専門業務型裁量労働制とは?対象職種やメリット・デメリットを簡単に解説

「専門業務型裁量労働制のメリット・デメリットを知りたい」
「専門業務型裁量労働制における2024年の改正内容は?」

専門業務型裁量労働制では、始業・終業時刻などの時間配分を労働者の裁量にゆだねます。

賃金の基準を成果におくことで、生産性の向上を目指せることがメリットです。

しかし導入手続きや給与計算が煩雑化しやすくなるなどのデメリットがあります。

この記事では、専門業務型裁量労働制とはどのような制度なのかを解説します。

2024年の改正内容も解説しますので、専門業務型裁量労働制の導入を検討している場合には参考にしてください。

目次

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制とは、出退勤の時間や仕事の遂行の手段及び時間配分を労働者にゆだねる働き方・制度です。

従来の日本の働き方では、労働時間を基準に賃金を決められるのが一般的でした。

一方で専門業務型裁量労働制では1日のみなし労働時間を設定して、賃金を確定します。

たとえばみなし労働時間が8時間の場合、実労働時間が5時間労働であっても労働者に8時間分の賃金が支払われます。

専門業務型裁量労働制における2024年の改正内容

専門業務型裁量労働制における2024年の改正内容

専門業務型裁量労働制は2024年に改正されています。主な改正内容は、以下のとおりです。

専門業務型裁量労働制における2024年の改正内容
  • 本人同意を得る・同意の撤回
  • 健康・福祉確保措置の強化
  • 対象業務の追加

ここからは、専門業務型裁量労働制における2024年の改正内容について詳しく解説します。

本人同意を得る・同意の撤回

専門業務型裁量労働制に関して、2024年からは本人同意の必須化同意後の撤回が可能となりました。

専門業務型裁量労働制を導入する際には対象の労働者からの同意が必要であり、同意を得られなかった労働者に対する不利益行為を禁止しています。

また同意後の撤回が可能であるため、いつでも本人の申し出によって専門業務型裁量労働制をやめることも可能となりました。

参考:裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です|厚生労働省

健康・福祉確保措置の強化

2024年以降は、専門業務型裁量労働制に健康・福祉確保措置の強化が必要となります。

・対応することが必要な事項
裁量労働制においても労働時間の状況の把握が義務付けられており、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があり、その方法はタイムカード、パソコン等の客観的な方法その他の適切なものである必要があります。
また、上記により把握した勤労状況に応じて使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確に協定することが必要です。

・対応することが望ましい事項
具体的には、労使協定に以下のいずれかを選択し、実施することが適切であり、1、2から1つずつ以上実施することが 望ましいとされています。

【1:長時間労働の抑制や休日確保を図るための事業場の適用労働者全員を対象とする措置】 ① 終業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)
② 深夜業(22時~5時)の回数を1箇月で一定回数以内とする
③ 労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除
④ 連続した年次有給休暇の取得

【2:勤務状況や健康状態の改善を図るための個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置】 ⑤ 医師による面接指導
⑥ 代償休日・特別な休暇付与
⑦ 健康診断の実施
⑧ 心とからだの相談窓口の設置
⑨ 必要に応じた配置転換
⑩ 産業医等による助言・指導や保健指導

対象業務の追加

専門業務型裁量労働制の対象業務・職種の章で詳しくお伝えしますが、2024年以降はいわゆるM&Aアドバイザーの業務が専門業務型裁量労働制の対象業務として追加されています。

専門業務型裁量労働制の対象業務・職種

専門業務型裁量労働制の対象業務・職種は、以下の20業種です。

  1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
  3. 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  10. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  12. 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  13. 銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
  14. 公認会計士の業務
  15. 弁護士の業務
  16. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  17. 不動産鑑定士の業務
  18. 弁理士の業務
  19. 税理士の業務
  20. 中小企業診断士の業務

上記の20業務は専門業務型裁量労働制に適するとして、法令で定められています。

専門的な業務の場合、使用者が具体的な指示をださないほうが生産性が向上する専門的な業務に適すると判断されるためです。

導入を検討する際には、専門業務型裁量労働制の対象業務・職種かどうかを確認する必要があります。

また、対象業務をしている方であっても、気を付けなければいけない点は、専門型の対象業務と対象業務とは全く異なる業務(非対象業務)を混在して行う場合は、たとえ非対象業務が短時間であっても、それが予定されている場合は専門型を適用することはできない、とされていることです。

対象業務が大半で、残りは非対象業務をしている、といった場合、専門業務型裁量労働制を否定される可能性があるので注意してください。

参考:専門業務型裁量労働制|厚生労働省
参考:専門業務型裁量労働制の解説|厚生労働省

専門業務型裁量労働制のメリット

専門業務型裁量労働制のメリット

ここからは、専門業務型裁量労働制のメリットを解説します。

人件費の削減につながる場合がある

専門業務型裁量労働制を導入することで、業務効率の生産性向上が期待できます。

仕事が早く終わったとしても収入が減らないため、労働者の意欲向上につながるでしょう。

生産性の向上により、同じ労働時間でもこれまで以上の成果が上がれば人件費の削減も可能です。

能力が高い人材が集まりやすい

専門業務型裁量労働制の採用によって、能力が高い人材が集まりやすくなる効果が期待できます。

自由度の高い働き方である反面、仕事を効率的にこなせる能力がなければ労働者目線でのメリットがないためです。

コンプライアンスの向上

専門業務型裁量労働制を導入によって、柔軟な働き方ができる企業としてコンプライアンスの向上を図ることができます。

専門業務型裁量労働制の導入そのものだけでなく、みなし労働時間による労働時間の透明化によって、過労や違法な長時間労働を減らす効果も期待できるでしょう。

専門業務型裁量労働制のデメリット

専門業務型裁量労働制のデメリット

専門業務型裁量労働制のデメリットを詳しく解説します。

導入時に社内リソースをひっ迫する可能性がある

専門業務型裁量労働制は、導入時に労使間で詳細な取り決めを行う必要があります。

また、人事評価の再構築も必要です。

使用者および労働者のリソースを割くため、業務状況によっては専門業務型裁量労働制の手続きが負担となる場合があるでしょう。

労働環境が悪化する恐れがある

人材が不足しているなどで長時間労働が常習化している職場で専門業務型裁量労働制を導入すると、労働環境が悪化する恐れがあります。

会社側と労働者側に業務遂行にかかる時間に関して認識に対してズレがあれば、双方に悪影響を及ぼすでしょう。

業務上の問題に気付けないリスクがある

専門業務型裁量労働制において長時間労働をしている場合、労働者の能力不足と判断しやすくなります。

業務遂行における致命的な問題を見落としやすくなることがリスクです。

まとめ

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制とは、みなし労働時間を基準にした労働時間にとらわれない働き方です。

労働者に時間外手当を支給することが基本的になくなり、人件費の管理をしやすくなります。

また労働時間の固定化により、業務効率化を図ることもできるでしょう。

一方で専門業務型裁量労働制には、導入時のコストや労働状況悪化のリスクなどもあります。

専門業務型裁量労働制の導入を検討する場合には、自社にあっているかどうかを確認しましょう。

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