であれば、会社法上は経営者とみなされます。
名ばかり役員で雇用保険に加入する場合には、労働実態だけでなく給与収入の割合などで労働者性の根拠を示すことが大切です。
参考:取締役、監査役等、法人役員の雇用保険の適用について|厚生労働省
雇用保険が対象外なら労災保険はどうなる?
役員は、雇用保険だけでなく労災保険も対象外となります。
役員の労災保険に関して知っておきたいポイントは、以下のとおりです。
- 役員は原則労災保険の対象外
- 特別加入制度の要件を満たせば労災保険に加入できる
ここからは、役員の労災保険に関して知っておきたいポイントを解説します。
役員は原則労災保険の対象外
労災保険は雇用保険と同じ労働保険であり、対象者は労働者です。
労働者ではない役員は、労災保険の対象外となります。
また労災保険と雇用保険は、それぞれ個別に給付を受けられますが、保険料の支払いはまとめて行われます。
そのため、雇用保険の支払いがない場合には労災保険料も払っていません。
参考:労働保険とはこのような制度です|厚生労働省
参考:労働保険の基礎知識 |厚生労働省
特別加入制度の要件を満たせば労災保険に加入できる
役員が労災保険に加入する方法として、特別加入制度が挙げられます。
特別加入制度の対象範囲は、中小事業主・一人親方・特定作業従事・海外派遣者などです。
管轄の労働基準監督署で手続きを行うものの、労働保険事務組合を通じて行う必要があります。
特別加入制度の一般的な加入要件は、以下のとおりです。
- 会社との保険関係が成立している
- 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託している
- その事業に従事する役員全員を包括して加入すること
- 政府の承認を受けること
役員であっても特別加入制度を利用することで、労災保険に加入できます。
参考:特別加入制度とは何ですか。|厚生労働省
参考:労災保険特別加入制度のしおり|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督局
まとめ:役員が雇用保険に入れない理由は労働者ではないため
今回は、役員が雇用保険に入れない理由を解説しました。
役員は原則として雇用保険に加入できませんが、労働者性が認められる場合には雇用保険に加入できる場合があります。
また、労災保険も労働者が対象となるため、役員は原則労災保険に加入できません。
しかし特別加入制度の利用によって、役員も労災保険に加入できます。
役員で雇用保険の加入可否が気になる場合には、仕事に関する労働者性を確認しましょう。