ストレスへの気づきと対処~ストレスが私に教えてくれること~

飯田橋事務所 ストレスへの気づきと対処

メンタルヘルスケアは、3つの目的と4つのケアからなっています。

メンタルヘルスケアの目的は、メンタルヘルス不調の未然防止及び健康増進の「一次予防」、メンタルヘルス不調の早期発見と対処の「二次予防」、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援や再発防止の「三次予防」です。

取組としては、労働者による「セルフケア」、管理監督者による「ラインケア」、産業医や人事労務担当者による「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア」の4つのケアがあります。

今回は、一次予防として、労働者による「セルフケア」において重要な「ストレスへの気づきと対処」についてみていきたいと思います。

目次

ストレスの内容

厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関する強いストレスの内容(主なもの3つ以内)として、「仕事の量」が43.2%(前年42.5%)と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が33.7%(同35.0%)、「仕事の質」が33.6%(同30.9%)となっています。

これらのストレスの内容は、社会や職場環境の変化の影響を受け、現状の課題を表していると考えることができます。

【出所】厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査」

ストレスとは

ストレスとは、「外からの刺激による生体側の歪みと、その刺激に対抗して歪みを元に戻そうとする生体側の反応」と呼ばれています。

個人にとって負担となる出来事や要請(歪みを生じさせる力)を「ストレス要因」(ストレッサー)、ストレッサーによって引き起こされる「不安」「緊張」「イライラ」などの心理的側面、「食欲不振」「不眠」などの身体的側面、「ミスやトラブルの増加」「飲酒量・喫煙量のの増加」などの行動的側面の変化を「ストレス反応」(歪んだ状態)と呼びます。

また、すぐに元に戻れる状態を「ストレス耐性」があるといいます。

一般的には、ストレス要因、ストレス反応、元の状態に戻ろうとする反応を併せてストレスと呼んでいます。

ストレス要因(ストレッサー)

ストレス要因

ストレスを生じさせる「ストレス要因」にはどのようなものがあるでしょうか。

例えば、ストレス要因の一つとして、新型コロナウイルス感染症があります。

新型コロナウイルスは、感染防止のためのテレワークの導入など、働き方の変化に大きな影響を与えました。

また、企業の業績にも大きな影響を与え、その影響は労働者の雇用問題にも及んでいます。

さらに、デジタル化の進展が業務フローやコミュニケーションに変化をもたらし、これまでに経験したことのないスピードで環境変化が起こっています。

このような社会的な環境変化は、不安、焦燥、怒り、抑うつといった心の変化を起こす心理的ストレス要因につながりやすいことから、メンタルヘルス対策がより重要となってきています。

さまざまな心理的ストレス要因として、以下のようなものがあげられます。

職場での出来事職場以外での出来事
●仕事上の失敗や重い責任の発生
●仕事の質・量の変化
(長時間労働、IT化など)
●役割・地位の変化
(昇進、降格、配置転換、出向、役職定年など)
●人間関係の問題
(上司や部下との対立、ハラスメントなど)
●事故や災害の体験
(職場の事故によるけがや病気など)
●働き方や組織運営の変化
(成果主義、テレワークの導入など)
●自分の出来事
(家庭内不和、離婚、恋愛問題、病気、住環境の変化など)
●自分以外の出来事
(家族・親族・友人の死や病気、引きこもり、非行など)
●金銭問題
(多額の借金・損失、ローン、収入源など)
●事件・事故・災害の体験(天災、事故、法律違反など)
●個人的な人間関係の問題
【出所】中央労働災害防止協会「事業場内メンタルヘルス推進担当者必携」

心理的ストレス要因の特徴は、その強さを客観的に測ることが難しく、ストレス要因に対するストレス反応の個人差が非常に大きいことです。

ストレス反応

ストレス要因の刺激を受けると、心理的側面に限らず、身体的側面、行動的側面にさまざまな反応が生じます(下図参照)。


【出所】中央労働災害防止協会「事業場内メンタルヘルス推進担当者必携」

ストレス反応は、自分自身ではなかなか気づきにくいものでもあります。セルフチェックとして、下記の簡易ストレスチェックなどを活用することをおすすめします。

厚生労働省:こころの耳「5分でできる職場のストレスセルフチェック」

ストレスに名前を付ける

ストレス要因やストレス反応に気づくための方法の一つとして、「ストレスに名前を付ける」ことを提案したいと思います。

なんとなくストレスを感じたら、そのストレスに名前を付けてみましょう。

例えば、「イライラ」と名前を付けたとします。(ストレスの外在化)

次に、以下のような質問を自分にしてみます。

・その「イライラ」は、どこから、どんなときにやってくるのか。(ストレスの出来事)

・その「イライラ」は、私にどのような影響を与えているのか。(ストレスの影響)

・その「イライラ」は、私にとってどのようなものか。(ストレスの評価)

・「イライラ」の思惑、たくらみ、計画、戦略は何か。(ストレスの正体)

・少しでも「イライラ」が気にならないときはどんなときか。

「イライラ」にどのように抵抗(やり過ごすことが)できたのか。(ストレスへの対処)

・「イライラ」は何を物語っているのか。私の何を反映しているのか。(ストレスの目的)

ストレスに名前を付けることで、そのストレスを自分から切り離す(外在化する)ことができます。

ストレスが自分の中にある(内在化する)と、ストレスの原因や問題が自分(の性格)にあると考えてしまい、自分を責めることにもなりかねません。

それではますますストレスを溜め込み、メンタルヘルス不調に力を貸すようなものです。

ストレスはもともと自分の中にあるものではなく、社会的な環境やおかれた状況、人との関係性(やりとり)の影響を受けて引き起こされるものです。

「何があなたをそうさせているのでしょうか?」

ストレスに現れた心理的・身体的・行動的側面は、あなたの何を表現しているのでしょうか。

それらを目的や意図、希望、価値観を反映したものだという視点で捉えることができれば、ストレスの原因探しではなく、目的(意味)を探求するという生産的なセルフケアにつながるのではないかと思います。

私たちは出来事に対してただ受け身的に影響を受けるだけの存在ではありません。

意識的でないにしろ、その出来事に何かしらの意味づけをしているのです。

イライラからの影響 イライラに対する影響
【出所】筆者作成

まとめ

ストレス反応が持続することが健康障害(疾病)の発生につながると考えられており、ストレスへの気づきに加え、上司や同僚、家族などの周囲のサポート、職場環境改善などが重要となります。

セルフケアは自己完結して終わりではありません。

ストレスに気づいたら、自発的な相談を通して他の人のサポートを受けることにつなげることが大切です。

なぜなら、職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことはできないからです。

職場におけるメンタルヘルスケアにおいては、変わるべきは個人ではなく環境です。

そのためには、セルフケアで終わることなく、職場環境改善の取組につなげることが重要です。

最後に、飯田橋事務所では、メンタルヘルス研修を提供しております。

「一般職員向けのセルフケア研修、管理職向けのラインケア研修を実施したい」と考えている経営者・人事労務担当者の方は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。

研修内容や研修時間は、御社のご要望に合わせて組み立てます。

(ご要望に応じてハラスメント研修とのタイアップ企画も可能です。)

下記は研修内容の一例です。

研修内容例

 ◆一般職員向け(セルフケア)

・メンタルヘルスの基礎知識とストレスケア

・ストレスへの気づきと対処方法

◆管理職向け(ラインケア)

・職場環境等の改善と部下からの相談対応

・職場復帰支援における管理職の役割

お問い合わせは下のボタンからどうぞ。

【引用・参考文献】

中央労働災害防止協会「事業場内メンタルヘルス推進担当者必携」
大阪商工会議所「メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト〔第5版〕 Ⅰ種 マスターコース」 (中央経済社)
厚生労働省「職場における心の健康づくり ~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」

執筆者

特定社会保険労務士 産業カウンセラー  横島 洋志

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