「従業員が育休を取ることになったけど、会社で行う必要な手続きが分からない」
「何の書類が必要なのか、いつまでに手続きすればいいのか教えてほしい」
人事労務担当者の方で、上記のような疑問を抱えていませんか?
産前産後休業(以下「産休」という)や育児休業(以下「育休」という)を、従業員が会社で初めて取得することになり、手続きが分からなくて戸惑っている担当者の方は多いと思います。
そこで、本記事では従業員から妊娠報告を受けてから、職場復帰するまでの必要な手続きをご紹介します。
産休・育休で会社側が行う手続き一覧
この章では、従業員が産休や育休を取ったときに、会社側が行う手続きをご紹介します。
従業員から妊娠報告を受けたとき
まずは、従業員から「妊娠した」と報告を受けたときの手続きを、4つご紹介します。
産休と育休を取るか確認する
従業員から妊娠報告を受けたら、まずは産休と育休を取るか確認しましょう。
取得を希望されない場合も、以下の内容をご確認ください。
- 出産予定日
- 最終出社日
- 休業までの働き方
- 休業中の連絡先
- 復帰の意思
また、休業する場合は「産前産後休業届」や「育児休業届」など、休業に必要な書類を従業員に提出してもらいましょう。
定期券未使用分の返金処理をする
続いて、従業員に通勤定期券などを支給している場合は、休業期間中の未使用分について、就業規則などに基づき返金処理を行います。
休業期間中に通勤手当が一律で支払われてしまうと、出産手当金などの支給額に影響を受ける可能性があります。
会社が不必要な費用を支払わないよう、忘れずに処理しましょう。
住民税の徴収方法を相談する
産休・育休期間中には、従業員に給与が支払われないため、従来のように給与から住民税を天引きすることができません。
そのため、産休に入る前に従業員と話し合い、住民税の徴収方法を決めておきましょう。
休業中の徴収方法としては、以下のような選択肢があります。
- 普通徴収
- 一括徴収
- 会社が立て替えて、復帰後に徴収する
- 毎月会社に支払う
各給付金について説明する
社会保険の被保険者が妊娠、出産した場合は、次の給付金や助成を申請できます。
- 出産手当金
- 出産育児一時金
- 育児休業給付金
- 出生時育児休業給付金
いずれも従業員と会社、どちらが手続きを行っても問題ありません。
各制度について説明し、後にトラブルにならないようどちらが手続きを行うか、話し合って決定しましょう。
従業員が産休に入ったとき
次は、従業員が産休に入ったときの対応です。
従業員が社会保険に加入している場合、産休中の健康保険および厚生年金保険料は、従業員と事業主どちらも免除されます。
免除手続きのために、会社が「産前産後休業取得者申出書」をご提出ください。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 産休期間中(または産休終了日から起算して1ヶ月以内) |
従業員から出産報告があったとき
続いて、従業員から出産が報告されたときの手続きです。
出産手当金の申請手続きをする
出産手当金は、健康保険の被保険者である従業員が、出産のため休業し、会社から給与がない場合に支給される給付金です。
提出書類 | 健康保険出産手当金支給申請書 |
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提出先 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)、または健康保険組合 |
提出期限 | 出産のため労務に服さなかった日ごとに、その翌日から2年以内 |
申請書には、医師や助産師の記入欄があるため、提出する前に従業員に渡す必要があります。
出産育児一時金の申請手続きをする
出産育児一時金は、健康保険加入者またはその扶養者が出産した際に、出産費用の負担を減らすために支給される制度です。
直接支払制度を利用しないときは手続きを行いましょう。
直接支払制度を利用した場合も、出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合は、その差額を申請できます。
提出書類 | 健康保険出産育児一時金支給申請書 |
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提出先 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)、または健康保険組合 |
提出期限 | 出産翌日から2年以内 |
出産育児一時金支給申請書にも、医師などの記入欄があるため、一度従業員に渡してください。
健康保険への扶養追加の手続きをする
生まれた子どもは、その日から健康保険の被扶養者としての資格を得ます。
被扶養者として登録するためには、会社が手続きを行う必要があります。
提出書類 | 健康保険被扶養者(異動)届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 出産日から5日以内 |
産休中の社会保険料免除の変更手続きをする
従業員が出産予定日よりも前に出産した、もしくは後に出産した場合、会社は「産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届」をご提出ください。
出産予定日に生まれた場合は、提出は不要です。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 速やかに |
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従業員が育休に入ったとき
従業員が育休に入ったときは、3つの手続きを行います。
社会保険料の免除手続きをする
産休中だけでなく育休中も、従業員と事業主双方の社会保険料が免除されます。
免除の申請は、会社が「育児休業等取得者申出書」を提出することで行われます。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 育休期間中(または育休終了日から起算して1ヶ月以内) |
詳しい手続きについては、こちらの記事をご覧ください。
育児休業給付金の申請手続きをする
育児休業給付金は、雇用保険に加入している従業員が育休を取る場合、一定の要件を満たせば申請できる給付金です。
会社側は、まず従業員が下記の要件を満たしているか確認して、申請手続きを行いましょう。
なお、給付金を受け取るには、ハローワークが定める申請期間に、必要書類を2ヶ月ごとに提出する必要があります。
- 休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は、就業した時間数が80時間以上の)完全月が12ヶ月以上ある
- 育休中に支払われた賃金が育休前の賃金の8割未満
- 一支給単位期間中の就業日数が、最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下である
- 有期雇用の場合、子どもが1歳6ヶ月までに、労働契約が満了することが明らかでない
提出書類(1回目) | 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書 |
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提出書類(2回目以降) | 育児休業給付金支給申請書 |
提出先 | 管轄のハローワーク |
提出期限(1回目) | 育休開始日から4ヶ月が経過する日が属する月末まで |
提出期限(2回目以降) | 管轄のハローワークが指定する申請期間 |
出生時育児休業給付金の申請手続きをする
従業員が産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合は、出生時育児休業給付金を申請できます。
産後パパ育休とは、子どもが生まれて8週間以内に、4週間まで取得できる育児休業です。
通常の育休とは別に取得できます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
- 産後パパ育休を取得した被保険者である
- 休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は、就業した時間数が80時間以上の)完全月が12ヶ月以上ある
- 育休中に支払われた賃金が育休前の賃金の8割未満
- 休業期間中の就業が、最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下である
- 有期雇用者の場合、子どもの出生日から8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過する日までに、労働契約期間が満了することが明らかでない
提出書類 | 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書 |
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提出先 | 管轄のハローワーク |
提出期限 | 子の出生日から起算して、8週間を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日が属する月の末日まで |
従業員から育休延長を希望されたとき
場合によっては、保育所に入れなかったという事情などで、従業員から育休延長を希望されることがあります。
その場合は、次の手続きを行ってください。
社会保険料免除の延長手続きをする
従業員の育休延長が決まった場合は、社会保険料免除の延長手続きを行います。
もし、手続きを行わないと免除が延長されないので、ご注意ください。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 育休期間中(または育休終了日から起算して1ヶ月以内) |
なお、育休が1歳から1歳6ヶ月、さらに1歳6ヶ月から2歳まで延長される際には、それぞれの段階で上記の申請が必要になります。
育児休業給付金の支給延長手続きをする
社会保険料免除だけではなく、育児休業給付金の支給延長の手続きも必要です。
提出書類 | 育児休業給付金支給申請書 |
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提出先 | 管轄のハローワーク |
提出期限 | 管轄のハローワークが指定する申請期間 |
育休の延長理由によって添付書類が異なるため、詳しくは管轄のハローワークにご確認ください。
従業員が職場に復帰するとき
最後に、従業員が育休を終えて、職場に復帰するときの手続きをご紹介します。
社会保険料免除の終了手続きをする
従業員が予定より早く育休から復帰する場合、社会保険料免除の手続きを終了させるため、下記の手続きが必要です。
育休が予定通り終了したなら、手続きは必要ありません。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 育休終了日から起算して1ヶ月以内 |
標準報酬月額の変更手続きをする
育休終了後に、勤務時間の短縮などで、従業員の給与が休業前に比べて下がるケースがあります。
社会保険では、休業終了後の給与が従前の標準報酬月額と比べて下がった場合、標準報酬月額を修正する制度が設けられています。
給与の減少による、保険料の負担を軽減するためです。
しかし、厚生年金は特例制度がありますが、標準報酬月額を下げると、出産手当金や傷病手当金の額が低くなる可能性があります。
そのため、従業員にメリット・デメリットを説明したうえで、従業員の希望によって手続きを行いましょう。
提出書類 | 健康保険・厚生年金保険 育児休業等終了時報酬月額変更届 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 健康保険組合 |
提出期限 | 速やかに |
年金の給付額の変更手続きをする
給与が減少すると、その分社会保険料も低くなりますが、将来受け取る年金額にも影響します。
この状況を踏まえ、社会保険では、休業開始前の標準報酬月額で、将来の年金額を計算する特例制度も設けられています。
従業員の給与が減少した場合は、忘れずに手続きを行いましょう。
提出書類 | 厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書 |
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提出先 | 事務センター、もしくは管轄の年金事務所 |
提出期限 | 速やかに |
まとめ
本記事では、従業員が産休や育休を取った場合、会社側で行う手続きをご紹介しました。
どの手続きも、従業員が安心して出産や育児を行うために必要なものです。
ぜひ、本記事の内容を参考にして、会社側の手続きを進めてください。