労働者が深夜労働を行った場合、雇用者は深夜割増賃金を支払わなければいけません。
しかし深夜割増賃金について、このような悩みを抱えている経営者の方もいるのではないでしょうか?
「数年前に起業したけど、深夜労働したら割増賃金が発生するなんて知らなかった!未払い分を支払いたいけど何時から深夜労働?どうやって計算するの?」
労働基準法では、深夜労働をした従業員に深夜割増賃金を支払うことが義務づけられています。
深夜割増賃金が未払いだと当然法律違反になり、さらに労働に見合った対価を支払わないことで、大切な従業員との信頼関係が損なわれてしまいます。
そうした事態を避けるために、この記事では以下のことを解説していきます。
- 深夜割増賃金の定義
- 深夜割増賃金の計算方法
- 管理職に深夜割増賃金を支払う必要はあるのか
本記事を読むと支払うべき深夜割増賃金が分かり、経営者としての義務を果たすことができます。
ぜひ最後までお読みください。
深夜割増賃金とは深夜労働に支払う賃金
深夜割増賃金とは、深夜労働をした労働者に支払う割増賃金のことです。
午後10時から午前5時までの労働を深夜労働と言い、時給の25%以上を上乗せして支払います。
深夜労働をした労働者に深夜割増賃金を支払うことは義務であると、労働基準法で定められています。
支払わなかった場合、労働基準法違反として6ヶ月の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
【時給制】深夜割増賃金の計算方法
ここからは時給制の場合、深夜割増賃金をどのように計算するのか解説していきます。
- 深夜労働をした場合
- 深夜に時間外労働をした場合
- 法定休日に深夜労働をした場合
パターン別に分けて解説するので、それぞれ自社の時給に置き換えて計算してみてください。
①深夜労働をした場合(深夜割増賃金の部分のみ計算)
先に説明したように、深夜割増賃金は時給の25%以上が上乗せされます。
そのため計算式は「時給×25%(0.25)×労働時間」になります。
- (例)6時間勤務(午後10時~午前4時)の場合
-
※時給1,500円で計算
Ⓐ深夜割増賃金
(午後10時~午前4時)を計算
1,500×0.25×6=2,250
②深夜に時間外労働をした場合
法定労働時間である1日8時間を超えた労働があったら、その場合でも割増賃金は発生します。
割増率は深夜労働と同じ25%です。
深夜に時間外労働をした場合、深夜労働と時間外労働の割増率を合算して計算するので、計算式は「時給×(25%+25%)×労働時間」になります。
- (例)8時間勤務(午前9時~午後6時)で、午後11時まで残業した場合
-
※時給1,500円で計算
※Ⓐは休憩1時間を除くⒶ通常賃金
(午前9時~午後6時)を計算
1,500×8=12,000
Ⓑ時間外手当
(午後6時~午後10時)を計算
1,500×1.25×4=7,500
Ⓒ時間外手当と深夜割増賃金
(午後10時~午後11時)を計算
1,500×1.5×1=2,250
③法定休日に深夜労働をした場合
法定休日とは週に1日、雇用者が労働者に必ず与えなければならない休日のことです。
労働基準法で定められているので、文字通り「法律で定められた休日」です。
法定休日に出勤した場合、休日労働手当として35%が割り増しされます。
さらに深夜に働いた場合、深夜手当の25%の割増率と合算して計算するので、合わせて60%の割増率となります。
ちなみに法定休日に働いても時間外手当を付与する必要はありません。
しかし「休日」は午前0時から午後12時までの24時間のため、午後12時以降は休日労働ではなく時間外労働となります。
- (例)法定休日に午前9時~午後11時まで働いた場合
-
※時給1,500円で計算
※Ⓐは休憩1時間を除くⒶ休日手当
(午前9時~午後10時)を計算
1,500×1.35×12=24,300
Ⓑ休日手当と深夜割増賃金
(午後10時~午後11時)を計算
1,500×1.6×1=2,400
【日給制】深夜割増賃金の計算方法
日給制でも深夜割増賃金の計算方法は変わりません。
しかし日給制は時給が定められていないので、最初に1時間あたりの賃金を算出する必要があります。
計算式は「日給÷1日の所定労働時間」です。
それから時給制と同じように、割増率と深夜労働時間をかけて深夜割増賃金を計算します。
- (例)8時間勤務(午前9時~午後6時)で午後11時まで残業した場合
-
※日給10,000で計算
※休憩1時間を除くⒶ1時間あたりの賃金を計算
10,000÷8=1,250
Ⓑ時間外手当
(午後6時~午後10時)を計算
1,250×1,25×4=6,250
Ⓒ時間外手当と深夜割増賃金
(午後10時~午後11時)を計算
1,250×1.5×1=1,875
【月給制】深夜割増賃金の計算方法
月給制の場合、以下の流れで深夜割増賃金を計算します。
①月平均所定労働時間を計算する
計算式:(365日ー年間休日)×1日の所定労働時間÷12ヶ月
②時給を計算する
計算式:月給÷月平均所定労働時間
③深夜割増賃金を計算する
計算式:時給×0.25×深夜労働時間
②の月給に以下の手当は含まれないので、計算の際に除外してください。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 住宅手当
- 子女教育手当
- 臨時手当(結婚手当、出産手当など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、勤続手当など)
ただし、一律に定額で支給される手当は「除外」に該当しません。
まずは1ヶ月の平均所定労働時間を算出します。
月によって祝日があり、1ヶ月の所定労働時間がそれぞれ異なるからです。
所定労働時間の1年間の平均を算出したら、あとは時給制や日給制と同じ流れで深夜割増賃金を計算します。
- (例)8時間勤務(午前9時~午後6時)で午後11時まで働いた場合
-
※月給は20万円(該当手当は除外済み)
※年間休日は125日
※休憩1時間あり①月平均所定労働時間を計算する
(365ー125)×8÷12=160②時給を計算する
200,000÷160=1,250③時間外手当を計算する
1,250×1.25×5=7,812.5
(50銭以上は切り上げなので7,813)④深夜割増賃金を計算する
1,250×0.25×1=312.5
(50銭以上は切り上げなので313)
【参考】割増賃金や労働時間に端数が出たときの処理
1時間あたりの割増賃金に円未満の端数が出た場合
月給制の計算でも少し触れていますが、賃金や割増賃金を計算すると円未満の端数が出ることがあります。
1時間あたりの賃金及び割増賃金に端数が生じた場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げて処理してください。
- 1時間あたりの割増賃金が430.6円の場合→431円に処理
- 1時間あたりの割増賃金が999.9円の場合→1,000円に処理
- 1時間あたりの割増賃金が1580.2円の場合→1,580円に処理
1ヶ月における深夜労働時間の合計に1時間未満の端数がある場合
深夜労働をした時間のなかに「6時間25分」や「13時間49分」というように、1時間未満の端数がありませんか?
1ヶ月における深夜労働の合計時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げることが認められています。
- 深夜労働の合計が7時間30分の場合
→8時間で計算 - 深夜労働の合計が5時間25分の場合
→5時間で計算 - 深夜労働の合計が14時間56分の場合
→15時間で計算
ちなみに休日労働や時間外労働も合計時間に1時間未満の端数がある場合、同じように切り捨て、切り上げをして計算できます。
あくまでも「1ヶ月単位で時間外・休日・深夜の労働時間の合計」に端数が発生した場合のみ、例外的に認められている方法です。
1日の労働時間の端数処理は労働基準法違反になるので、注意してください。
管理職にも深夜割増賃金を支払わなくてはならない理由
一般社員だけでなく、管理職(管理監督者)が深夜労働をしても深夜割増賃金を支払わなくてはいけません。
労働基準法第41条2号で「監督もしくは管理の地位にある者は、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されない」と定められています。
管理職には時間外・休日労働分の割増賃金は支払わなくてもいいという意味です。
しかし条文には深夜労働については記載されていません。
つまり深夜労働に関する規定は管理職にも適用されるので、深夜割増賃金を支払う必要があるということです。
ちなみに「監督もしくは管理の地位にある者」について、厚生労働省は以下の4点を判断基準として示しています。
労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動をせざるを得ない重要な職務内容を有していなければ、管理監督者とは言えません。
引用:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。
引用:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。
引用:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること
管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。
引用:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
企業では「管理職」という地位にある労働者でも、職務内容や権限、勤務態様、待遇が基準を満たしていなければ「管理監督者」には当たりません。
その場合、労働時間と休日に関する規定は一般職員と同じように適用されます。
深夜割増賃金だけでなく、時間外労働や休日出勤分の割増賃金も支払う必要があります。
まとめ:深夜労働をさせたら深夜割増賃金の支払いを忘れずに
最後にこの記事のおさらいをしましょう。
深夜割増賃金の定義は以下の通りです。
- 深夜割増賃金とは、深夜労働をした労働者に支払う割増賃金のこと
- 午後10時~午前5時の間に働いた場合、時給の25%以上を上乗せして支払う
深夜割増賃金の計算方法はこちらです。
- 深夜労働の場合
→時給×0.25×労働時間 - 時間外労働+深夜の場合
→時給×(1.25+0.25)×労働時間 - 法定休日+深夜労働の場合
→時給×(1.35+0.25)×労働時間
日給制の場合、まずは1時間あたりの賃金を算出してから割増賃金を計算します。
月給制の場合、最初は1ヶ月の平均所定労働時間を算出してから、時給、割増賃金を計算します。
一般社員だけでなく、管理職(管理監督者)が深夜労働を行った場合でも、深夜割増賃金を支払わなければいけません。
以上の点をふまえて、経営者や給与担当者は深夜割増賃金を正しく計算して、対象の労働者に支給してください。
最後に、飯田橋事務所では給与計算代行を承っています。クラウドソフトを使用し、深夜労働や時間外労働の割増賃金もすべて計算いたします
「数字が苦手だし、労働基準法に則った正しい賃金計算ができているか自信がない…」という経営者の方は、ぜひ当事務所をご利用ください。
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