「副業や兼業の解禁を考えているけど、自社や従業員にどんな影響があるんだろう?」
「副業・兼業を認める上で気をつけることはなに?」
「就業規則では、どう規定すれば良いのかな?」
人事・労務担当者の方で、このような悩みを抱えていませんか?
働き方の多様化が進む中で、副業や兼業を認める企業が増えてきました。
「そろそろ自社も副業や兼業を認めるべき…?」と、検討している人事労務担当者の方もいるのではないでしょうか。
しかし、実際に解禁したら企業や労働者にどのような影響が出るのか、就業規則ではどのように規定すればいいのかと、不明な点が多いと思います。
そこで今回は、次の内容を解説します。
- 副業・兼業解禁のメリット・デメリット
- 注意点
- 就業規則の規定例
ぜひ最後までご覧になって、参考にしてください。
副業・兼業とは?2つの違いを解説
そもそも副業と兼業は、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
どちらも本業以外に仕事を持っているという意味ですが、多少の違いがあります。
副業はサブとして別の仕事を行うこと
副業とはメインとなる本業とは別に、サブとして別の仕事を行うことです。
例えば、本業の隙間時間を用いてアルバイトや内職などを行うことは副業に該当します。
本業よりも、労働時間や収入が少ないことが副業の特徴です。
兼業は本業と同等の仕事を行うこと
兼業は、本業以外の仕事を同等に行うという意味です。
例えば会社で正社員としても働きながら、一方で個人事業を経営するという状態は兼業に該当します。
どちらもメインの仕事としてこなすので、労働時間や収入に大きな差がないというケースが多いでしょう。
副業・兼業解禁のメリット・デメリット
副業・兼業解禁を検討する際には、労働者と企業、それぞれどのようなメリットとデメリットがあるのかを、理解しておく必要があります。
まずは、労働者側からのメリットから解説していきます。
労働者側のメリット
労働者側には、次のメリットがあります。
①収入源が増えて余裕が生まれる
副業や兼業で収入源を増やすことで「万が一会社が倒産したり、給料が大幅ダウンになっても大丈夫だ」と心に余裕が生まれます。
収入面でリスク分散できるのは、労働者にとって大きなメリットです。
②新しいスキルや知識を習得できて本業に活かせる
副業・兼業の仕事内容によっては、新しいスキルや知識を習得することができます。
新しく身に付けたスキルを本業で活かすこともできるので、労働者のキャリアアップにもつながるでしょう。
③人脈が広がる
副業・兼業を始めると、クライアントや副業・兼業仲間など人脈が広がります。
本業では出会えなかった人達と交流することで、新しい知識や価値観にも出会えるでしょう。
労働者側のデメリット
次に、労働者側のデメリットを説明します。
①疲労が増える
本業以外に仕事を持つと、心身ともに疲労が溜まりやすいです。
労働時間と休息を調整できないと、健康面に支障が出て挫折する恐れがあります。
②まとまった金額を稼ぐのは難しい
案件によっては、単価が安くてまとまった金額を稼ぐのは難しいことがあります。
高単価の案件を受注しようと思っても、スキルや実績がないと受注できないケースが多いです。
③確定申告をしなくてはいけない
副業や兼業による所得が20万円を超えた場合、確定申告が必要です。
申告書の記入や提出、必要書類の準備まで1人で行わなくてはいけません。
企業側のメリット
副業・兼業を解禁した場合、企業には次のようなメリットがあります。
①労働者がスキルアップする
本業では得られない知識や経験が身に付き、労働者のスキルアップにつながります。
労働者の能力が高まると、生産性や業績の向上につながるでしょう。
②人材の流出を防ぐことができる
労働者が副業・兼業をしたいと思っても、企業が禁止していると離職してしまう恐れがあります。
企業が副業・兼業を許可することで、副業・兼業を希望する人材の流出を防ぐことができます。
③優秀な人材を確保できる
「副業・兼業OK」という自由な働き方を認めている企業は、求職者にとって魅力的に感じます。
結果、求人の応募率が高まって、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
企業側のデメリット
続いては、企業側のデメリットです。
①情報漏洩のリスクがある
副業・兼業解禁で最も懸念されるのは、労働者による情報漏洩です。
企業のノウハウや顧客情報が流出すると、売上や企業としての信頼に関わります。
定期的にセキュリティ教育を行ったり、情報漏洩を懲戒事由として就業規則に定めておくなどの対策が必要です。
②本業に悪影響が出る可能性がある
副業・兼業は休日や隙間時間に行うことが多いです。
そのため、十分に休めずに疲労が蓄積されて、本業に集中できなくなる可能性があります。
ミスや生産率の低下にもつながるので、徹底した労働時間の把握や管理が必要です。
③離職を促してしまう恐れがある
労働者が会社を離職して、副業・兼業の方へ転職してしまう可能性も否定できません。
優秀な労働者を辞めさせないために、企業は対策を考える必要があります。
副業・兼業を認めるときに注意する3つのポイント
企業が副業・兼業を認める場合は、注意するポイントが3つあります。
- 副業・兼業先の労働時間の把握
- 労働者への安全配慮義務
- 秘密保持義務、競業避止義務
それぞれ詳しく解説していきます。
ポイント①:副業・兼業先の労働時間の把握
労働基準法第38条第1項では、労働時間について次のように定められています。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
引用:労働基準法第38条第1項
つまり「本業と副業・兼業の労働時間は通算しなくてはいけない」ということになります。
そして、通算した総労働時間が1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた場合は、割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金を支払うのは、後から労働契約を結んだ事業主です。
そのため、自社が後から雇用契約を結んだ場合は、労働者が法定労働時間を超えたときに、割増賃金を支払わなければいけません。
適切に割増賃金を支払うために、労働者から労働時間を申告させて、正確に把握する必要があります。
また、労働時間を把握することで、長時間労働による健康障害の防止も期待できます。
ポイント②:労働者への安全配慮義務
事業主には、労働者の安全や健康が損なわれないように必要な配慮をする、という義務が課せられています。
副業・兼業が労働者の健康に支障が生じないように、次のような対策が必要です。
- 就業規則や労働契約で、長時間労働等によって支障を来した場合は、副業・兼業を禁止(制限)できるように定める
- 副業・兼業の内容が労働者の安全や支障が生じないか、届出の際に確認する
- 定期的に副業・兼業の状況を労働者と話し合う
- 状況に応じて健康診断等の健康確保措置を実施する
ポイント③:秘密保持義務、競業避止義務
秘密保持義務とは「事業主の業務上の秘密を守る義務」、競業避止義務とは「在職中に事業主と競合する業務を行わない義務」のことです。
どちらの義務も労働者に課せられていますが、万が一義務違反した場合は、企業に大きな悪影響を与えてしまいます。
義務違反というリスクを回避するために、企業は次のような方法で注意喚起することが大切です。
- 就業規則等で、情報漏洩もしくは競合する業務に就く場合は、副業・兼業を禁止できるように定める
- 秘密保持、競業避止に関する誓約書を提出させる
副業・兼業に関する就業規則の規定例
厚生労働省は2018年1月、兼業・副業の規定をモデル就業規則に追加しました。
副業・兼業に関する規定を定めるときは、こちらの例を参考にすることができます。
(副業・兼業)
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③企業の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合
引用:モデル就業規則(厚生労働省)
また、兼業・副業の規定に違反した労働者に対して、どのような処分を行うのかも就業規則に定めておきましょう。
ルールが明確に決められていないと、規定違反した労働者に適切な処分が行えません。
なお、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則を新たに作成もしくは変更した場合は、労働基準監督署に届出を行う必要があります。
届出の流れは、こちらの記事で紹介しているので参考にしてください。
まとめ|副業・兼業に関する就業規則については飯田橋事務所へ
それでは最後に、本記事のおさらいをしましょう。
- メリット
-
- 労働者がスキルアップする
- 人材の流出を防ぐことができる
- 優秀な人材を確保できる
- デメリット
-
- 情報漏洩のリスクがある
- 本業に悪影響が出る恐れがある
- 離職を促してしまう恐れがある
- 副業・兼業先の労働時間の把握
- 労働者への安全配慮義務
- 秘密保持義務、競業避止義務
副業・兼業を認める企業は増えつつあります。
しかし、実際に副業・兼業を認める場合は、企業や労働者にどのような影響を与えるのか、どのような留意点があるのかを把握する必要があります。
もし「副業・兼業解禁」を進める上でご不明な点などがありましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。