【今すぐ解決】兼務役員が雇用保険に加入するための3つのポイント

「役員と部長を兼務している従業員がいるけど、雇用保険の取扱いはどうなるのだろう?」

経営者の方で、こんな悩みを抱えていませんか?

従業員が役員になったら、雇用保険の被保険者資格は喪失します。

しかし「兼務役員」なら、条件を満たした場合には被保険者になることができるんです。

兼務役員が雇用保険に加入するために、この記事では以下の内容を説明します。

  • 兼務役員が雇用保険に加入するための3つのポイント
  • 雇用保険手続き方法
  • 「兼務役員雇用実態証明書」の書き方

この記事を読むと会社は兼務役員の手続きを正しく行えるので、ぜひ最後までお読みください。

目次

兼務役員とは

兼務役員とは

兼務役員の意味と役職

兼務役員とは、簡単に言えば従業員として働く役員のことです。

役職では部長、課長、支配人、工場長などを指します。

ただし、本部長や事業部長など、特定の部署を取りまとめる役員は兼務役員に該当しません。

さらに厚生労働省は、兼務役員について以下のように述べています。

イ 取締役及び社員、監査役、協同組合等の社団又は財団の役員

(イ)株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない。取締役であって同時に会社の部長、支店長、工場長等従業員としての身分を有する者は、報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り被保険者となる。

(ロ)代表取締役は被保険者とならない。

(ハ)監査役については、会社法上従業員との兼職禁止規定(会社法第335条第2項)があるので、被保険者とならない。ただし、名目的に監査役に就任しているに過ぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合はこの限りでない。

(ニ)合名会社、合資会社又は合同会社の社員は株式会社の取締役と同様に取り扱い、原則として被保険者とならない。

(ホ)有限会社の取締役は、株式会社の取締役と同様に取り扱い、会社を代表する取締役については、被保険者としない(平成18年5月1日の会社法の施工に伴い、施行日後は、新たに有限会社を設立することはできないこととなったが、施行日前に設立された有限会社は、引き続き、その商号中に有限会社の名称を用いることとされている)。

一部抜粋:「雇用保険に関する業務取扱要領 20351(1)労働者性の判断を要する場合」(厚生労働省)(000969952.pdf (mhlw.go.jp)

兼務役員が雇用保険に加入するための3つのポイント

兼務役員が雇用保険に加入するための3つのポイント

通常、役員は雇用保険に加入できません。

しかし、雇用関係が明確に存在している場合に限り、「労働者としての性格が強い兼務役員」なら、労働者の部分について雇用保険の加入が認められます。

では「労働者としての性格」は、どこで判断されるのでしょうか?

次の3つのポイントが、大きな判断材料になります。

  1. 役員報酬より従業員給与が多い
  2. 代表権と業務執行権を持っていない
  3. 就業規則が適用されている

これら3つのポイントを満たしているか、経営者は加入申請前に確認してください。

ポイント①:役員報酬より従業員給与が多い

兼務役員の給料は、役員報酬と従業員給与の2つが支払われています。

労働者性が認められるには、役員報酬よりも従業員給与が多くなければいけません。

労働者としての役割や業務負担が大きくなければ、労働者性が強いと見なされないからです。

ポイント②:代表権と業務執行権を持っていない

役員としての権利の有無も、労働者性の判断に大きく影響します。

具体的には代表権と業務執行権です。

これらの権利を兼務役員が有していると、「労働者としての性格が強い」とは判断されません。

ポイント③:就業規則が適用されている

最後のポイントは、他の従業員と同じように就業規則が適用されていることです。

就業規則は従業員に向けて定められたものなので、役員には適用されません。

しかし、労働者として就業規則が適用されていれば、労働者性が強いと見なされます。

兼務役員の雇用保険手続きに必要なもの

兼務役員の雇用保険手続きに必要なもの

兼務役員が雇用保険に加入するには、管轄のハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」を提出して手続きをする必要があります。

証明書は労働局のサイトでダウンロードできるので、印刷して必要事項を記入してください。

また、労働者性があるか判断するため、いくつかの資料が添付書類として必要です。

添付書類として求められる代表的な書類は、以下のものになります。

  • 就業規則、賃金規定
  • 資格取得届
    (入社と同時に役員に就任した場合)
  • 資格取得確認通知書
    (すでに取得済みの従業員が役員に就任した場合)
  • 人事組織図
    (役員就任時のもの)
  • 取締役会議事録
    (役員就任時のもの)
  • 定款
    (代表権・業務執行権の有無を確認できるもの)
  • 出勤簿
    (役員就任前1ヶ月分と就任後2ヶ月分)
  • 賃金台帳
    (役員就任前1ヶ月分と就任後2ヶ月分)
  • 役員報酬規定、報酬額の根拠
    (対象者の役員報酬額が明記されたもの)
  • 申立書
    (他の書類で確認できない場合に提出)

どの資料が添付書類として求められても慌てないように、すぐに提出できるように準備しておきましょう。

【手続きに必要】兼務役員雇用実態証明書の書き方

【手続きに必要】兼務役員雇用実態証明書の書き方

兼務役員雇用実態証明書の書き方を、項目ごとに説明します。

下記のリンクには記入例が紹介されているので、そちらも参考にしながら記入してください。

記入例は3ページ目に紹介されています。

①役員提出時必要書類 (mhlw.go.jp)

対象の兼務役員について

1.氏名

兼務役員の氏名を書きます。

2.性別

兼務役員の性別を丸で囲みます。

3.生年月日・年齢

兼務役員の生年月日と年齢を記入します。

4.被保険者番号

兼務役員の雇用保険番号を記入します。
雇用保険被保険者証で確認できます。

5.適用事業所番号

雇用保険適用事業所番号を記入します。
適用事業所台帳で確認できます。

6.事業所名

会社名を記入します。

服務態様

1.就業規則の適用状況

「1.全部適用」「2.適用無し」「3.一部適用」のいずれかを選びます。3を選んだ場合、適用していない規則の条項を記入します。

2.出勤義務

「1.常勤」「2.非常勤」のどちらかを選びます。勤務時間と所定労働時間も記入します。

3.代表権

代表権の有無を選びます。

4.業務執行権

業務執行権の有無を選びます。

5.役員名称

取締役や監査役など、役員としての役割を記入します。

6.就任年月日

役員に就任した年月日を記入します。

7.役員としての担当業務内容(具体的に)

役員の仕事内容を、できるだけ具体的に記入します。

8.前職名称(役員就任前職名)

役員に就任する前の職名を記入します。

9.現職名称

現在の職名を記入します。

10.雇用年月日

現職に就いた年月日を記入します。

11.従業員としての労務内容(具体的に)及び指揮命令権者

従業員としての仕事内容を、できるだけ具体的に記入します。
また、指揮命令権を持っている者の役職も記入します。

給与等

1.役員報酬

役員報酬額を記入します。

2.役員報酬以外の報酬

役員報酬以外の報酬の有無を記入します。

3.決算の際 役員報酬として

役員報酬として計上するか、計上しないか選びます。

4.従業員賃金

従業員賃金額を記入します。

5.上記以外の賃金

賞与などの賃金の有無を記入します。

6.決算の際 賃金・給料として

賃金として計上するか、計上しないか選びます。

その他

1.加入済みの社会保険

すでに加入している社会保険があれば、丸で囲みます。

2.諸帳簿等への登録整備状況

従業員情報を登録している帳簿があれば、丸で囲みます。

3.住所

会社の住所を記入します。

4.氏名

会社の代表者を記入します。

5.電話番号

会社の電話番号を記入します。

なお、提出後に記載内容が変更になった場合は、速やかに再提出してください。

兼務役員の雇用保険料はどうやって計算する?

兼務役員の雇用保険料はどうやって計算する?

兼務役員の雇用保険料は「従業員給与×雇用保険料率」の計算式で求めます。

役員報酬も含めて計算しないよう、注意してください。

雇用保険料率は毎年見直されており、2022年4月1日~2022年9月30日の保険料率は以下のように決定しました。

なおⒶは失業等給付・育児休業給付の保険料率で、Ⓑは雇用保険二事業の保険料率です。

労働者分 事業主分 保険料率
一般 0.3% 0.65%
(Ⓐ0.3%)
(Ⓑ0.35%)
0.95%
農林水産
清酒製造
0.4% 0.75%
(Ⓐ0.4%)
(Ⓑ0.35%)
1.15%
建設 0.4% 0.85%
(Ⓐ0.4%)
(Ⓑ0.45%)
1.25%

2022年10月1日から2023年3月31日までの保険料率は下記の通りです。

労働者分 事業主分 保険料率
一般 0.5% 0.85%
(Ⓐ0.5%)
(Ⓑ0.35%)
1.35%
農林水産
清酒製造
0.6% 0.95%
(Ⓐ0.6%)
(Ⓑ0.35%)
1.55%
建設 0.6% 1.05%
(Ⓐ0.6%)
(Ⓑ0.45%)
1.65%

計算例
(2022年4月1日~9月30日までの保険料率で計算)

ある兼務役員の給料が50万円で、役員報酬が15万円、従業員給与が35万円の場合
※一般の事業とする

350,000×0.3%=1,050(従業員負担分)
350,000×0.65%=2,275(会社負担分)

まとめ:兼務役員は3つのポイントを満たしたら雇用保険に加入できる

まとめ:兼務役員は3つのポイントを満たしたら雇用保険に加入できる

それでは最後に、この記事のおさらいをしましょう。

兼務役員が雇用保険に加入するための3つのポイントがあります。

  1. 役員報酬より従業員給与が多い
  2. 代表権・業務執行権を持っていない
  3. 就業規則が適用されている

上記のポイントと定款や議事録などの資料をもとに、「労働者としての性格が強い兼務役員」と判断されれば、雇用保険の加入が認められます。

兼務役員の雇用保険手続きには、「兼務役員雇用実態証明書」といくつかの添付書類が必要です。

証明書を記入して、ハローワークに提出すれば完了です。

以下の流れで、経営者の方は雇用保険の手続きを行ってください。

最後に、飯田橋事務所では雇用保険の手続き代行や相談を承っています。

「書類の書き方や添付書類に間違いがないか、誰かにサポートしてほしい」と考えている経営者の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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