2019年4月から施行された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が設けられました。
2020年4月より全企業に適用されています。
上限を超えて法律違反とならないように残業時間を管理する必要がありますが、経営者の方はこのような悩みを抱えていませんか?
「残業時間の上限を超えて法律違反とならないために、残業を申請制にして管理しようと考えている。申請制について詳しく知りたいし、ルールの作り方も教えてほしい」
残業申請制とは、従業員が会社(上司)に残業の申請をして、承認された場合にのみ残業が行われる制度です。
失敗することなく残業申請制を運用するために、この記事では以下の項目を解説していきます。
- 申請制度のメリットとデメリット
- ルールを導入するまでの流れ
- 注意点
本記事を読むと申請制度の導入方法が分かり、残業時間を管理しやすくなるので、ぜひ最後までお読みください。
残業申請をルール化する3つのメリット
メリット①:残業時間を管理できて法律違反を防ぐことができる
1つ目のメリットは、時間外労働の上限超えによる法律違反を未然に防ぐことができることです。
申請制を導入すれば、あとどれくらいの残業で上限に達するか、すぐに把握できるからです。
法律では時間外労働の上限は月45時間、年360時間と定められていて、違反した場合は6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。
残業時間が管理できていない会社は、時間外労働の上限を超えて法に抵触する恐れがあります。
申請制の導入によって法律違反を防ぐことができるのは、大きなメリットです。
メリット②:残業代の未払いリスクを回避できる
2つ目のメリットは、残業代の未払いリスクがなくなることです。
従業員の残業時間を把握でき、正しい時間外手当を計算・支給できます。
適切に残業代を支払わないと、従業員が支払いを求めて裁判を起こす可能性があります。
裁判が行われた場合、未払い分の残業代だけでなく遅滞利息も請求されるかもしれません。
残業申請のルール化はそうした未払いリスクを避け、残業代の支払いという経営者としての義務を果たさせてくれる効果を持ちます。
メリット③:従業員の負担を減らすことができる
3つ目のメリットは、従業員の負担を減らせることです。
申請を義務づければ「これは本当に必要な残業なのか?」と上司が判断することになり、部下の長時間労働を防止できます。
部下が抱えている仕事の量や進め方を見直すきっかけにもなり、一石二鳥です。
残業申請をルール化する2つのデメリット
デメリット①:ルールが形骸化する恐れがある
1つ目のデメリットは、ルールが形骸化する恐れがあることです。
制度の目的が正しく社員に理解されていないと、ただ申請してただ承認するという、無意味なルーティーンワークになってしまいます。
ルールが形骸化すれば、目的である残業時間の管理は適切に行えません。
デメリット②:残業時間を管理するための業務が増える
2つのデメリットは、残業時間の管理のために仕事量が増えることです。
会社にもよりますが、残業をはじめとする勤怠管理は労務の仕事になります。
申請制を導入すれば、自動的に労務担当者の仕事量が増えることになります。
残業申請制のルールを導入するまでの流れ
残業申請制のルールが導入するまでは、以下の流れになります。
- 管理職に残業申請制の必要性を説く
- 残業申請のルールと申請方法を決める
- 残業申請書を作る
- ルール化を全社員に伝える
- ルールが守られているか定期的に確認する
それぞれの工程を、具体的に説明します。
①管理職に残業申請制の必要性を説く
残業申請をルール化すると決めたら、まずは管理職に申請制度の必要性を説明します。
残業管理を行う管理職が導入理由をきちんと理解していないと、制度がうまく運用されず、破綻してしまう恐れがあります。
ルールを決める前に、最初は管理職に説明をして、制度の必要性を理解してもらいましょう。
②申請制のルールを決める
管理職の説明を終えたら、次は残業申請のルールを決めます。
ルールがなければ、従業員はどのように申請をすればいいのか戸惑ってしまいます。
最低限、以下の項目は決めておきましょう。
- 誰に申請するか
- どのように申請するか(書面かメールか)
- いつまでに申請すればいいか
- 基準となる承認理由はなにか
- 何十分、何時間の残業から申請が必要か
- 残業時間の上限は何時間までか
- いつから申請制を導入するか
③残業申請書を作る
申請方法を書式で行う場合は、残業申請書が必要です。
ルールの導入後に慌てて作る、とはならないようにあらかじめ準備しておきましょう。
見本として記入例も作ると、ルールの説明をするときに従業員が理解しやすいです。
④申請制の導入を全社員に伝える
導入の準備が整ったら、残業申請制を導入することを全社員に発表します。
一部の従業員には知らされていない、ということが起こらないように朝礼やメールで確実に伝えるといいでしょう。
ただ制度の内容を説明するだけではなく、工程①のように必要性も説けば従業員も制度を受け入れやすくなります。
⑤ルールが守られているか定期的に確認する
申請制を導入しても、それで終わりではありません。
ルールが守られているか定期的に確認します。
ルールを破った残業が行われていては、あっという間に名ばかりの制度になってしまいます。
無承認の残業や、規定時間超えの残業が行われている場合は、その都度注意しましょう。
一度でも黙認したら、ルールを導入した意味がなくなります。
残業時間を適切に管理するために、定期的なチェックは怠らないようにしましょう。
【残業申請ルール化の注意点】承認の基準を共通にすること
残業の可否を決める申請承認者が複数人いる場合、注意点がひとつあります。
承認とする基準を全員で合わせることです。
基準がそれぞれ異なっていたら、同じ理由や状況で残業申請しても、許可を出す人と出さない人に分かれてしまいます。
「〇〇部長はこの理由でOKを出してくれたのに、△△部長は許可してくれなかった」と、従業員から不満の声が上がってもおかしくありません。
申請承認を複数人に頼む場合は、制度の導入前に全員を集めて、承認基準をすり合わせておきましょう。
残業申請ルール化を従業員に納得してもらうために
最初からすべての従業員が、残業申請制を受け入れるとは限りません。
「残業するために許可が必要なんて面倒くさい」と、制度に反対する従業員も出てくるでしょう。
そんな従業員には、ルール化によって従業員が得られるメリットを伝えてください。
会社だけでなく自分にもメリットがあるのだと分かれば、納得して制度を受け入れてくれます。
例えば、従業員には以下のようなメリットがあります。
- 残業時間がはっきり分かるから、それに見合った給与をもらえる
- ムダな残業がなくなる分、早く帰って自分の時間を楽しめる
制度の必要性やメリットが分からなければ、従業員はしぶしぶ申請をするようになり、不満が溜まっていきます。
経営者は従業員に丁寧に説明をして、ルール化を納得してもらいましょう。
まとめ:残業申請をルール化して法律違反を防ごう
最後に、この記事のおさらいをしましょう。
残業申請をルール化するメリットは、主に3つあります。
- 残業時間を管理できて法律違反を防ぐことができる
- 残業代の未払いリスクを回避できる
- 従業員の負担を減らすことができる
反対に、デメリットは以下の2つです。
- ルールが形骸化する恐れがある
- 残業時間を管理するための業務が増える
申請制度のルールを導入する流れは、以下の通りです。
- 管理職に残業申請制の必要性を説く
- 申請制のルールを決める
- 残業申請書を作る
- 申請制の導入を全社員に伝える
- ルールが守られているか定期的に確認する
申請承認を複数人に頼む場合は、承認基準がバラバラにならないように注意しましょう。
以上の点をふまえて、経営者は申請制を導入して残業時間を正しく管理してください。
最後に、飯田橋事務所では規程の作成業務を承っています。
「申請制のルールの作り方は分かったけど、実際に作るとなると自信がないな…」と不安に思っている経営者の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
経営者の考えに沿ったルールをご提案するので、一人で考えるよりも早く、残業申請制を導入できます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。